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12/13

冬・歴代の記録

石積みが止まった日が来ると、分かっていた。


灰が、手の甲に落ちた。


炉の火が弱まっている。グランが鏝で炉の底を突いた。灰が舞い上がり、カイの手の甲に降りてきた。粉のように軽かった。払う前に消えた。指の感覚が鈍い——今朝から続いている。石灰モルタルの樽を開けたとき、表面に薄い氷が張っていた。指で割ったが、刺すような冷たさが入り込んだまま戻らなかった。


外では雪が降っている。


昨日から降り続けている雪だった。積もる雪ではなく、降り続ける雪だった——粒が細かく、地面が固まるより先に凍りついた。移住者の一人が昼前に指が動かなくなると言った。あと三週間分の石材があった。使えなくなった。


石積みを止めた。


三ヶ月続けた第一城壁の石積みが、その日の午後から止まった。




炉の火が回復してきた。


石の部屋が暖かくなった。暖かい、と感じる前に気づいた——壁の石が温度を持っていた。一度温まれば長く熱を返す——グランがここを選んだ理由が分かった。


「石積みは春まで止めだな」


グランが炉の前に座った。ショールを肩に掛けていた。寒い日はいつもそうだった。膝を庇いながら長腰掛に腰を下ろした。老人の重さが腰掛に入った音がした。


「石灰モルタルが凍結します。三月は無理です」


「分かっている」


グランは炉を見ていた。火が赤く安定している。「木工はできる。建具、窓枠、宿屋の内装。記録の整理もある」


「記録の整理」


「お前の書類だ。工程記録、材料の入出庫、通行料の収支。積み上がっている」


カイは炭筆を置いた。図面から手を離した。


「ヴィルが管理しています」


「ヴィルの帳面と、現場の記録は別じゃ。材料の使用量、作業日数、人員の割り振り。お前が現場で記したものが、書類になっていない」


「書きます」


「今日から書け。冬の間にやれ」


グランはそれだけ言った。炉を見た。カイも炉を見た。


外の雪の音は聞こえない——石の壁が全部遮断していた。




ヴィルが昼過ぎに来た。


帳面を抱えて入ってきた。前髪を払った。部屋の暖かさに気づいて、入口で少し止まった。


「石積み、止まりましたね」


「止めました」


「分かっています」ヴィルは帳面を開いた。「今月の収支、報告します。橋の通行料が積み上がっています——先月より二割増しです。商人が増えたので。木材の売買も動いています。鍛冶師の親父さんとの取引、今月三回目でした」


「良い」


「木工班の人員ですが——石積みが止まった分、どう動かしますか」


「建具に回します。宿屋の窓枠が二棟分残っています。倉庫の扉も三枚」


「分かりました」ヴィルは書き込んだ。「フォルスさんに伝えます。基礎の再開は春まで待てるので、木工に移ってもらう形で」


グランが炉から目を上げた。「木工はフォルスに任せろ。わしは口だけ出す」


「了解です」ヴィルは帳面をめくった。「あと、移住者から要望が来ています。炉がある集会所を作れないか、と」


カイは炭筆を持ち直した。設計の線が頭の中で走った。集会所——床面積、炉の数、煙突の配置。北側の斜面に近い。


「場所を確認します。設計は来週」


「つまりこういうことですよね——今は集会所の場所を決めるだけで、図面は来週ということで」


「そうです」


「分かりました」ヴィルは帳面を閉じた。「それと——カイさん、昨日の夕食も食べてないですよね」


「食べました」


「何を」


「……パンです」


「一枚ですか」


カイは答えなかった。


「つまりカイさんはパン一枚で城壁を設計し続けているわけですよね」ヴィルが言った。笑っていなかった。


グランが鼻から息を出した。「飯を食え。冬は体が冷える。食わなければ指が動かなくなる」


「分かっています」


「分かっていればやれ」


グランは立ち上がった。部屋の奥の棚へ行った。陶器の鍋を出した。炉の上に乗せた。音がした。戻ってきて腰掛に座った。それだけだった。説明しなかった。


ヴィルが出ていった。


炉の上の鍋が温まる音が聞こえた。




夕方になった。


鍋を食った。グランが横で炉を見ていた。カイは飯を食いながら、図面を引いていた。


「飯を食いながら図面を引くな」


「食っています」


「食いながら手が動いているのは飯を食っているとは言わん」


カイは炭筆を置いた。鍋を飲んだ。熱かった。石の器の熱さが手のひらに入ってきた。久しぶりに何かが中から温まる感覚だった——指先まで届いた。今朝から鈍かった指が、少し戻ってきた。


窓の外が暗くなっていた。雪はまだ降っていた。


グランが長い間、炉を見ていた。膝に手を当てていた。老人の静けさだった——考えているのではない。何かを思い出しているときの静けさだった。


「グラン爺」


「なんじゃ」


「なぜ何十年も放置されていたのか」


グランは動かなかった。


「ハルム丘陵の話か」


「歴代の管理人が全員失敗している。記録がある。全員、途中で止まっている。橋が落ちたのも今回が初めてではないはずです」


「そうじゃな」


「理由があります」


グランは炉から目を上げた。老棟梁の目が細くなった——何かを測っている静けさだった。話すかどうか、測っていた。


「お前はどこまで知りたい」


「全部」


しばらく、グランは黙っていた。炉の火が揺れた。


「わしが知っている分を話す。全部かどうかは分からん。わしも知らないことがある」


「聞きます」


グランは膝の上に手を置いた。曲がった右手の人差し指が、腿の上に乗っていた。


「三十年前に来た管理人の名前はルーヴという男だった。帝都から来た。真面目な男で、最初の年は村人とも上手くやっていた。わしも若かった。ルーヴの普請を手伝ったことがある」


カイは炭筆を持たなかった。聞いた。


「二年目に入ったとき、物資が来なくなった」グランの声が低くなった。「王城が管理人に定期で送る荷車がある——石材・食料・賃金の元手が入っている。それが来なかった。三ヶ月目のことじゃ。一度目は遅延だと思った。次の月も来なかった。ルーヴは王城へ使いを出した」


「使いが戻ってきたとき、何も変わらなかった」


「そうじゃ。書状一枚で終わった——調査中、とだけ書いてあった。荷車も来なかった。補給が来なければ石材が買えない。職人に払いができない。翌年、ルーヴは去っていった」


炉が低く鳴いた。カイは一度だけ言った。「十五年前も同じか」


グランが続けた。


「その次の管理人はカッソという男だった。十五年前だ。今度は最初から補給を信用せず、自分で商人から物資を調達しようとした。それでも二年目の三ヶ月目に、商人からの物資も届かなくなった。商人に圧力がかかったと後で分かった。カッソも去った」


カイの頭の中で年表が縦に並んだ。


「全員、同じ月に止まっている」


「わしが知っている分は全員そうじゃ。三ヶ月目の補給。途中まで動いて、三ヶ月目で止まる」


「人為的です」


グランは答えなかった。炉を見た。火が赤く静かだった。


答えは聞かなかった——答えは出ていた。




「親父も同じだったか」


グランの手が止まった。


鏝が炉の縁に当たった。金属の音がした。


長い沈黙があった。石の壁が熱を返していた。外の雪はまだ続いていた。


「同じだったな」グランは炉を見たまま、ゆっくり低い声で言った。「センが来たのは二十年前じゃ——お前の父親じゃ。上申書を作るために来た。正式な視察だった。三ヶ月より前に出発して王城へ戻った。書類を出した。それが握りつぶされた。センは左遷になった」


カイの手が止まった。炭筆の先が、紙の端で静止した。


センという名が、頭の中で一度鳴った。記録の中の名前ではなかった。知っている名前だった——ずっと知っていた名前だった。処理しようとした。できなかった。石の器の縁を握った。熱さが手のひらに入ってきた。それだけが分かった。


「上申書と補給の打ち切りは別の話じゃ。センの場合は書類を出したことで終わった。管理人が送られてくる前に終わった——そういう意味では違う。だが結果は同じじゃ」


「誰がやっているのか」


「わしには分からん」


グランは鏝を置いた。


「分からんが——三十年前も十五年前も今もハルム丘陵が放置されているのは、誰かが放置したいからじゃ。偶然ではない」


カイは炭筆を持った。


だが図面は引かなかった。炭筆の先を机の端に当てたままにした。頭の中で年表が動いていた——橋の設計図ではなく、時間の線だった。三十年前のルーヴ。十五年前のカッソ。それぞれ、三ヶ月目に補給が止まった。父・センは上申書を出して左遷になった。歴代の管理人が全員、第三の月のどこかで止まっている。


点が並んでいた。線になりかけていた。


誰の線かは、まだ見えない。


「グラン爺」


「なんじゃ」


「記録はどこにあります。歴代の管理人の書類」


「村の倉にある。昔の書類は何でも倉に放り込んであった。わしが整理したことはない。お前が読めばいい。鍵は村長が持っている」


「明日、確認します」


「雪が続くかもしれんぞ」


「関係ない」


グランは短く鼻から息を出した。それが了解だった。止めるつもりがない、という意味の沈黙だった。




夜になった。


グランが先に眠った。炉の火は落としていない。一晩保つように入れてある。石の壁が引き続き熱を返す。部屋は暖かかった。


カイは机の前にいた。


炭筆で工程記録を書いていた。グランに言われた通り——現場の記録を書類にする。材料の使用量、作業日数、人員の割り振り。橋の再建から始まって城壁北角の基礎修正まで。現場で刻んだ木片メモがある。それを書類に清書するだけだった。


書きながら、頭の別の場所で年表が動いていた。


三十年前。十五年前。二十年前。


三ヶ月目に止まる補給。左遷になった父。握りつぶされた上申書。


書類が倉にある。


工程記録の最後の行に数字を入れた。炭筆を置いた。


外では雪が続いていた。石積みが止まった第一城壁が、雪の下にある。春になれば再開する。それまでに木工を終える。建具を入れる。倉の書類を読む。


炭筆をまた持った。


紙の端に小さく書いた。三ヶ月目、と。


その下に線を引いた。


目を上げた。北の壁を一度だけ見た。


声には出さなかった。


問題ない。来週には終わる。


あとがき: |

第12話です。冬が来て石積みが止まりました。炉のそばでグランから歴代管理人の話を聞くカイ——静かな場面ですが、「なぜ何十年も放置されてきたのか」というミステリが動き始めます。ルーヴとカッソという名前を出しましたが、全員が三ヶ月目に補給を打ち切られていた。人為的だ、とカイは気づいています。ただ誰がやったかはまだ見えていない。次話で倉の書類を読みます。ここまで読んでくださりありがとうございました。

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