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王の木剣  作者: 蒼空


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第十話  遠い背中

第十話です。

朝早く。


兵舎に鐘の音が響いた。


 


ガン。


 


ガン。


 


ガン。


 


寝ていた兵たちが飛び起きる。


 


「全員、訓練場へ集合!」


 


兵士の怒鳴り声が響いた。


 


レンたちは慌てて外へ出る。


 


訓練場には既にガルドが立っていた。


 


表情は険しい。


 


「北で小競り合いが起きた」


 


辺りが静まる。


 


「本隊は既に出る」


 


「俺たちは後方支援だ」


 


カイルが小さく呟く。


 


「戦場……」


 


レンは黙っていた。


 


胸の奥が少しだけ熱くなる。


 


戦場。


 


先王が駆けた場所。


 


あの日、鐘が鳴り響いた場所。


 


ガルドは隊を見回した。


 


「勘違いするな」


 


「お前らが英雄になる戦じゃねぇ」


 


「荷物を運び、怪我人を運び、命令に従う」


 


「余計なことをした奴は死ぬ」


 


誰も口を開かなかった。


 


昼過ぎ。


 


レンたちは王都を出た。


 


初めて見る城壁の外。


 


長い街道。


 


遠くには山々が見える。


 


隊はゆっくり進んでいく。


 


途中。


 


後ろから大きな音が聞こえた。


 


馬の足音。


 


兵士たちが道を空ける。


 


本隊だった。


 


美しい鎧。


 


立派な軍旗。


 


整然と進む騎馬隊。


 


落ちこぼれの隊とはまるで違う。


 


「すげぇ……」


 


カイルが目を輝かせる。


 


レンも目で追う。


 


その時だった。


 


騎馬隊の中央。


 


一人の若者が馬に乗っていた。


 


豪華な鎧ではない。


 


だが周囲の将たちが、その若者を守るように走っている。


 


「あれが……」


 


隣の兵士が小さく呟いた。


 


「王子様だ」


 


レンは目を見開く。


 


忘れられた王子。


 


老人が話していた人。


 


若い。


 


自分とそう歳は変わらないように見える。


 


だが。


 


その顔には笑顔がなかった。


 


王子もまた。


 


まっすぐ前だけを見ていた。


 


ほんの一瞬。


 


王子の視線がこちらへ向く。


 


そして。


 


レンの背中の木剣を見た気がした。


 


だが騎馬隊は止まらない。


 


砂煙を上げながら遠ざかっていく。


 


レンは黙ってその背中を見送った。


 


不思議だった。


 


初めて見るはずなのに。


 


どこか懐かしい。


 


雨の日。


 


黒い外套を翻して走っていった先王。


 


あの背中に少しだけ似ていた。


 


ガルドがレンの横に立つ。


 


「あれが今の王だ」


 


レンは驚く。


 


「まだ王子じゃ……」


 


「王冠を被れば王になれるわけじゃねぇ」


 


ガルドは遠くを見る。


 


「国を背負う覚悟を持った時、人は王になる」


 


その言葉の意味は分からなかった。


 


だが。


 


レンはもう一度、遠ざかる王子の姿を見る。


 


そして静かに木剣を握った。


 


いつか。


 


あの背中の隣を走れるほど強くなりたい。


 


初めて。


 


そんな願いが胸に生まれた。

第十話でした。


今回はレンと王子が、まだ言葉を交わさないまま初めて同じ場所に立つ回でした。


ここから少しずつ、「先王の木剣」と「新しい王」の物語が交わっていきます。


読んでいただきありがとうございました。


次回もよろしくお願いします。

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