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40.ナンダッテ?!



 バルは、楽観的な態度を崩さないけれど。


「でもねぇ。国王陛下がどう思われているか」


 きっと本心では嫌だと思うのよ。けれど、問題が解決するまでは情報源である私との婚約を解消する訳にはいかないから口を出さないだけで。うん。


 王族に迎え入れるの、嫌がられるんだろうなぁ。

 婚約解消が決まった時には、みっともなく縋るのではなく、潔く受け入れよう。ずっとそう覚悟をしていた。


「おお、ターシャ嬢。君がラインバルトとの婚約を受け入れてくれて、とても嬉しいよ。君以外を受け入れる気がないと宣言していたからね。助かったよ」


 だから、あの部屋で再び顔を合わせるなり国王陛下から笑顔で抱擁されて、戸惑いしか浮かばなかった。


 しかも、なんだろう。その言葉に引っ掛かりを覚えるんだけど。


「……私は、前からラインバルト殿下の婚約者だったのではないのですか?」


 思わず首を傾げる。すると、すべてを察した様子で、陛下がぐりんと息子の顔を胡乱な目で睨んだ。


「お前。いい加減にしないか。先日は見逃したが、これから夫婦となろうという相手に対して嘘で関係を繋ごうとするのは良くないぞ」


 どういう意味だろう?

 首を傾げつつ、横にいるバルを見上げる。


 そこには、見たことがないほど焦った様子のバルが立っていた。

 初めて見る姿を半眼で見つめる。すると、観念したのか重い口を開いた。



「あー。……ターシャ嬢は、メーダ語の本を持って行った頃はまだ私の婚約者ではなくて、婚約者候補で」


「はぁ?! 候補なだけだったんですか?!」


「ヴァロー侯爵邸を自由に歩き回らせてもらったのは、金の瞳に関することについては侯爵に対しても秘密だからだ。なのでヴァロー侯爵家へは、私の婚約者選定のためだと説明をしていた」


「婚約者選定というのも、口実でしかなかったということ? え、じゃあ婚約者候補ですらなかったってことですよね。なら、私はラインバルト殿下の婚約者じゃなかったんですね」


 すとんと身体から力が抜けてしまったようで、その場でふらついた。

 それをバルが支えてくれた。

 その手に、安心してはいけないのだろう。だって、婚約者というのは嘘だったのだから。


「ちがうっ。ちょっと待って、ターシャ。結論を早まらないで欲しい」


「でも、婚約者ではなかったんですよね。なら、王太子妃にはならなくて」


「駄目だ! 君は私の婚約者だ!」


「嘘つき。たった今、婚約者候補という口実だったと白状したばかりなのに」


 皮肉気に唇がゆがんだ。

 嘘をつかれるのは、堪える。それが、好きになった人ならば、特に。


「嘘じゃない。確かに最初は婚約者候補というのも私の中では調査の口実でしかなかったし、その後、婚約の申し入れをした時には君のご実家から断られた」


「え、家から断ったんですか」


 吃驚だ。王家からの婚約の申し入れって、断って良かったんだ。


「あぁそうだ。ヴァロー侯爵家のご家族一同から『ターシャ自身が望まない限り婚約を受け入れることはできない』『ターシャから望まれる相手になってから申し入れを』と言われてしまったよ。愛されてるね、ターシャ」


「おとうさま、おかあさま……」


「二人のお姉さま方も同意見だったようだよ。愛されているね、ターシャ」


 バルの言葉に、何度もうなずく。嬉しくて、涙が出そう。


「だから、私は頑張った。ヴァロー侯爵家の意向に同意したからね。ターシャ。君に、私を好きになって欲しかった。そうして、両想いになって婚約を結びたいと願っていたからだ。他の、誰でもなく君と結婚がしたい」

 真摯な言葉だった。

 学園で、ずっと笑いかけてくれたバルが浮かんだ。


 はじめて教室に入る際にした挨拶も、殿下だけが笑顔で返事をしてくれたっけ。

 誰か他の人と喋っていても、気が付くと隣にいた。

 生徒会もそうだ。バルから誘われなければ、生徒会なんて近づこうとすらしなかったに違いない。


 忙しいけれど充実した学生生活を私にくれたのは、ラインバルト殿下だ。


「もしかして、ギャレットを探っていた時に、必ず声を掛けてきたのは……」


「あぁそうさ。嫉妬だ。でもそれだけじゃない。あいつの後ろに本当に犯罪組織がないのか、調べさせていた。それがはっきりするまでは、君を近づけたくなかった」


 少し頬を赤らめて早口で告げてくる。言い訳がましい理由もつけている姿は普段のいたずらっ子のような殿下とはまるで違って、どこか可愛らしい。


 あぁ、でも。だからあの日だけは、私が自分自身で決着をつけるまで、ずっと後ろで見守っていてくれたのか。


 怖い組織など後ろには無いと判明したから。


 どこまでも、私のためを思って行動してくれたのだと分かって、胸がぎゅっとなる。なんと伝えたらいいのだろうか。言葉が見つからないし、声も上手く出せない。


 ──でも、だからこそ。こんなにも優しいラインバルト第二王子殿下には、私という女は、ふさわしくない。


 そう告げようと口を開こうとした時、バルが晴れやかに笑った。



「君は私からの告白に、頷いてくれた。だから今の君は、正式に私の婚約者だ。お父上から署名も貰ったから。安心して?」

「いつの間に」


 告白って、ついさっきのことじゃないですか。

 全然安心できなくて、笑うしかない。







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