31.初代国王の御力
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神より使命を授かりし初代国王が、その御力を駆使して洪水がくる直前には治水工事を、ハリケーンがくると報せて人々を避難させて民を守ったという。まるで魔法使いのような三面六臂の活躍をされたという。まるでおとぎ話か冒険活劇のような建国記。
あれが、死に戻ってやり直していたというなら、納得できる。……できるかな?
けれど、私に説明して下さった国王陛下の瞳は、それはもうまるで黄金そのもののような光り輝く金色をしていた。そうして、この金色の瞳の持つ死に戻りの力を信じている静かな瞳だ。
陛下は、人生何周目デスカ?
「私は即位する前だった。だから、君たちが生まれる前のことだよ」
「そ、うなんですか」
あっさりと肯定されて、息が詰まる。
国王陛下はどんな苦しみと後悔を抱えて力を発動させたのだろう。今、これほど落ちついた貫禄ある国王を務めていらっしゃるということは、やり直したその結果に満足できているということかしら。
羨ましい、と心から思う。私は、どうだろう。全部やり遂げることができるだろうか。
「だが、金の瞳とまでは言えなくとも瞳の輝きが増し、言動が変わってしまったターシャ嬢は異国の知識を求め、それを元に領地に新たな産業を興し、保存食などの開発にも貢献。そうして教会に寄付を行い備えを促した直後に、ヴァロー侯爵領は実際に大きなハリケーンに襲われた」
なるほど。ヴァロー侯爵家の備えが上手くいったから速やかに復興できたというだけでなく、父からの情報を受けて王家も動いていたからこそ、教会の建て替えとかスムーズだったのかと納得した。
もっと時間かかると思ったのに、あっという間だったもんね。
「あのー。もしかして異国の薬学の本を取り寄せて下さったのも?」
「そうだ。侍女から相談を受けたヴァロー侯爵家の侍従長から当主に相談があって、その後、王家に話が回ってきた」
「最初っから、全部筒抜けだった!」
図書室への工作とか全然要らなかったあぁぁ! というか、工作の内容全部筒抜けだったりしたりしない?!
ふっと。恐ろしいことに気が付いて、訊ねる。
「あの、もしかして商人のふりをして第二王子殿下が私のお傍にいらしたのは、報告のせいだったんですか?」
「そういうことだね」
「……婚約者というのは冗談でスヨネ?」
「冗談な訳がない」
そこだけは否定してほしかった。頭を抱える。
「先ほども説明したけれど、高位貴族には王族の血が入っている。あまり初代の血を薄めたくはないが、王族間だけで婚姻を交わしていくわけにはいかないからね。その中でも茶色から金色の瞳の者に、この力が引き継がれていると考えられているんだ。でもざっと見回しても、君の他には、金に近い茶色い瞳の者なんかいないだろう?」
「青とか緑の瞳の方が多いですね。あとグレーとか」
なんということだ。あれほど嫌だった、お父様とお母様の青や緑色の瞳ではない、この薄茶色の瞳に意味があっただなんて。
「うんそうなんだ。君の瞳は生まれた時から薄茶色で、金色に近いと言えなくもなかった。だから、君は王族の誰かの妻になることが決まっていた。ただし、誰のかまでは、決まっていなかったんだ」
「それで私は、自分に婚約者がいると教えて貰えなかったんですね」
まさか、前の時もそうだったのだろうか。
お金持ちの後妻とかじゃなくて、あの時も王子様相手だった?
まぁ確かに、嫁入りしたら借金は消えそうよね。うん。この国でもっとも財力あるだろうし。
「……もしかして、私は生まれた瞬間から、誰か王子様と結婚することが決められていたということですか?」
「そうだ」
あっさりと肯定されて涙が出そう。痛いなぁ。心が痛くて苦しい。
どうしよう。ギャレットと町医者の策略に嵌って売り払われた時よりきっつい。あの時は、全部気が付かないふりしてたからね。
でも、あれはあれで正解だったのかも。あれがなければ死に戻りはなかったんだからヴァロー侯爵家はハリケーンの被害で壊滅状態だった。
それはそうなんだけど、もっと前に目覚めておくべきだったとは思う。今となっては、あれを恋とか愛だと評するのは嫌だ。
「でもね、実際に会いにいった先で君はいつだって楽しそうで。傍にいればいるほど、観察とかそういうのはすっかりどうでもよくなっていた。ただ、君のことを、目が追っていた」
こんなところで、突然何を言い出すのか。
「やめてください! か、勘違いしちゃいますよ」
「勘違いじゃない、と言ったら?」
「くっ」
心臓が飛び跳ね、頬が勝手に熱くなっていく。
「ラインバルト。口説くのは、この会議が終わってからにしなさい」
「はい、陛下。失礼いたしました。卒業する日まで、いや卒業してからも頑張ります」
何を頑張るっていうの?! やめて下さい。私の心が乱高下に耐えられません。
「それで。このノートに書いてある、人身売買組織について教えて貰おうか」
甘い雰囲気を醸し出したラインバルト殿下とジタバタと逃れようとする私に、陛下が冷静に会話を戻した。それを受けて、私も表情を引き締める。
「はい。では陛下。愚かな令嬢の見苦しい死に様について、お聞き届けください」
ちらりと王子に視線を向ける。
この話をしたら、淡い恋も終わりを告げることだろう。
それでも、あの男とそれに繋がる町医者とかあの娼館といった忌々しいド腐れ組織をぶっ潰せる。
私は覚悟を決めて話し出した。




