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第8話 推しヒロインの親友



 


「……お、おはよっ! 文くん! 奇遇だねっ!」


 

 朝、ぼっちで登校していると七瀬に後ろからポンと優しく叩かれた。いつもの明るい声だけど、どこかぎこちなさを感じる。


「お、おはよ」


 その様子に戸惑いながらも返事をする。



「もー遅いから、今日は学校に来ないんじゃないかって心配したよ〜」


「え、もしかして待っててくれてたの?」


「えっ……!? あ、いや……別に待ち伏せなんてしてないよ!? ここであったのも偶然、偶然!」


「そ、そっか……」



 そんな必死にならなくても……

 


「昨日はほんと、ありがとね」


「別に、俺は大したことしてないよ。むしろなにもできなくてごめん」


「そんなことないよ!! 授業サボって私を見つけてくれたの、嬉しかったし。夜だって遅くまで通話に付き合ってくれたでしょ?」


「……まぁ、話を聞いただけだったけど」


「それが大事なんだよ。気持ちを吐き出せるのって本当にありがたいことなんだから」


「……そういうもんか」


「そういうものです」



 会話が一区切りした後、なぜか七瀬は静かに俺の方に視線を向ける。



「どうかした?」


「え、えっ?」


「いや、さっきからジッとこっち見てるから……何かあるんだったら聞くけど」



 七瀬は一瞬、躊躇して、遠慮しがちに話しだす。



「……あのさ。私ね、迷ってるんだ」


「迷ってる?」



 こくりと小さく頷く七瀬。



「天馬と花ちゃんと前みたいな関係に戻れるように頑張るか、いっそもう関わらない様にするのか……」



 一度は、振られた天馬との関係に悩んで彼と友達に戻ることを選んだ。だけど、それは天馬が誰ともまだ付き合ってなかったのが大きいだろう。


 でも状況は変わってしまった。



「だから、私がどんな選択をしても……文くんは私のそばにいて欲しい。私から離れないで欲しい」

 


 そう言いながら七瀬はぎゅっと俺の袖を掴む。こんな不安そうな表情をする七瀬は初めて見た。



「……分かった」



 そう答えると、七瀬は心の底から安心したように笑った。


 俺は七瀬とのこの関係がずっと続くとは思っていない。


 ……いつか彼女は新しい恋をして俺から離れていくのだろう。俺はあくまで休み場みたいなもので。


 その時はきちんと祝福しよう。多分、一人になったら発狂するだろうけど。


 そんな未来に思いを馳せながら七瀬と二人で登校した。



 ◇



 昼休み、購買へ向かっていると背後から小走りに駆けてくる足音が聞こえてきた。



「ちょっといい?」


「……え、俺?」


「そーだよ」



 思わず振り返るとそこには月見星乃が仁王立ちしていた。


 月見星乃。あだ名はほしのん。七瀬ひよりの親友。茶色の長いおさげ髪の女の子だ。



「今から購買行くんでしょ。私も行く。入江と少し話がしたいし」


「……え」



 月見さんが俺と話したいこと? え、一体、なにを詰められるんだろう。

 

 この人ちんまりとしてるのにどこか圧があるんだよな。



「この前、ひよりと一緒に授業サボってたでしょ。なにかあったの」



 ……バレてたのか。七瀬とちょっと時間をヅラして戻ったし、みんな七瀬のばかり気にしていたから俺のことなんて誰も見てないと思ってたのに。


 ……どう答えるべきか。そもそも月見さん達は七瀬が失恋したことを知っているのだろうか。



「あー……ひよりが神藤に振られたこととか本人から聞いてるから、そのあたりは気にしなくていいよ」


「あ、そうなんだ……」



 まぁ、それなら……



「神藤と綾部さん。付き合ったんだってさ」



 二人が付き合ったことは隠していないようだったから、言っても問題はないだろう。いずれみんな知るだろうし。



「あー……なるほど」



 その一言で全てを察した月見さん。


 ちょうど購買に着いて、それぞれお昼ご飯を買う。


 さて、話は終わったことだし、解散だな。



「それじゃ、俺はこれでー」


「いや、話はまだ終わってないから」



 この場を離れようとした瞬間、ガシっと手を掴まれて引き止められた。


 えぇ……まだ終わってないの。



「……私は正直、ひよりは神藤ともう関わらない方がいいんじゃないかなって思ってる」



 ……もしかして、こっちが本題か?



「わざわざ辛い思いをして、前みたいな関係に戻る必要なんてないでしょ」



 少し辛そうに月見さんは言った。

 彼女はきっと七瀬にこれ以上傷ついて欲しくないのだろう。



「友達思いなんだね。月見さんは」


「は、はぁ? 別に……そんなんじゃないし、き、きもいっつーの」



 月見さんは顔を赤くしながらプイとそっぽを向く。


 

「実際、月見さんのいう通り、神藤と関わらないのは間違いじゃないと思う。そりゃ、出来たら友達に戻れた方が良いに決まってるんだけど……そうなると確実に七瀬は傷付くことがあるだろうし」


「……そうだよ。だから、わざわざ傷つく様な選択をしなくても」


「でも、それを決めるのは俺たちじゃない」


「…………」


「結局、これは正解のない問題だから。俺たちは七瀬がどちらを選んでも後悔しないように全力で支える。それだけでしょ」


「……ふーん。意外とひよりのこと。考えてくれてるんだ。変態のくせに」


「え、ちょっと待って。変態ってなに?」



 聞きづてならぬ言葉に思わず反応してしまった。もし、何かあらぬ誤解があるのなら解かなければいけない。



「ひよりのスカートとリボンを使って女装してる変態」



 なんてこった。なに一つ否定出来ないじゃないか。



「正直、ひよりが何であんたをあそこまで気に入ってる理由がわからなかったけど……まぁ、なんとなく、分からなくもないかな」


「……みんな同じようなこと言ってるけど、きっと七瀬は別に俺のことなんとも思ってないよ」


「はぁ? 知らないだろうけど、最近のひよりは隙あらば文くん文くんで……」


「あれ……文くんとほしのん? 珍しい組み合わせだね」



 教室に入ろうとすると七瀬が入り口を塞ぐように立っていた。


 しまったと言わんばかりの顔をする月見さん。



「あーえっと、入江とは一緒に購買に行ってただけだから」


「ふぅん? 二人ともそんな仲良かったっけ?」



 珍しく、不機嫌そうな表情を浮かべる七瀬。



「「別にそんなに仲良くないけど……」」



 思わず綺麗にハモってしまい、連動するように顔を見合わせる俺と月見さん。俺たちの様子を見てさらにむっとする七瀬。



「とにかく、こいつとはそんなんじゃないから。ほら、お昼食べるよ」 



 月見さんはツカツカと俺から離れるように歩きだした。


 七瀬も後を追うのかと思ったがこちらに話しかけてくる。



「……文くんはお昼ご飯、今日は誰かと食べたりする?」


「あぁ、実はー」


「嘘はだめだよ」


「……………………………ぼっち飯です」


「そっかそっか……! な、ならさ。私たちと一緒に食べようよっ!」


「え」


「ちょうどいい機会だから文くんのことみんなに改めて紹介しようと思って! ほらほら、こっちだよ〜」


「え」



 なにこれ、展開が早すぎてついていけない……


 いつものように手を掴まれ、連行される俺であった。






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