第4話 推しヒロインと昼休み
七瀬ひよりが振られて半月が経った。
その後、彼女とは知り合い以上・友達未満みたいな関係が続いている。
教室にいる時はよく七瀬から話しかけてもらってはいるが、彼女は彼女のグループがあるのでいつも一緒というわけではない。
彼女との関わりは通話がメインだ。
平日の夜だったり、たまに土日とかも通話がかかって来て、愚痴とか悩みとか色々と話を聞いたりと失恋メンタルケアーを繰り返し……
そして、今。
「……よし! 文くん! わたし、行ってくるよ!」
「はい。行ってらっしゃい」
昼休み、俺は校舎裏で七瀬を見送っている最中だった。
校舎裏の先に中庭のベンチで主人公である天馬とメインヒロインである一花が二人でお弁当を食べている。
俺は昨晩、通話をしている時に彼女に直前まで同行をお願いされた。自分が逃げないように見張り役なのだろう。
神藤に振られてしまったが、七瀬なりに吹っ切って前に進もうとしているのかもしれない。
この半月の努力が身を結んだようで少し嬉しい。
「……あ」
ぴたっと歩みを止めて、七瀬がこちらへ振り向いた。
「……う、ぅぅっ」
おいおい、半べそかきながら戻ってきたぞ。
「……どうかした?」
「二人があーんしながらお弁当食べてた……」
うわぁ……間が悪いなぁ……
幸い、向こうにはバレていなかったようで、もう一度チャレンジすれば問題はないのだが……
「もしかして……あの二人付き合ってるのかなぁ」
「いや……まだそうと決まったわけでは……あれくらい仲の良い友達同士なら普通だよ」
「……そうかなぁ?」
「……そうだよ!」
知らんけど。
「ちょっと待って……わたし、あの空気に一人で突っ込まなくちゃいけないの? めちゃくちゃキツイんだけどっ」
「……えと、吹っ切れたんじゃないの?」
「はい? 全然吹っ切れてませんけど? もしろ現在進行形で引きずってるよ!」
「えぇ……」
「それでも……今ここで頑張らないと……もう二人とは絡めない気がして……それはちょっと嫌なんだ……天馬とは……前みたいに話せるようになりたい」
「…………」
この先、神藤天馬と関わり続けるのか。いっそのこと関わりを失くすのか。
原作の七瀬ひよりが取った選択は後者を選んだ。
それが間違っているとは思っていない。
しかし、目の前にいる七瀬は前者を選ぼうとしている。
なら、それを全力で支えるのが俺の役割だ。
「……わかった。ちょっと待っててくれ」
正直、この手だけは本当に使いたくなかったが……仕方がない。
念のために用意しておいた紙袋。
その中身は長髪のウィッグと用意してもらった七瀬の予備のスカートとリボンと黒タイツ。
俺の秘策とは、俺が女装して七瀬と一緒に主人公とヒロインとの昼食に介入することである。
このまま俺と七瀬が二人の前に現れてしまったら、確実に変な誤解をされてしまう。
だからこその女装なのだ。
近くの空き教室に入り、スカートを取り出す。
……推しヒロインのスカートを履く。
「………………」
完全に一線を越えているが、仕方がない。いや、やっぱりちょっと……
い、勢いに身を任せるんだ。じゃなきゃ冷静になってしまう。そうなったら終わりだ。
一回だけ、そう1度きり。40分くらいで終わる。
そう自分に言い聞かせながらスカート装着し、ズボンを脱いで黒タイツを履きウィッグをつける。
その時間、わずか30秒。
……俺は一体なにをしているんだろう。こんなのただの変態じゃないか。
そんな雑念を振り払い、七瀬の元へ。
「あ、文くん。何やってたのって……ええええええ!」
七瀬が驚くのも無理はない……俺だって驚いてるもの……どうしてこんなことをしてるのだろうって。
「あの……それ私の予備のスカート……」
「大丈夫、ちゃんとタイツ履いてるから」
「いや、そういう問題じゃなく……」
「ほら、行くわよ! ついてらっしゃい! 七瀬ちゃん!」
「ちょっと待って。入江くん。まさかその声のままオネエ語で話すつもり!?」
「大丈夫。今の俺は人と話すのが苦手な人見知りのシャイなピュアガールという設定だから会話は全てスマホの文字で行う」
「無駄に設定が作り込まれてる……」
うだうだと言う七瀬の手を引きながら俺は中庭へと向かった。
さっき七瀬が俺のことを文くんではなく入江くんと呼んで一歩引かれた感じが出て切なくなったが、そんなことは今どうでもいい。いやどうでもよくないけど。
中庭のベンチには仲良さそうにお昼ご飯を食べている天馬一花コンビがいた。
二人はすぐさま俺たちに気付き、驚いたような表情をする。
「あれ? ひより?」
「ひよりちゃん?」
「あ、あはは……二人とも久しぶり! こんなところで奇遇だね!」
慌てたように手を振る七瀬。
「ひより……その子は?」
「あーえっと、この子は同じクラスの友達……入江文香ちゃん! 人と話すのが苦手な人見知りのシャイでピュアな子なんだ」
七瀬はワタワタしながら入江文香ちゃん(俺)の紹介をしてくれた。
「え、えっと。それでね! 二人でご飯食べる所を探してたんだけど。私たちも混ざって良い? 良かったら文香ちゃんと仲良くしてあげて欲しいな」
「もちろん! 入江さんが良いのなら。一花は?」
「私も天馬くんと同じです。文香ちゃん。どうぞこちらへ」
眩しい笑顔と天使のような微笑みこちらを手招いてきた。めちゃくちゃ歓迎してくれるなぁ。この光属性の主人公とヒロイン。
なぜか、一花が俺のことをじっと見つめてくる。
「………………」
「花ちゃん? どうしたの? 文香ちゃんをじっと見つめて」
「へ? あ、いえ……文香さんとはここ最近、どこかで会ったような気がして」
えっ、まさか……バレてる?
「あ、あれじゃないかな? 廊下とかで擦れ違った……とかなら……あるかも?」
七瀬が慌てながらそう言うとああと妙に納得したように一花は頷いた。
あ、危ない危ない。七瀬さんナイスフォロー
気を取り直して、二人の対面に座る俺と七瀬。そして猛然とスマホの画面を叩き、対面の二人の画面を突き出す。
『私、極度のコミュ症で……こうして文字でお話ししているんです』
「そ、そう! だから二人とも文香ちゃんと話すと時は少し待ってあげてね」
『すいません。変なやつですよね……』
「そんなことないです。文香ちゃんはただ、想いを声ではなく、文字にして伝えているだけ。何もおかしいことはありませんよ」
天使さまのような微笑みを向けてくる一花さん。
あかん。ちょっと好きになりそう。
めちゃくちゃ良い子なんだけど……いや、知ってたんだけどね? 改めて思い知らさせたというか……
思わず、照れて隠しから目を逸らしてしまうとコツンと隣の七瀬が俺の靴を蹴ってきた。
その瞬間、七瀬からのメッセージが届く。
『花ちゃんにデレデレするな〜o(`ω´ )o』
…………はい、すいませんでした。




