第38話 推しヒロインの風邪
不在着信
ひよりがメッセージの送信を取り消しました。
ひよりがメッセージの送信を取り消しました。
ひよりがメッセージの送信を取り消しました。
『夜遅くにごめんねー☆ やっぱりなんでもない!! 返信なくても大丈夫だから!!』
……絶対なんでもなくないし、大丈夫ではないやつだ。
スマホの画面を見ながらコーヒーを飲む。
朝、起きたら通知が来ていたのでメッセージを確認したら深夜にひよりから連絡があった。
寝ていたので最後のメッセージから時間が経っているのだが、返事は……したほうがいいだろう。ラブコメを熟読している俺には分かるんだ。
ひとまず、着信を入れてみる。この時間ならおそらく起きているはずだ。
『……あ、もしもし……文……くん?』
「あ、おはよう。ごめん連絡もらってたのに、寝ちゃってて」
『ごほ、ううんっ……私こそごめんっ……ごほ、ごほっ!!』
「……ひより? あの、大丈夫?」
『あはは、ちょっと風邪ひいちゃったみたい……ごほっ! ごほっ!』
ひよりの声にはいつもの活気がなく、弱々しい。スマホ越しからでもそのしんどさが伝わってくる。
『昨日……連絡したのは……夢を見たの……すごく嫌な夢。それで、すごく不安になって……つい電話しちゃった』
確かに、風邪になると悪夢を見てしまうというし……それに病気になったら体だけではなく、心も弱まってしまうから、寂しくなってしまう。誰でもいいから話し相手が欲しかったのだろう。
『うー……あたまいたい……今日は学校休むね……』
「うん……その方がいいよ。熱はどれくらいあるの?」
『さっきはかったら、39度だった……』
結構な高熱じゃないか……
「それ、病院行った方がいいやつじゃない?」
『……いちおう、今からママと一緒に行ってくる。そのあとは一人で大人しくしてるよ』
「うん。それがいいと思うよ」
……………うん? 一人?
「え、ちょっと待って。ひより一人? お母さんは?」
『ママは病院に連れ添いしてくれたあとは仕事にいくから昼からは私一人なんだ……ごほ』
「え、大丈夫? 学校終わったらお見舞いに行くよ。適当に買ってから行くけど、何かほしいものとかある?」
『………………だ、大丈夫だよ。家で一人なのは慣れてるし、私のお見舞いなんか行ったら文くんがみーちゃんに怒られちゃうよ』
「そんなの、俺がひよりの看病に行かない理由にならないよ」
それに、美鈴だってダメとは言わないだろう。むしろ月見さんと3人でお見舞いに行くことを提案するはずだ。
『……どうして、そんなに優しくするの?』
その声は少し震えているような気がした。
……どうして?
「いや、お見舞いに行くくらい普通だと思うけど……?」
『彼女に怒られてでも、ただの友達のお見舞いに来るのは普通じゃないと思うよ……?』
そうか、ひよりの中では俺と美鈴は付き合っていることになってるのか……月見さんにひよりにも事情を説明するように死ぬほど釘を刺されたしここで言ってしまった方が……
あ、いや……流石に美鈴にも話を通しておいた方が良いよな。すでに俺は月見さんと桐藤さんには勝手に事情を説明してしまっている。
これ以上、勝手に話してしまうと『文学……守秘義務って言葉、辞書で調べた方が良いよ』って美鈴に怒られそうだ。
かといって、推しキャラだから!! とは流石に言えないし……
なんか、こう、推しキャラをいい感じに言い換えれないだろうか。
『ひよりちゃんだけ特別ってことですか?』
ふと、以前一花に言われた言葉を思い出した。
「えと……ひよりは俺の…………特別、だから?」
『…………………………それは、恋人のみーちゃんより、特別なの?』
「……え?」
『ごめん、なんでもない……もし、お見舞いに来てくれるのなら文くん一人で来て欲しいな……みんなで来てくれたら嬉しいけど、風邪をうつしちゃうといけないし』
「あ、うん……わかった。何かほしいものがあったら、メッセージくれたらいいから」
『……うん。ありがと。それじゃあ……ごほっ、また放課後』
さて、一応お見舞いに持っていくものについては美鈴や月見さん……あとは天馬や一花にでも相談してみよう。
電話を切って、学校に行く準備を進めた。




