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第32話 なんちゃって告白





「入江が好き。だから私と付き合って」



 昼休み、芹澤さんに屋上へと呼び出され俺は彼女から告白を受けていた。



 我が生涯、初の女の子からの告白。本来ならば泣き喚きながら喜ぶところなのだが……



 告白時のドキドキ感や緊迫した空気はそこにはない。



 芹澤さんもなんか無表情だし、なんかあくびし始めるし、全然告白されてる感じがしない。


 芹澤さんのことだ。この告白にはなにか裏がある……気がする。そして何より、この告白を受けてしまったら取り返しのつかないことになってしまうような気がした。



 ……とりあえず断っておこう。



「えと、ごめんなさい」


「振られちゃった……ショック」



 芹澤さんは棒読みでしくしくと泣いている振りをしながらチラチラとこちらを見てくる。



「……で、なにかあったの?」


「入江、なんか冷静。つまらない」



 ぶーと不服そうな顔をする芹澤さん。


 うん。いつもの芹澤さんだ。



「だって、明らかに本気じゃなかったから……」


「どうして、私が本気じゃないってわかるの? 私、本気で入江のこと好きかもしれないよ?」


「甘く見るなよ。俺が何十回本気の告白をして振られていると思っている?」


「あ、ご、ごめんなさい……」



 芹澤さん、ここ笑うところなんだけど……


 なんかシリアスな空気のまま、芹澤さんは手すりに両肘をついて、景色を見つめる。


 俺は彼女の隣に立って、同じ景色を見つめた。



「……どうして、いきなり告白してきたの?」


「……告白すれば、好きって気持ち、ちょっとは分かるんじゃないのかなって」



 芹澤さんは恋というものにある種の憧れを持っている。本気で人を好きになった七瀬のことを羨ましいとも言っていた。


 しかし



「この前、焦る必要はないって話になってなかった?」


「そうだけど、そうも言ってられない状況になった」


「どういう意味?」



 芹澤さんは俺の質問に考えるポーズをして、じっと見つめる。



「……こっちの話」 



 どうやら事情まで話す気はないらしい。



「……入江は告白する時、どんな気持ちだった?」


「え? そうだな……すっごくドキドキして。言いたいけど言えないもどかしさとか、怖さとかもあったけど、それでも勇気を出して頑張るって感じかな」


「なるほど……私、入江に告白する時、全然そんな気持ちなかった」


「え、あ、そうなんだ……」


「私、入江のこと友達としては大好きだけど、異性としては好きじゃないかも……ごめん、ちょっと考えさせて」


「あ、はい……」



 なんでだろう……振ったはずなのに、なんか振られた感じになってるのは……



「お腹もすいたし、教室戻ろうか」


「うん……私もお腹ぺこぺこ」



 ということで屋上の扉を開けて教室へと歩き始める。



「あら? 入江先輩?」



 廊下を歩いていると生徒会書記の桐藤さんとバッタリ出会った。


 桐藤さんは隣にいる芹澤さんを一瞬、無表情で見つめるといつもの微笑みをしながら聞いて来た。



「もしかして、彼女さんでしょうか?」


「ちがう、ちがう。ただの友達」



 そう笑いながら否定すると隣の芹澤さんが不機嫌そうに靴を蹴ってきた。


 なんで……



「なるほど……つまり、そういうことですか」



 俺と芹澤さんを交互に見ながら納得したように頷く桐藤さん。


 どういうことなのだろうか。



「あ、そういえば……先輩が飲みたいとおっしゃていた紅茶が届きましたので近いうちに生徒会に来て下さいね?」


「え、本当に仕入れてくれたの……? ご、ごめん。気を遣わせちゃって」


「いいえ。入江先輩が生徒会をくる口実にもなりますし♪」


「俺が生徒会室に来てもなにも良いことなんか一つもないと思うけど……」


「そうですか? サボり魔の副会長もすぐ来ますし、私も先輩にあま……頼れまますし?」


「あはは……さすが桐藤さん。おだてるのがうまいね」


「……そう捉えられてしまうのはいささか納得がいかないのですが……すいません。今、立て込んでますのでこれで失礼しますね」


「うん。じゃあ月曜日の放課後に」


「!! ふふ、お待ちしてますね?」

 


 いつもより軽そうな足取りの桐藤さんを見送っていると隣の芹澤さんがジトっとした目でこちらを見ていた。



「……あの子、生徒会書記の子でしょ。すごく可愛いって人気。この前もなんか親しげだった……なんで、ねぇ、なんで」


「まぁ、色々と……ありまして」



 誤魔化ような言い方をした俺に芹澤さんの表情がさらに硬くなる。



「色々って?」


「……何でそんなに気になるの?」


「え? 何でって……」



 じっと、一点を見つめて考えるポーズをする芹澤さん。



「………………やっぱり、必要かも」


「え? なにが?」


「入江、今日の放課後空いてるよね?」


「へ? ま、まぁ。一応空いてるけど」


「私とデートしよう」


「…………また、なんちゃってデート?」


「ただのなんちゃってデートじゃないよ。なんちゃってデート最終確認編。それにたい焼きのお返しもしないといけないし」


「え? ああ……そんなこともあったね」


「スマホ貸して」


「あ、はい……」


 

 俺のスマホを何やら操作している芹澤さん。彼女はさも当然かのように、俺の新しいロックパスワードを解除している。

 

 そういえばさっきひよりも当たり前のように新しいパスワードのロックを解除してたような。


 なんでだろう? 不思議だなぁ。 



「はい。ありがと」



 返ってきたスマホのスケジュールには『入江・美鈴放課後デート』と記載されていた。



「入江……楽しみだね」


 


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