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第17話 推しヒロインの誕生日パーティ





「それじゃあ、ひよりの誕生日パーティをはじめます。かんぱーい」


「「「「「かんぱーい!!」」」」」



 全員が楽しそうにコップを掲げる。


 今、俺たちは芹澤さんの別荘で七瀬の誕生日パーティを開いている。


 そこには天馬と一花の姿もあって、みんなが楽しそうに笑っていた。


 そんな様子を遠目に見ながら思う。


 なんか、トゥルーエンドみたいだなぁ。いや、ある意味そうかもしれない。みんんな一緒にいて、楽しそうに笑い合って……最高の結末と言えるだろう。



「……入江、ありがとう」



 そう声をかけてきたのは天馬だった。

 


「え、あ、ああ……誕生日会に誘ったのは七瀬さんだから……」


「そうじゃなくて……ひよりのこと。色々……さ」


「……それこそ、お礼なんていらないよ。ここまで来られたのは、七瀬が選んで、七瀬が頑張ったからだから」


「……ああ、そうだな」



 会話も上手いこと着地したはずだったんだが、天馬は俺から離れようとせず、まだ何かを言いたそうな雰囲気を残していた。



「えと、どうかした?」



 とりあえず、こちらから話かけてみる。



「その……これからなんだけどさ。入江のこと、名前で呼んでもいいか?」


「へ?」



 まさかの斜め上の発言に思わず目を丸める。


 これはつまり……あれだよな。親しい友達的な。モブキャラの俺と主人公の天馬との関係が一歩先に進んだ的な。


「も、もちろん……天馬君がいいのなら」


「!!」



 今度は天馬が驚いたような表情をする。



「あ、いや……そっちが名前で呼んでくれるのならこっちも名前呼びの方がいいのかなって……えと、その、調子に乗って……スイマセン」


「いや!! そんなことないって!! むしろすげー嬉しい!!」



 天馬は心底嬉しそうに溢れんばかりの笑みを見せた。


 そんなに嬉しそうにしてくれるとなんかテレるな。



「文学!! これからもよろしくな」



 みんなのもとに戻って行く天馬を見ながら、少し嬉しさを感じる。



「天馬くんすごく嬉しそうですね」 


「ぬわっ!?」



 ぬっと現れた一花に思わず変な声が出た。



「天馬くん、すごく心配してたんですよ? もしかしたら、文学くんにあまり良く思われてないんじゃないかなって」


「いや、それはこっちのセリフ……というか、呼び方」


「恋人である天馬くんが名前呼びなら、彼女である私も名前呼びするのは必然ですから」


「……え? あ、は、はい」



 なんだろう、めちゃくちゃな根拠なはずなのに、あまりにも堂々と当然のように言われたから頷いてしまった。



「ですから、文学くんも私のこと。是非、花ちゃんって呼んでください」


「いや、ダメでしょ」



 七瀬とか女の子が呼ぶのならともかく、男が花ちゃん呼びとかキモすぎる……


 

「………………」



 ぷくーと頬を膨らませながら訴えてくる一花さん。


 無言の圧がすごい。



「…………………………花さんで」



 圧に耐えかねて、妥協案を提示する。



「むぅ、わかりました。それで手を打ちましょう」



 渋々といった様子で承諾してくれた。



「……文学くん」


「ん?」


「ありがとうございます。これだけはあなたに言っておきたくて」



 そう言いながら一花は微笑む。



「私にとってひよりちゃんは……初めて出来た友達で……親友で、とても大切な人なんです。ひよりちゃんには幸せになって欲しい」


「……うん」


「ですから、ひよりちゃんと付き合う人は彼女のことを支えることができて、天馬くんと並ぶくらいの素敵な人じゃないと絶対にイヤです」



 求めるスペックが高すぎる。



「……その顔、俺には無関係な話だなって思ってませんか?」



 俺の心を見透かしながら、澄んだ目でこちらをみてくる。



「……まぁ、10人以上に振られている俺には縁のない話でしょ」


「それはその人たちの見る目がなかっただけですよ」



 一花は笑顔でバッサリと断言した。



「私は文学くんのこと、天馬くんと並ぶくらい素敵な人だと思ってますから」


「……はは、ありがとう」


「……文学くん。私の言葉をただのリップサービスだと思っていませんか」



 まぁ……ぶっちゃけ、はい。


 一花の言葉に思わず目線を逸らすとムスっとしながら肘で3回ほどついてきた。



「とにかく、今後もよろしくお願いしますね?」



 そう言い残しながら天馬へ行く一花を見送った直後



「……やっぱり、入江は人たらし」



 今度は芹澤さんが絡んできた。


 なんだ? 今日はやけに話かけられるな。



「人聞きの悪いことを言わないでくれるかな……」


「だって事実だし」



 そう言いながら、芹澤さんは天馬と一花を見つめる。


 仮に俺が人たらしなら、今頃はハーレムでも築いているだろう。残念ながら、ハーレムどころか誰かに好かれる様子すら一切ない。



「………………」


「……え、どうしたの? なんか機嫌悪い?」


「……ぷいっ」



 えぇ……なんかそっぽ向かれたんだけど。



「えぇと……」



 困惑する俺に芹澤さんはそっぽを向いたまま髭メガネを渡してきた。



 ……あっ!! 忘れてた!! そうだ。昨日お揃いで付けようって一緒に買ったんだった。



「……その反応、忘れてたでしょ」


「いや……そんなことは……いえ、はい。すいません忘れてました」



 ここは大人しく、手渡された髭メガネを装着する。



「……ぷっ、くっ、に、似合ってる。よ」


「……馬鹿にしてない?」


「ふっ、ふふっ……し、してないっ」



 笑いながら言われても説得力なさすぎる。


 芹澤さんも続いて髭メガネを装着し、二人でお揃い状態に。



「……楽しいね。入江」


「……うん」


「それに、ひよりもとても楽しそう」



 そう言いながら笑顔の七瀬を見つめる芹澤さんはとても優しい表情をしていて。


 

「……私、楽しいことが好き。大切な人が楽しいと私も嬉しくなる。だから、ひよりが楽しそうで、嬉しいな……ここ最近、しんどそうだったから」



 きっと失恋の件を言っているのだろう。芹澤さんも彼女なりに七瀬のことを心配していたんだ。



「少し、ひよりが羨ましい。誰かを好きになって、真剣に恋をして……だからかな。ふとした時、置いていかれているような感覚になる」



 どこか遠いものを見るよう眼差しで七瀬を見る芹澤さん。


 その横顔は澄んでいて、どこか寂しそうで。


 きっと、俺なんかが考えた慰めや気遣いの言葉では、芹澤さんの心には寄り添えない。


 だから俺は自分勝手に思った想いを言葉に変換して、口を開く。



「別に、焦ることはないと思うよ。恋愛観なんて人それぞれだし。一番大切なのは芹澤さんが恋を楽しむことでしょ?」


「…………そうかもね」



 俺の言葉に芹澤さんは微笑んだ。



「やっぱり入江は面白い男……だね。人たらしだけど」


「……えと、とりあえずありがとう」


「人を好きなるとか、私にはまだわからないけど……わたし、入江と一緒にいる時間は好きみたい」


「えっ」



 からかうような笑顔でそう言い残しながら芹澤さんは去って行った。


 ………………全く、なんてことを言い出すんだ。あんなこと言われたら俺に気があるのかと勘違いするじゃないか。



 前世の頃、同じようなことを言われたことがある。


 その気になってしまい、いざ告白すると『ご、ごめん……そんな気はなかったの』とか気まずい雰囲気で振られた。


 同じ轍は二度と踏むまい。


 ………………いやでも、今回は違うんじゃー



「文くーん」



 俺の思考を遮るように今日の主役である七瀬ひよりが話かけてきた。


 ……もう今日はあれだ。よく話しかけられる日だ。と受け入れている自分がいる。



「……あれ? 文くん、ヒゲネガネつけてる」


「いいでしょ? 芹澤さんとおそろなんだ」


「……へー」



 どこか平坦な声で、七瀬は俺から髭メガネを外して取り上げた。



「え、なんでとるの?」


「んーなんでだろ? 似合ってないからかな」





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