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第1話 振られたヒロインとモブキャラの俺





 


 

「だから、好きって言ったの」



 夕暮れの教室で、漫画やドラマのような告白が目の前で行われていた。


 俺は『てんいち!!』という大人気ラブコメ漫画の世界に転生していたモブキャラである。


 そのことを目の前の光景が改めて思い知らせてくる。

 

 美少女から告白を受けている男が作品の主人公『神藤天馬』


 一途で、真っ直ぐな性格で、鈍感でもない。時には思い切った行動をするナイスガイ。


 読者からも好かれていた光属性の主人公。


 こいつが良主人公であったからこそ『てんいち!!』は人気作になれたのだ。


 そんな主人公に告白しているのがヒロインである『七瀬ひより』


 主人公の天馬とは中学1年生の頃からの腐れ縁であり親友。


 栗色のミディアムヘアーで童顔そして巨乳。明るく天真爛漫で誰にもで優しく、ほのぼのした雰囲気からクラスでも大人気の女子だ。


 そして、この告白シーンを盗み見している俺はモブキャラこと入江文学。


 彼女  なし


 友人  なし


 ぼっち。


 以上。



 本編で名前が出てきたことすら怪しいモブキャラである。



「天馬が花ちゃんのこと、好きなのは知ってるよ。だけど、伝えないと何も変わらないと思ったの」



 『花ちゃん』とはこの作品のメインヒロインである『綾部一花』


 手入れされた艶のある亜麻色のストレートヘアーに整った顔立ちの可憐な少女だ。容姿端麗、文武両道。まさにメインヒロイン。


 『てんいち!!』は主人公とヒロインの一対一のラブコメだ。決して、ハーレムものではなく、主人公とヒロインが両片思いで安心して見ることができる。



「ごめん。ひよりの想いには応えられない。俺は一花のことが好きだから」



 『てんいち!!』は天馬と一花の恋物語。『七瀬ひより』はタイトルの時点で敗北が約束されていたヒロインなのだ。


 

「……別に、今すぐ返事が欲しいわけじゃないよ。これからはー」


「その気がないのに、答えを先送りにするのは違うだろ」



 天馬の言葉に、七瀬ひよりの瞳が大きく揺らいだ。



「待たせてすら……くれないんだね」


「……ひよりの気持ちはすごく嬉しかった。正直、今めちゃくちゃドキドキしてる。でも……だからこそ、俺の気持ちをちゃんと伝えなくちゃだめだって思って」


「………………もーほんと、真面目だなぁ。まぁ、そういうところを好きになっちゃたんだけどね!」


「……照れるだろ」


「私は伝えたよ……次は天馬の番だからね」


「………………」


「せいぜい私を振ったことを後悔するんだねっ!」



 そう言いながら、七瀬は教室から駆け出した。急いで身を隠して彼女の遠くなっていく背中を見つめる。


 走っていくひよりを天馬は追いかけない。


 だからだろうか、俺は七瀬ひよりを追うために走り出していた。

 

 …………俺はモブキャラだ。


 ここにいるのも忘れ物を取りにたまたま居合わせただけ。

 追いかけても何も出来ないかも知れない。むしろ下心を持たれてると警戒されてもおかしくない。



 でも、そんなことは関係ない。


 推しヒロインが泣いている。


 俺がひよりを追いかけるのには十分過ぎる理由だった。


 息を切らしながら、人気のない校舎裏に辿り着くと、そこにはしゃがみ込んでる七瀬ひよりの姿があった。



「うっ……ぐっ」



 体が僅かに震えており、すすり泣きの声が聞こえる。


 さて……どうしよう。

 威勢よく追いかけたのはいいものの、完全にノープランだ。


 自慢じゃないが、俺は生前女の子と付き合うどころか失恋しかしてなかった。


 だからこそ、考えろ。俺は振られた直後、どうして欲しかった?


 生涯フラれ続けた俺だからこそできること。



 一度、深呼吸をして七瀬ひよりに話しかける。



「……あの、大丈夫?」


「……え?」



 七瀬は膝を抱えたまま、ゆっくりと顔をあげた。目が少し赤い。やっぱり泣いていたのか。



「あ、あはは……! だ、大丈夫大丈夫!」



 顔を隠しながら手の甲で目元を拭い、どこかぎこちない笑顔を見せる。


 ……絶対大丈夫じゃないやつじゃん。



「私は大丈夫だから……入江くん。声かけてくれてありがとね」



 あまり接点のないであろう俺の名前を覚えてくれているのか。と妙な感慨を抱きながら、拒絶されているなとも思った。


 口調も声色もとても柔らかいものであったが、この『大丈夫』はこれ以上関与しないで欲しい。そう言いたいのだろう。



 だけど



「こんな時って……一人になりたくなるけどさ。それと同じくらい、一人だと心細いでしょ?」


「………………っ」



 図星と言わんばかりに、七瀬の体が震える。

 その反応を確認した俺はポケットティッシュを3枚取り出し、彼女に見せつけた。



「ピンク色と黄色と水色。お好きなやつをどうぞ」


「………………ありがとう」



 彼女は涙を流し、困ったように笑いながら、ピンク色のポケットティッシュを受け取った。



「う、うぅ…………っ」



 泣きながら、ティッシュで涙を拭きとる。それでも涙は止まらない。



「ティッシュは沢山ある。だから、まだまだおもいっきり泣いていいよ」


「……うん」


 

 こういう時、主人公なら……かっこいいことを言ってヒロインの心を救うのだろう。


 でも俺は主人公ではないから、自分がして欲しかったことをする。


 矛盾する想い。


 一人で居たいと強く思うと当時に……誰でもいいからただ、そばにいて欲しかった。



 子供のように泣きじゃくる七瀬の隣で、俺は黙って座り続けた。



 どのくらい時間が経ったのだろう……七瀬も少し落ち着いて来た。



「ティッシュ……ありがと」


「……うん」



 七瀬から、残りわずかになってしまったティッシュを受け取る。



「その……見られてたよね? 告白するところ」


「え、あ、それは……その……」



 俺の反応で察したのか、七瀬は耳まで赤くしてうわーと悶える。



「カッコ悪いところ見られちゃったなぁ……」


「カッコよかったよ」


「……え?」


「……自分の気持ちを伝えるのはとても勇気がいることだし。あの時の七瀬はカッコよかったよ」


「え……あ、ありがとう」



 照れながら、目を逸らす七瀬。


 ……もしかしたら、俺は今、すごく恥ずかしいことを言ってしまったのかも知れない。



「あーえと……少しは楽になった?」

 


 照れ隠しで言った咄嗟の言葉に七瀬はこくりと頷く。



「うん。思い切り泣いて、色々と吐き出して、心がスッと軽くなった気がする。ありがと、入江くん」


「俺は……乙女心とか一切分からないけど、失恋のアフターケアーについてなら任せてくれ」


「……なにそれ」



 自信満々に言う俺を見て七瀬は気が抜けたように、笑った。


 よかった。やっと笑ってくれた……



 七瀬は思い切り泣いて、心が軽くなって、最後には笑ってくれた。


 転生モブキャラぼっちにしては十分過ぎる成果だろう。



 さて、俺の役割はもう終わったし、このままいい感じに解散をー



「さて、振られたところも見られちゃってるなら、入江くんにはもう少し付き合ってもらおうかな!」



 ……どうやら、まだ、終わりではなかったみたいだ。



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