第12話 接待
「なぜ、こうなった?」
イコルの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった。彼は今、サルティエラの西区にある花街にいるのだ。そこにあるメスムンドという店の中にいる。ひと際巨大な店であった。
他はこじんまりしたもので、数多くの人種の女性が客に買われるのを座って待っていた。
人間はおろか、動物や植物系の亜人に、ガルーダ神国からは鳥の亜人、ヒコ王国からは魚人や人魚、妖精王国の妖精や巨人王国の巨人に小人までそろっている。
彼女らは最初から花を売りに来たわけではない。横暴な夫や奴隷扱いする両親から逃げてきたものが多いのだ。そんな彼女らを保護し、仕事を与えるのが花街の仕事である。
その元締めがツクヨミなのであった。彼女の年齢は60歳。ニホンノウサギの亜人だ。全身の毛は褐色だが冬が近いと毛が白くなるのである。
メスムンドは彼女が経営している店だ。彼女にも子供はおり、他の店を経営したり、警邏隊として働いているが、戦闘力は並だという。それゆえにイザナミの玄孫である人間のヨモツには敵わないそうだ。代わりに花街を守っているのである。
「なぜ、私はここにいる?」
イコルがいるのは高級感のある部屋だ。人が10人乗っても余裕で眠れるスペースのあるベッドに、高級そうな家具が並べられている。壁紙はピンク色で、ランプもピンク色であった。
イコルはベッドの上に乗っており、数人のウサギの亜人たちに囲まれている。
様々な種類のウサギがいた。大柄でふわふわの毛に覆われているアンゴラの亜人。
茶色の毛に小柄なドワーフラビット。
耳が垂れているロップイヤーなど様々だ。
白や茶色、黒の他に、パンダ模様や耳の先が黒いモノなど多種多様である。そんな彼女らは下着だけを身に付けていた。
「決まっておりますわ。あなたにお礼をするためですわよ」
目の前にツクヨミが立っていた。正確には長い耳を足代わりにしている。
「お礼ならサビオとフエルテはどうした。彼らも町を守るために尽力を尽くしたのだぞ」
「それは存じておりますわ。彼らフエゴ教団の司祭とその杖にはヨモツさんが然るべき店で接待をさせております。あなたさまへ誘ったのは、エビルヘッド教団の司祭さまを歓迎するためですわ」
ツクヨミはイコルの目を見てはっきりと答えた。イコルは自分がエビルヘッド教団だと申告した覚えはない。なぜ彼女は理解したのだろうか。やはり顔が怖いから判断したのかもしれない。
「顔ではございません。あなたの背中に背負っているカバン。そこに懐かしいお方の気配を感じたのです。フエゴ教団の信者ではありえないものを」
ツクヨミは指をさす。イコルの背中にはカバンを背負ったままだった。特に外せとは言われていない。
「……わたくしが10歳の頃でございます。当時のサルティエラは傲慢な町でした。塩山を独占しており、他の村に対して無理難題を吹っ掛けた時代があったのです」
サルティエラは塩を各村に販売していたが、必ずしも穏便に済ませていたわけではなかった。中には強引に進め、相手を暴力で屈服させたり、相手に不利な条件で取引した時代もあった。
そのために塩の行商人を忌み嫌う村が多いのである。ツクヨミの父親はイザナミの言う事を訊かず、塩を高値で取引させていた。婚姻として連れてきた村長の娘たちを奴隷としてこき使い、子供を産ませたらすぐに捨てるというありさまだったという。
ツクヨミの母親はウサギの亜人だった。父親は亜人を家畜と思い込んでおり、母親を家畜同様に扱っていたそうだ。本妻は人間で、人間思考主義であり、他の兄弟たちが嫁を大事にすることに腹を立てていた。自分たちは偉いんだからもっと偉そうにふるまえと命じたのである。
その父親の周りには同じような考えを持つ者が集まった。彼らは父親の衣を借りてやりたい放題に遊んでいたという。
イザナミが種族を平等に扱うことに嫌悪しており、彼女を抹殺してサルティエラを乗っ取る計画を立てていたそうだ。
「それを破ったのがエビルヘッドさまでした。父はエビルヘッドさまに生きながら食われましたが、悲しいとは思いませんでした。むしろなぜもっと残酷な方法で殺さなかったのかと非難するくらいです」
エビルヘッドは傲慢な人間たちを食い散らかした。逃げるものは足で踏みつぶし、またある時は人間を掴んでは、逃げる相手の背中に投げつけたりしたのである。
父親の本妻と子供たちは、踊り食いにされた。メインディッシュとして父親は残されたのだ。その後全身の穴という穴から漏れ出たところを喰われたのである。
「傲慢な人間たちを食い散らかしたエビルヘッドさまには感謝の言葉がございません。父はウサギに祭文、ウサギに糞、兎兵法にウサギの股引きといいところがございませんでした。そこを犬兎の争いで数多くいた孫たちが死に絶えたのです。今では孫はスサノオ商会のスサノオと、ガルーダ神国に嫁いだアマテラくらいなものですね」
ちなみにヨモツはアマテラの孫娘だという。その息子の一人がサルティエラに帰ってきて、人間の女性と結婚した後に生まれたのがヨモツだそうだ。
背中でベビーエビルが突いた。確かに50年前に粛清を行ったそうだ。だからといってここで正体を明かすわけにはいかない。イザナミの親族がエビルヘッドに好意的であっても町の人間は嫌っている者も多い。油断して自分が狙われるのはともかく、イコルが巻き添えになるのは避けたいそうだ。
「そんなわけであなたさまからは懐かしい気配を感じました。これは運命だと思います。なのでイコル殿にお礼をしたいのです」
ツクヨミは気配を察しているが、正体を明かすことを期待していないようだ。ここにいるのは彼女の孫たちである。祖母の言葉に首を傾げる者もいるが、中には気づいたものもいるようだ。
だが大事なのはイコルがエビルヘッド教団の司祭であり、間接的にエビルヘッドへのお礼をしたいというのだろう。
「だからといって私に色仕掛けを求めるのはどうかと思うぞ。それにこの顔は怖いしな」
「そんなの関係ないわ。あなたみたいな顔はここでは可愛い類だもの」
「そうですとも。凛々しくて素敵だと思うけどなぁ」
「男の人にかわいいとかはないでしょうに。勇ましい勇者の顔に敬意を表しないとね」
ウサギたちの反応は様々だ。イコルは少し戸惑った。彼とて女性に興味はあるが、ここまで爛れるのは困る。のちにアスモデウス司教にばれたら、馬乗りになった挙句握った拳を何度振り下ろされるかわかったものではない。
「孫たちは全員男を経験しております。どの穴も数多くの修羅場をくぐっておりますわよ。あらゆる部分を武器に変えておりますので、どこを使おうと問題はありません」
「いや、だめだ。そんなことをすれば私は帰国後に殺されてしまう。妹は対抗意識を燃やすかもしれないが、アスモデウス司教が知ったら私は破滅だ!」
「ふむ、普通のプレイでは満足できないと。ではわたくしの食糞を見せて差し上げましょうか?」
うさぎは背を丸め、肛門に口を付けて排泄物を食すことがある。これは未消化になった食物繊維などを含んだ糞を再度食して消化と栄養の再吸収を促すためである。
だがウサギの亜人に必要な行為ではない。なのでツクヨミの言ったことは冗談であろう。その証拠に引きつった顔になったイコルを見て、悪戯っぽく唇で笑っている。
「おばあさまのテクはすさまじいですわよ。若い娘を望んだ客が相手をすると、すぐおばあさまのファンになってしまいますもの」
「わたしたちはまだ技が未熟です。なので数で押し切らせてもらいますわ」
「全身をマッサージして差し上げます。もちろん手だけではありませんが……」
「この鍛えられた筋肉……、撫でまわすのは最高ですね。イコル様を女の子のように扱うのもまた一興かと」
があああああああああああ!!
イコルは叫びながらポージングを取った。耳毛が伸びて足の代わりになる。イコルは壁を破壊すると逃げて行った。女性たちは驚いたが、残念がっているだけで腹を立てている人はいない。むしろかわいい子を見て喜んでいる様子である。
「ふむ。少し刺激が強すぎでしたか。初心者向けにひとりずつ相手をさせるべきでしたね。反省」
ツクヨミはそう言ってうなだれた。
メスはスペイン語で月、ムンドは世界です。
単語の組み合わせで言葉を作るのは楽しいですね。
ウサギが自分の糞を食べるのは本当です。




