第11話 ツクヨミ
「ガハハハハ、シネ、シネ、シネェェェ!!」
ギーガンテはイコルに殴りかかった。手下のモノオンブレ達はこん棒で弱い一般人を率先して殴り殺して遊んでいる。それをサルティエラの警邏隊が守っていた。
手にした槍でモノオンブレたちをつき殺している。さらにモノオンブレが弓矢で逃げる人間の背中を撃ち抜き、ゲラゲラ笑っていた。そこに警邏の石弓が大口に撃ち込み殺す。その繰り返しだ。
「こちらは任せたよ。僕らはモノオンブレたちを倒しているから」
サビオが言った。フエルテはマッスルスキルでモノオンブレ達を倒していく。
ポージングを取り、筋肉を振動させるため若干の隙がある。モノオンブレはそれを見逃さず攻撃を仕掛けてくるが、サビオが対処した。手の平に鉄の粒を乗せ、帯電させた後、銃弾のように飛ばしていく。
弓矢を持つモノオンブレは眉間を撃ち抜かれて絶命した。固まった相手にフエルテのマッスルスキルでなぎ倒すのだ。
「こいつらはクズでござる! 一族の掟を破り、人間の領域に土足で踏みにじる罪人でござる!! なので殺しても問題なしでござるよ!!」
プリンシペが叫んだ。同族だから殺さないわけではない。むしろモノオンブレには掟があり、それを破った物は容赦なく裁きを下されるのである。
イコルはそれを聞かなくても、エビルヘッドから教えられていた。
トルナドやムエルテも同じようなものだが、ギーガンテは命令されてなくても、無断でちょくちょく人間を殺して遊んでいたのだろう。
プリンシペは前からギーガンテを嫌っているようだ。だから個人的な感情が強いのかもしれない。
「ナンダ、メザワリナ、チビダナ。ヒネリツブシテヤルヨ」
ギーガンテが殴りつける。イコルは鼻毛で防御した。
鼻毛だが振動は来る。殴られるたびに鼻に衝撃が走り、脳が揺れた。
ギーガンテは殴り続けた。鼻毛でさばきつつも、まったく無傷とは言えない。衝撃が蓄積してきたのだ。まるで船酔いのような気分になり、足がふらつく。
「ガッハッハ、ムカツクナァ。ソレニアキタゾ、コレデモクラエ」
そう言ってギーガンテは逃げ惑う人間を掴んだ。やめてくれと泣き叫ぶが無視される。
人間を野球ボールのように投げつけると、イコルは思わず殴ってしまった。
べちっと骨が砕ける音と内臓が破裂する音が鳴った。相手はイコルの真正面に落ちた。口から血を吐き、目が飛び出ている。
「ガッハッハ。ヒドイナァ、ニンゲンヲコロスナンテ、イケナイナァ!!」
ギーガンテはゲラゲラ笑う。自分も非道を行っているくせに、ひどい言い草だ。モノオンブレでも最低の種類だろう。プリンシペも顔を真っ赤にして激怒している。
さらにギーガンテは人間を投げまくる。イコルにしても無関係の人を殺すのは忍びない。先ほどは思わずやってしまったが、いつもはやらない。
イコルは投げられた人間を上手につかみ、地面に降ろした。
だがギーガンテは人間を投げ続ける。それをうまくつかむが、今度は小さな女の子を投げてきた。
イコルは丁寧に受け止めるが、ギーガンテはその腹に人間を投げつけた。
女の子は受け止めたが、ぶつけられた衝撃で吹き飛んだ。
「ガッハッハ! バーカ、バーカ!! マッタクニンゲンハ、スゴイバカダナ!! サテ、トドメヲサスカナ―――」
ギーガンテが一歩踏み出そうとしたが動かなかった。まるで石像のように固まってしまったのだ。
「ナッ、ナンデ!?」
ギーガンテが慌てだした。自分が一方的に殺戮を楽しんでいたのに、微妙だに動けないのはどういうわけだ?
「……俺の毛だよ。俺の耳毛は見えない糸になって地面を這い、お前さんを縛り付けていたのさ」
よく見るとギーガンテの全身は一本の髪の毛に縛られていた。
イコルは鼻毛を操りつつ、耳毛も同時に操っていたのだ。
耳毛の束縛陣。それがイコルの秘策である。
「さて、お前さんにはあの世に旅立ってもらおうか。お前みたいな奴が生きていると真面目な人たちに迷惑がかかるからな」
イコルが冷たく答えた。ギーガンテは真っ青になる。
「ヤッ、ヤメテクレェ!! オレハシニタクナイ、シニタクナインダァ!!」
「今まで好き放題に生きたんだ。その報いが返ってきただけの話さ」
「ヤメテクレェェェ!!」
ギーガンテは懇願の声を上げた。だがみしっと身体が軋むと、一瞬でギーガンテは輪切りになった。血霧が舞うと、ぼたぼたと死骸が地面に落ちる。
その表情は恐怖で歪んでいるが、今までこいつに痛めつけられ、命を無残に散らされた者にしてみれば、気分爽快、溜飲が下るというものだ。
フエルテたちのほうは片付いていた。あとは警邏隊が片づけをするだけである。しかしイコルの周りに一般人が取り囲んでいた。彼らはイコルに殺意を抱いている。
「……こいつのせいでお父さんは死んだんだ。お父さんを返せ!!」
「もしかしてこいつは猿どもの仲間じゃないか? 自分の悪行を隠すために仲間を殺したんだ!!」
「この騒ぎも全部お前の仕業だろう!! 化け物みたいな面をしているからなぁ!!」
彼らはギーガンテによって殺された者たちの遺族だ。愛する親に子供、友人に恋人を失った彼らは正常ではなかった。確かにイコルによって殴り殺された者はいたが、ひとりだけである。投げつけられた人間もイコルによって救われていた。彼らは理不尽な災難の責任をイコルに擦り付けようとしているのである。
それにイコルの顔も鬼のような形相のために、モノオンブレの仲間と思い込んだのだ。理屈はいらない、自分たちの望むことが大事なのである。
「バカかお前らは! この人のおかげで被害が防げたんだぞ。ありがとうと感謝しろよ!!」
「第一悪行を隠す意味が分からない!!」
「そもそもこのお方の顔のどこが化け物なんだ。男前で素敵じゃないか。俺が女なら惚れていたね!!」
後ろの方からイコルを擁護する声が上がる。彼らは被害に遭っていない一般人だ。それ故に冷静に状況を把握している。中にはイコルに救われた者もおり、一触即発状態だ。
「お待ちなさい!!」
そこに凛とした女性の声が響いた。それは白いウサギの亜人であった。
特徴的なのは長い耳だ。耳は彼女の倍以上の長さがあり、足の代わりに地面を支えているのだ。
代わりに足はない。生まれつきなのか、両足が欠けているようである。それ故に耳が進化し、彼女の足代わりに進化したのだ。
身に付けているのは上質の紫色に染めた絹のドレスだ。まるで夜の蝶である。年齢は亜人だと毛に覆われているため、判断が難しい。
さらに彼女の背後にはウサギの亜人の女性が立ち並んでいる。白から黒、茶色など数が豊富だ。どれも水商売をしていそうなドレスを身にまとっており、上質な髪飾りに金の腕輪にネックレスなどを身に付けていた。
「わたくしはツクヨミ! サルティエラの花街を仕切る者ですわ!! まったく後片付けができていないのに、この騒ぎは何なのですの!! さっさと仕事に戻りなさい!!」
ツクヨミは民衆を叱咤する。一般人にはイコルを殺したくてたまらない人間もいるが、背後のウサギたちによって解散させられた。残るはイコルとツクヨミだけである。
「初めまして、わたくしはツクヨミと申します。イザナミさまからこの町の花街を任されている者ですわ」
「ちなみにかのイザナミさまの孫でもありますのよ」
「そう、イザナミさまは旅行で留守。塩山を預かるヨモツさまは現在モノオンブレたちと交戦中なのです」
「その間にサルティエラを守るのが我らの祖母ツクヨミおばあちゃんなのですよ」
「もっとも前に獣たちの襲撃の時は、街にいなかったので活躍できなかったけどさ」
うさぎたちが銘々に話した。どうやら彼女たちはツクヨミの孫らしい。おばあちゃんと呼ばれると彼女は睨みつけたので、大人しくなった。
ツクヨミはイザナミの孫のひとりだ。他にも孫はふたりいるが別のところに住んでいる。
基本的に町長はイザナミで、塩山は玄孫のヨモツが管理している。ツクヨミは花街を管理しているのだ。
「初めまして、俺、いや、私はイコルと申します。先ほどはありがとうございました。もう少しで暴徒に囲まれる所でしたよ」
そう言ってイコルは手を差し出した。ツクヨミも手を差し出し握手する。
ツクヨミは日本神話の月読命がモデルです。
記紀では性別の記述はないそうですが、後世だと男神のようですね。
昔から月にはウサギが住んでいると言われています。陰陽師関係では金烏玉兎集という本があるそうだ。
ウサギの長い耳を足代わりにするアイディアは普通に思いつくと思うけどどうだろうな。




