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第10話 ギーガンテ

「で、今モノオンブレはどうなっているんだ?」


 イコルが質問した。エビルヘッドがモノオンブレ達を操り、人間を襲わせている。それしか知らなかった。ベビーエビルも詳しくは把握していない。

 そこに飛んできたのがプリンシペだ。彼はモノオンブレの王、モノレイの息子だという。

 その息子から事情を聴くべきだろう。側にいるサビオとフエルテも興味津々である。


 くぅ~~~。


 腹の虫が鳴いた。相手はプリンシペだ。彼はお腹がぺこぺこのようである。

 先ほどクッキーを食べさせたが、まだ足りないようであった。よほど命懸けで逃げてきたと思われる。


「話は後にしよう。今はサルティエラに向かうとしようじゃないか」


 サビオが提案した。情報は大事だが持ち主の体力に配慮するべきだ。サルティエラに続く街道には数か所のトイレがある。そこには騎士団が常に駐在し、簡易宿も建っている。そこで簡単な食事も提供されるのだ。

 イコルはさっさと情報を聞き出したかったが、サビオはやんわりと断った。

 しばらく経つと巡回の騎士が馬車を走らせていた。荷物を積むための素朴な造りだ。彼らは無線で連絡を取り、後片付けを要請した。サビオは騎士たちから何か食べ物を要求するとビスケットや飴の類をもらう。その代わりに金銭を握らせた。

 間食だが繋ぎになるだろう。イコルたちを乗せた馬車はサルティエラに向かう。途中でプリンシペはイコルの膝枕でぐっすりと眠っていた。うんざり顔になる。


 ☆


 一日かけてサルティエラにやってきた。ここはオルデン大陸の塩を賄う重大な町である。塩と言っても岩塩が採取できるわけではない。大きな岩山が並んでいるが、ここら辺は地殻変動で歪んだという。

 その山に飛行型のビッグヘッドがやってきては涙鉱石ティアミネラルを数十個山の天辺にある穴に落とすのだ。それが数百羽もいれば相当な量になる。

 その涙鉱石には厚い膜がある。中身は鉄や土だの様々だ。中には動物の肉も混じっているが、人間の肉も混ざっている可能性が高いのでフエゴ教団ではあまり食さない。代わりにヒコ王国は普通に食するので輸出はしている。

 さて膜を削るとそれは塩になる。この膜はキノコの毒を中和する性質を持っており、百年経てば中身を残したまま膜は消える。その膜が消える前に削るのだ。

 サルティエラは百数年間塩を売り続けた。もちろんよそ者を嫌う村もいたが無理矢理売った。村長の子供と強引に結婚し、血族に組みこんだのである。

 同じ村の人間との結婚を認めない数少ない村だったという。それが現在では町に発展したのだ。


「ここは数年ぶりだね。コミエンソと比べても遜色はないよ。まあ、僕よりフエルテの方は思い入れが深いんじゃないかな。何せこの町の町長であるイザナミ様はフエルテのマッスルスキルに深く影響しているからね」

「そうだな。イザナミ様の筋肉は素晴らしかった。今は御年99歳らしいが筋力はまったく衰えていないらしい。あの人が大胸筋をぴくぴく動かし、風を生み出したときは感動したな」


 フエルテは感慨深げに答えた。ちなみにサルティエラはエビルヘッド教団とも協力している。そもそもフエゴ教団が後で、エビルヘッド教団が最初なのだ。かといって露骨にエビルヘッドを崇拝しておらず、イザナミの一族以外真実は知らされていないのである。


「ああ、腹が減って……、いないでござる! 拙者は偉大なる王モノレイの息子でござる! でもお腹とお腹がくっつきそうでござる!!」


 プリンシペは苦しそうであった。間食をしても彼の腹は満たされなかったのだ。途中で簡易宿を通ったがプリンシペがあまりにも気持ちよさそうに眠っているのでサビオが起こさなかったのである。さっさと飯を食わせて情報を聴きだせとイコルは食って掛かったが、サビオは笑いながら無理やりはだめだよと断ったのだ。

 この男一見優男に見えるが強風を柔軟に受け流す竹のような心根の持ち主だと思った。


「で、これからどうするんだ。まずは宿を探すのが先だろう」


 イコルが言った。彼は普通に街を歩いている。門番に顔を見られても何も言われなかった。町の中でも彼の顔を見て悲鳴を上げるものがいたが、大半は無関心だ。この町ではイコルの顔など不特定多数のひとりに過ぎないのである。


「まずはフエゴ教団の教会に行こう。そこの司祭に挨拶しないとね。その後、ご飯をごちそうになろうじゃない―――」


 サビオが言いかけると、街に騒動が起きた。大勢の人々が逃げてきたのだ。まるで何かに追われているかのようである。

 それに反して町を守る警邏隊が槍を手にして向かっていった。


「いったい何が起きたのですか?」


 サビオが逃げてきた中年男性に訊ねた。


「モノオンブレだ。巨大なモノオンブレが攻めてきたんだ!!」


 吐き捨てるように叫ぶと、男は走って逃げた。この場所に一秒でも痛くないという感じだ。

 その後、大勢のモノオンブレ達がやってきた。全員皮の腰みのにサンダル。巨大な骨のこん棒に、獣の頭蓋骨であしらった肩当てを身に付けていた。

 相手はカニクイザルのようである。

 カニクイザルとはオナガザル科のサルだ。体長40~65センチほどで、尾は体長と同じくらいある。天照皇国に住むニホンザルと近縁で東南アジアに分布しており、マングローブ林などにすみ、カニ類・昆虫・果実などを食べるそうだ。

ペットや実験動物として日本に輸入されたそうであり、そのおかげでニホンザルとの棍種が広まったという。

 攻めてきたカニクイザルのモノオンブレは160を超えていた。さらに別のモノオンブレがやってきたが、こちらは5メートルほどの巨体である。


「ガハハハハ!! オレハ、ギーガンテ!! モノスゴクツヨイ、モノオンブレノ、ユウシャダ!! ニンゲンドモハ、コロシテ、アソブンダ!!」


 ギーガンテはゴリラのように胸をドラムのように叩いた。そして逃げる人間の男を掴むと、ぽいっと空高く投げた。男は絶叫を上げると同時に地面に衝突。トマトのように潰れて死んだ。それを見てギーガンテはゲラゲラ笑っている。かなり腹立たしく、頭に血が上りそうな悪行だ。


「ギーガンテ! 奴はモノオンブレのはみ出し者でござる!! 弱い者いじめばかりするので父上が岩の洞窟に幽閉したでござるが、逃げ出したようでござる!!」


 プリンシペが忌々し気に叫んだ。よほどギーガンテは嫌われているようである。ギーガンテはプリンシペを見た。


「ガハッ! モノレイノ、ガキジャナイカ。コンナトコロマデ、ニゲテイタノカヨ。トルナドト、ムエルテノバカハ、ナニヲシテイタンダ。マア、イイ。オマエヲコロセバ、ロホカラペラサマハ、オヨロコビニナルダロウ。ソシテ、オレハエラクナッテ、ヨワイモノイジメヲ、ゾンブンニタノシムンダ! ガッハッハ!!」


 そういってまたギーガンテは人間の男を捕まえた。今度は足で踏みつけたのだ。助けてと男は懇願したが、「ヤーダ」と言ってギーガンテは踏みつぶしたのである。ぶちっと潰れる音がイコルの耳にこびりつく。それを聴いたギーガンテはうっとりした表情になった。


 何とも不快な言葉を繰り返すのだろうか。イコルは他人事だがむかむかしてきた。ベビーエビルも同じ気分のようで、さっさと殺せと突いてくる。エビルヘッドは市場で人を殺したことはない。あくまで人間の感情を利用して、相手の村を滅ぼす。特に自分たちの地位を利用し、弱者を虐げることを喜びとする人間の集落を潰していた。

 貧しい村にはエビルヘッド自身ではなく、教団の司祭たちが手を差し伸べている。フエゴ教団のように化学力はないが、ガスタンクヘッドを埋めて火を使えるようにしたり、ゴミを回収して清潔にするよう衛生管理を徹底させている。

 もちろんエビルヘッドも人を潰したことはあるが、必要悪として行っているだけだ。

 ギーガンテのように殺しを娯楽と思ったことなど一度もない。ベビーエビルはむかついているが、イコルも同様であった。


「あいつはむかつく。必ず殺す」

 ギーガンテはスペイン語で圧倒的な力を意味します。

 マーベルで有名な悪役ジャガーノートのスペイン読みです。


 悪役は最初人をゴミのように殺させることで、主人公が殺しても問題ないようにしています。

 ただジョジョ黄金の風でも本気で相手が殺しにかかる場合、主人公が殺されかけたときに相手を殺すのもありだと思う。

 要は主人公が無傷で敵を殺してもカタルシスは生まれない。主人公が追い詰められた挙句、形勢逆転で相手を死なせることが大事なのです。

 必ずしも相手が外道である必要はなく、目的のために手段を択ばない悪と、手段を選ぶ主人公側の対決は盛り上がると私は感じた。

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