43.日本、三島熱帯植物園
ここは、日本の某所にある小さな熱帯植物園だ。
火山の地熱を利用した熱帯の植物園が見られるのが売りで、ワニなんかも飼ってはいるが、物珍しさがないのでお客が来ず経営が年々苦しくなっている。
「園長、ほら新聞見てくださいよ。潰れかけの小さな土木作業所で、工具がごっそりとなくなった代わりに金貨や金塊が見つかったんですって」
世の中は好景気などとは言うが、土木作業の単価が高くなったわけではなくむしろ公共事業が減って昔より厳しくなっているそうだ。
人のいい社長が業者に騙されて買ったソーラーパネルなども倉庫から綺麗になくなっており、誰が金貨や金塊を置いていったかは不明である。
記事によると『この金で工具を全部買います』というメモが残されており、一通りの調べが終わればお金は土木作業所の物となる。
これで作業員にも給料を払うことができると、社長が喜んでいるそうだ。
同種の現象は、引退した大工の家などでも次々と起こっており、現代のおとぎ話と噂されているという記事だった。
「私達のところにも、こういうの来て欲しいものだわね」
園長、三島佐和子がため息をつく。
三島植物園には、ここでしか見ることができない希少な熱帯植物も数多くあるのだが、その学術的な価値を訴えても自治体からの補助金も年々減額されており、資金繰りが悪化してる。
当然こういう施設には銀行もお金を貸してくれないので、資金不足で次の一手が打てなくなっている。
何でもいい、この停滞を打ち切る何か新しい流れが生まれてくれればと願わずにはいられない。
「大丈夫ですよ。なんとかなりますよ。園長は一生懸命やってるんですもん。お客さんは、みんな喜んでくれてますよ!」
数少ない従業員の沢村さんは、佐和子が落ち込むたびにそう励ましてくれる。
根拠などまったくないのだが、それに勇気づけられる。
「そうね、今日も頑張らないとね」
「え、園長。ゴムの木を植えてあるビニールハウスが、まるごと一つなくなってます」
「ええー!」
今日も頑張ろうと言った途端にこれか。
慌てていくと、本当にビニールハウスごと綺麗さっぱりなくなっていた。
誰かが持っていったにしてもビニールハウスごとどうやって運んだのか。
一体誰がと不思議に思うしかない。
「え、園長。ききき、金塊!」
無くなった辺の真ん中に、でかい金の延べ棒や、見たこともない金貨が落ちていた。
そして、そこには『このゴムの木をビニールハウスごと買います』というメモが残されていた。
「これよ! これだわ!」
「園長やりましたね! 金塊ですよ、金貨に金塊! 重い! ほら、これどうみてもおもちゃじゃないですよ!」
金塊を抱えて、あたふたする沢村。
「沢村さん、違うわよ。この事件には、金塊なんかよりよっぽど価値があるわ。すぐマスコミに連絡してちょうだい、あと警察と自治体にも連絡しとかないと。忙しくなるわよ!」
植物園のゴムの木が、金塊に変わったというニュース。
これが大きな評判となり、三島熱帯植物園は謎の金貨や金塊を見ようとお客さんがわんさと押しかけた。
売り出した金のなる木や、謎の金貨を模したお土産は縁起が良いと飛ぶように売れて、潰れかけだった三島熱帯植物園は息を吹き返したのであった。





