29.召喚者、ヒュドラを倒す
冒険者ギルドのテストの時と一緒の勢いで、グラントのパワーとスピードがブワッと膨れ上がる。
「瞬殺剣!」
ジュサッ! ザクッ! っと、大水蛇の首を一気に二本斬り落とした。
やるじゃないか、グラント。
「ふぎゃー!」
戦闘の興奮に毛を逆立てているテトラが、その間に虎の爪で三本斬り落としている。
これで、首が五本落ちた。
その時、アキトの持っている魔王の黒い宝玉が揺れる。
『大水蛇は……』
「スライン! ファイヤースライム! 斬り落とした首の傷口を炎で焼け!」
大水蛇は、凄まじい再生能力を持っているのだ。
首を斬り落としたら、即座に焼かなければすぐ再生されてしまう。
まあ、これぐらいはアキトもゲームとかで知ってるので常識だった。
『解説の妾の出番が……』
魔王アンブロシアはいつの間に解説役になってたんだろう。
まあ、魔王の知識の出番なんてなく敵を瞬殺できれば、それに越したことはない。
グラントとテトラが残りの首を落として、ファイヤーボールで焼いてしまうと、最後はグラントが巨体をぶつけるようにして、大水蛇の胴体に大剣を突き刺して見事に倒した。
「やったな! グラント」
「ああ、俺はついにやったんだ。これもアキトさんのおかげだ!」
嘆きの沼のボスを倒したのだから、これで肥沃の湿地も平和になるだろう。
そう思った時だった。
ドドドドドドドッと、地響きが響き渡る。
地震か?
「な、なんだ!?」
もしや新手のモンスターかとグラントは大剣を構えるが、そのまま硬直してしまう。
グラントだけでなく、全員が硬直した。
「なんなんだよあれはー!」
地平線の彼方から、大量の一つ目の巨人の群れが殺到してきた!
さっきの大水蛇が小物に見える大きさの巨人が、ひいふうみい、数えきれない……。
前のワイルドドラゴンといい。
この世界は、この地域にどのモンスターが出るとかって情報まったく役に立たないなと、アキトは呆れる。
『あれは、サイクロプスじゃな。この奥にある巨人の荒野に住んでいるモンスターじゃ。普段単体で行動するモンスターで、あんなに集団で動くのは珍しい』
「悠長に解説してる場合か」
『せっかくの妾の出番じゃぞ、少しは語らせるのじゃ』
「どうせなら、弱点ぐらい教えてくれればいいんだがな」
『一つ目が弱点じゃが、あの数では一体や二体倒したところで焼け石に水じゃぞ。どうする』
黒い宝玉が面白そうな口調でアキトに尋ねる。
確かに、あれが殺到してきたら沼のモンスターどころの騒ぎではないだろう。
ここでアキトが逃げたら、後ろの開拓村に被害が及ぶ。
「あるじ、どうする?」
「あるじさま、敵はいきり立っております。ここは残念ですが、戦術的撤退もありかと……」
さすがにテトラやスラインたちも、動揺している。
「みんな安心しろ。俺が召喚魔法でなんとかする」
アキトは、召喚魔法で沼の水を全て吸い上げて、前面に魔法陣を発生させてサイクロプスの群れに向かって発射した。





