20.召喚者、少年少女から事情を聞く
彼ら、『オークスレイヤー団』と名乗る冒険者パーティーは、十六歳、十七歳というまだ年若い少年少女の冒険者が六人に、ドワーフの斧戦士や鎚戦士が二人という変わった組み合わせだ。
それには事情があって、少年少女たちはオークに滅ぼされたミスリルの丘のマール村の出身で、ドワーフたちは採掘所の元労働者だったそうだ。
王都で難民となってしまった彼らは、いつか故郷をオークから奪還することを誓って、冒険者としてオークと戦いつづけているそうだ。
「なるほど、そんな事情だったのか。しかし、オークはEクラスモンスターと聞くからな」
魔術師のエマや、屈強なドワーフたちはEランクだからまだしも、マールたち少年はまだ経験が浅くFランクだという。
さっきも倍以上の数のオークと戦っていたようだし、かなり厳しいのではないだろうか。
「だから、私は焦るな無理するなっていつも言ってるんですけどね。さっきだって、竜殺しのアキトさんが助けにきてくれなかったら、どうなっていたか」
「ただのアキトでいいよ」
いちいち竜殺しと呼ばれるのが恥ずかしかったので、アキトはそう言ってみたのだが、なぜかエマはもじもじと顔を赤くしている。
「あ、あの年上の、しかもBランクの冒険者を呼び捨てはちょっと。じゃあ、アキトさんで……」
「うん」
なんでこんな空気になるんだろ。
どうも若い子は苦手だ。
今の会話はおかしかっただろうかと考えて、アキトは頭をかく。
「アキトさん! 僕たちに力が足りないのは承知してます。それでも、故郷を取り戻さなくちゃいけないんです!」
燃えるような赤髪の剣士マールは、力強く言った。
どうやら、一番年若いこの子がリーダーらしい。
「マールは、滅ぼされたマール村の村長の息子なんです。だから、責任を感じて躍起になってて」
「僕の名前がついた村をモンスターに奪われて、黙ってられないんだよ」
もともとドワーフの採掘所があったところに、王国の開拓民が村を作ったのがマール村の始まりだそうだ。
当時は丘の中腹にある採掘所を中心に、いくつもの村ができてたいそう賑やかだったそうだが、その全てはオークの軍団に奪われてしまった。
故郷を追われた今でも、ドワーフたちと元開拓民たちは助け合って生きているようだ。
「一番弱いくせに、偉そうなこと言わないでよ」
「ああそうだな。エマに言われなくったって、僕だってわかってんだよ! ああ、なんで僕はこんなに弱いんだ。早く強くなって、村を取り戻さなきゃならないのになんで!」
悔し涙をにじませながら、地面に拳を叩きつけるマール。
みんな悔しそうな顔をしている、故郷を取り戻したいという思いは同じなのだろう。
「だからって、死んだら何もならないじゃない。堅実に少しずつ強くなっていくしかないのよ」
「そうだ、アキトさん。僕たちに協力してくれませんか。僕は早く強くなって、オークどもから生まれ故郷を取り返したいんです」
「ダメだよマール。アキトさんにだって事情はあるんだから。それにBランクの人が、私たちみたいな弱いパーティーにかかわってはいられないでしょう」
「かまわないぞ」
そう言うアキトに、エマがびっくりして聞き返す。
「えっ、ほんとに?」
「俺はオーク退治にきたんだ。君たちもそうだろう。目的は一緒だから、協力するのはかまわない」
元の生活を取り戻したいというオークスレイヤー団の気持ちは、アキトにもよくわかる。
ドワーフと人間の少年少女たちが寄り添って力を合わせて戦っている姿にも、少し感銘を受けた。
こいつらなら応援したい、できるかぎり力になってやりたいとそう思う。
アキトの参戦に冒険者たちから、喜びの声があがる。
「やったぜ!」
「竜殺しのアキトさんがいてくれれば百人力だ!」
アキトは静かに言う。
「マール。君は、オークから故郷を取り戻したいって言ったな。その話を詳しく聞かせてくれないか」
「はい、喜んで!」
アキトは地図を片手に、今のオークたちの群れの規模や様子や、現在のオークの住処となってしまっている採掘所や村の話などを聞く。
ようするにオークを全滅させれば、村は再興できるのだ。とても簡単な話だった。
「なるほどわかった。じゃあ、オークたちを全て倒して、村を取り戻そう!」
「ええー!」
確かにマールたちはそのために戦っているのだが、本当にそんなことができるのかと驚く。
「俺の言う通りにすれば、大丈夫だ」
「村が取り返せるなら、僕はなんだってやります!」
いい覚悟だと、アキトは笑顔で頷いた。





