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危機回避・未来  作者: 中野翔
僕に危機回避能力は存在しない
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楼の仕事 後編



   幸磨と月冴は目が覚めると、目の前にはカラフルなお城・噴水・そして、自分達を取り囲む

  小さくて可愛い玩具の兵隊さん達がいた。

   

   「なっ、なになに!?どうなってるの!?」

   「さぁ…俺にもさっぱり分からないよ。何なんだろうねぇ~これは…」

   幸磨は現在の状況に混乱し、月冴は物珍しそうに兵隊達を見ているとどこかから楼の声が聞こ

  えてくる。

   『二人共、聴こえるか?』

   「伊島さん!?」

   混乱していた幸磨が彼女の声に反応する。

   『どうやら自分の声は聴こえてるみたいだな』

   「そんなことより、ここはどこっ!ここはいったいどこなんだよ!」

   どこにいるのか分からない楼に向かって幸磨は叫んだ。

   隣にいる月冴はそれをただ黙って見ていた。

   『今お前達がいるのは、少年の夢の中だ』

   「はぁっ!?ゆっ、夢の中!???」

   「夢なのになんで俺達こんな歓迎を受けてるわけ?」

   夢の中と言われて驚いている幸磨に対して月冴は冷静だった。

   この違いはやはり家庭環境の違いなのかもしれない。

   『お前達が勝手に彼の夢に入ったからだ。普通なら共有することがない夢に他人が入り込むこと

  はない。自分で自分の夢を壊すのは許せても、他人が自分の夢を壊すのは許せないのと同じように

  、彼の夢は他人の侵入により破壊されるのを恐れて、お前達を排除しようとしているんだ』

   「なるほど。それで、俺達はこの夢の世界でどうしたらいいのかな?」

   『その夢の中にいる少年を城から出してほしい。自分が何度か行ったんだが、兵隊達が邪魔をし

  て交渉がなかなか進まない。このままだと彼は元の世界に戻れなくなってしまう。それは何として

  も避けたい』

   「へぇ~そんなに強いんだ~」

   月冴はニヤリと笑みを浮かべると、幸磨を置いて一人兵隊達の海へと飛び込んだ。

   夢だから何をして問題はないと、彼は兵隊達の身体を素手で破壊。そして彼らの武器を奪うと、

  それを使って残りの兵隊達をあっという間に全滅させた。

   「よぉ~し。これで綺麗に片付いたね?」

   『容赦ないな…お前』

   「いいじゃん。人間じゃないんだし」

   『まぁ、いい。城にいる少年を探せ』

   「了解。こう君、行くよ~」

   「あっ…うん」

   幸磨は月冴と共に城の中へと入ることに。

   扉には鍵がかかっていたが、月冴が兵隊から奪った鍵を試しに鍵穴に挿してみるとぴったり

  はまり扉は開かれた。

   「おぉ~やっぱりここの鍵だったかっ」

   「月冴君、楽しそうだね」

   「えっ、そう?」

   「うん…」

   『城の中にも兵隊がいるかもしれない。油断するな』

   「そうだねぇ~まだいるかもね」

   「…ふっ、二手に分かれて探そうか。お城広いし」

   「それはダメだっ!」

   「えっ…」

   『そうだな。ここは二手に分かれて探した方が効率が良い』

   「っ!?おい、伊島!」

   『安心しろ。自分がお前の代わりにこう君を守ってやるから』

   「そんなこと出来るわけないだろっ!」

   『だったらお前が早く少年を見つけてくればいい。そうすれば、彼と離れる時間が少なくて

  済むだろ?時間短縮ってやつだ』

   「…分かったよ。俺が先に見つけてくる!」

   月冴はそう叫ぶと、一人先に少年探しへ向かい走り去って行った。

   『さぁ、行くぞ。菊馬幸磨』

   「その前に聞いても良い?」

   『…何だ?』

   「なんで月冴君にあんなこと言ったの?その…自分が守るって」

   『そのままの意味だ。お前は菊馬月冴に守られている。だから、あいつの代わりに自分がお前

  を守ると言ったんだ』

   「…僕ってそんなに弱い?」

   『それを決めるのは、お前自身だ。他人が決めることじゃない』

   「嘘つくなよっ!本当は弱いと思ってるくせにっ!なんで嘘つくんだよっ!はっきり言えよっ!」

   『弱いと言ったらお前は強くなれるのか?』

   「なっ…」

   『人間誰しも最初から強いわけじゃない。弱かったのが徐々に努力の積み重ねによって強くなる

  んだ。もちろん誰もが努力すれば強くなれるという保障はないがな。それに…強いからといって

  道のりは楽じゃないんだぞ?強い者は強い者のプレッシャーや責任が生じる。月冴君はその二つの

  重みを背負って今お前の側にいるんだぞ。お前は…その重みを背負って生きていけるのか?』

   「…」

   『弱い自分に腹を立てるのはお前の勝手だが、それを他人にぶつけるのは…ただの悪口で憂さ晴

  らしでしかない。責任転嫁にもほどが…』

   「うるさいっ!うるさいうるさいうるさいうるさい…うるさいんだよぉー!!!!!!!」

   「うるさいのはお兄ちゃんだよ」

   「っ!?」

   気がつくと、そこにはパジャマ姿の少年が幸磨の前に立っていた。

   これに楼が『姿を現したな』と独り言を呟く。

   「さっきから大声出してて…すごくうるさいんだけど」

   「きっ、君は…」

   「出てってよ。僕の夢から出てってよ!!!」

   『幸磨。今から自分の言う通りに喋れ』

   「はっ?なんで?」

   『いいから!…僕は君を助けに来たんだよ』

   「ぼっ、僕は君を助けに来たんだよ」

   「助けに?なんで?」

   『お母さんが君のことを心配してる』

   「おっ、お母さんが君のことを心配してる」

   『だから一緒に帰ろう』

   「…だから、一緒に帰ろう」

   幸磨が少年に手を伸ばすと、少年は「いやだっ!」と全力で拒否した。

   「僕は帰らないっ!絶対に帰らないっ!」

   「…どうして帰りたくないの?」

   これは幸磨の言葉だ。楼は何も指示を出してない。

   「お母さん…いつもお父さんのことで喧嘩してるんだ。僕の前では喧嘩してないけど、僕が

  部屋で寝ている時に喧嘩してて………だから…だから、僕がいない方がいいんだ!」

   「そんなことないよ」

   「どうして?どうしてお兄ちゃんにそんなことが分かるのっ!」

   「分かるよ。僕も小さい頃、君と同じことを考えて家出したことがあるから」

   「えっ…」

   「僕には…歳が離れたお姉ちゃんがいるんだけど、僕ばっかり構ってもらえなくてすごく寂し

  くて…それで僕なんかいない方がいいんだって思って、一人で知り合いのおじさんの所まで行っ

  たんだ」

   その知り合いのおじさんがいる場所まで幼い幸磨は歩いて向かった。

   だが、おじさんがいる先には母親がいて、彼は一人で黙って来たことを怒られたのだが…。

   「車に引かれたらどうするの!?悪い人に連れていかれたらどうするのっ!?…って涙流しな

  がらすごく怒られた。その後、お祖父さんが来て号泣して……すごく心配させちゃったのを覚え

  てるよ」

   それ以来幸磨は、自分がいない方がいいと思うことはなくなった。

   むしろ、いなくなって二人がものすごく心配されると自分が心配になるんだと学習し、もう家出

  はしないと心に誓ったのだ。家出と言っても、おじさんの家から彼の家まで徒歩で行ける距離だっ

  たが…。

   「…僕のお母さんも…僕がいなくなると泣いちゃうかな?」

   「君が夢から覚めないと、お父さんもお母さんもきっと悲しむ。それでも君はここにいるの?」

   「…嫌だっ、そんなの絶対嫌だっ!」

   「じゃあ…一緒に帰ろう。僕達と一緒に」

   「…うんっ!」

   幸磨が差しのべた手を少年はしっかりと握った。

   二人は月冴と合流して城の外へと出て、夢の世界から元の世界へ無事に戻った。

   少年が目を覚ますと母親は涙を流して喜び、幸磨達に何度もお礼の言葉を口にしたのだった。


   仕事が終わり、少年の家を出て三人は歩いて駅まで向かう。

   「二人のおかげであの少年は救われた。ありがとう」

   「いえいえ。どういたしまして~」

   月冴はにやにや顔で楼に答えるが、幸磨は黙ったままだった。

   それに楼は幸磨に「どうだった?仕事は」と尋ねる。

   「…驚くことばかりだった。生まれてきてあんな体験…」

   「あんなのまだ易しい方さ。夢の中に閉じ込められる姫・王子を助けるなんて初心者向けだ」

   「へぇ~じゃあ、中級・上級はなんなの?」

   月冴が楼に尋ねると、「知りたいか?」と逆に尋ねられる。

   すると月冴は「興味あるね~」と怪しい笑みを浮かべて答えた。

   どうやら少年の夢で玩具の兵隊達を本気で破壊したのが、よほど楽しかったらしい。


   「そうだな…それはまたの機会にしておこう」

    話は、まだ始まったばかりだから。

   

   

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