親子
この世界には超能力者・能力者・無能力者といった3種類の人間が存在し、平和に暮らしている。
しかし、中には自分が持つ力を悪用に利用する者がおり、それに対抗するための組織『特殊部隊』が
警察と情報共有の元、さまざまな警察活動を行っている。現在では警察組織の中に対策課が設けられ
ており、超能力・能力者による犯罪はこの対策課が担当することになっている。
特殊部隊本部にある会議室にて、一人の男性隊員が昼休みを利用して自分の息子に電話を掛けた。
「あっ、もしもし?」
『…なんだよ』
寝起きなのか機嫌が悪そうな声が受話器を通して、男性の耳に伝わる。
今年から中学生になった息子の声を聞いて男性は「おはよう」と挨拶した後、「ちょっと声聴き
たくなって、電話しちゃった』と電話をした理由を教える。
『あっ…そう』
「そっちの暮らしには慣れた?」
『まぁまぁかな。一人じゃないし』
「学校はどう?楽しい?」
『別に、普通』
「友達出来た?彼以外でだよ?」
『まぁ、いるけど…もう切っていい?』
「だめっ!もう少し話そうよ」
久し振りの会話に嫌がる息子。
だが、父はそれでもまだ話し足りないようで電話の継続を求める。
『これ以上何を話すことがあるんだよ。それに今日仕事だろ?いいのかよ、こんなことしてて』
「まだ時間あるから大丈夫だよ。もう誰に似たのか心配性だね~見た目は僕に似てるのに」
『言うなっ!!!!僕がそれ気にしてるって知ってるだろ!?』
息子は電話越しに父に怒鳴った。
「いいじゃん。僕似でお姉ちゃんも可愛がってくれてるでしょ?」
『それが一番嫌なんだよっ!姉さんに抱きつかれる僕の身にもなれっ!』
父親のことが大好きな姉は、父親似の弟を子供の頃から可愛がり、つい最近まで一緒にお風呂
にも入っていた。しかし、弟の彼にとって父親に似ていることはあまりよく思っていないので、
姉がそれを理由に自分のことを見ているのは不愉快でしかない。だがこの姉に抱きつかれること
で思春期の男の子にはあまりにも刺激が強いものがあり、彼はその理由でも姉には苦手意識を持
っている。
「…まぁ、うん。お姉ちゃんに悪気はないんだから、許してあげてよ」
その理由を当然父は把握しており、それを含めて『悪気はないんだよ』と息子に伝える。
過剰なスキンシップはほどほどにしてもらいたいものである。
「あっ、そうだ。お盆休みにそっち行くから子機に伝えといてくれる?」
『はぁっ!?なんで?』
「いいじゃん。僕が休みをどう使おうが僕の自由でしょ?」
『そうだけど、なんで家に来るんだよ!』
「ん?息子に会いたいからだよ」
『きっ…気持ち悪い』
もうすぐ40になるおっさんが、いったい何を言っているんだと息子は引いてしまう。
だが、これは年齢よりも精神的な問題かもしれない。
「絶対会いに行くから、どこか遊びに行ったりするなよ?」
『もし遊びに行ったら?』
「そうだなぁ……お祖父ちゃんにヘリを用意してもらってそこまで迎えに行くから」
『うち、そんなお金持ってないだろっ!』
ヘリコプターを呼ぶのにいくらかかるかなど知らないが、普通の市民が出せる額がヘリコプタ
-は呼べないことは分かっていた。
「あはははっ……冗談だよ」
『ったく、人をからかうのもいい加減にしてくれよ』
「でも、もし必要ならお祖父ちゃんやりかねないよ?ほら、子機が家からいなくなった時、大騒
ぎだったじゃん」
『あぁ……そういえば、そうだった…』
何か嫌なことを思い出したかのように、息子の声は小さな声で呟く。
自分の家の人型ロボットがいなくなっていることに気がついた祖父は、知り合いの連絡先に片っ
端から連絡するという騒ぎを起こした。子機が孫の家にいることが分かって安心していたが、もし
見つからなかったら、GPSを頼りに子機をヘリコプターで迎えに行くつもりだったと祖父本人が
言っていたのを彼は父の話を聞いて思い出したのだ。
「ねっ。だから、ちゃんと家にいなさい」
『…分かったよ』
お盆はまだまだ先の話であるが、祖父にまた同じ騒ぎを起こされるのは面倒なので、彼は父親
の言うことに渋々従うことにした。
「じゃあ、日程決まったら連絡するから。それまでまたね、こう君」
父親は息子にそう伝えた後、電話を切って会議室を後にした。
子機がいつも通りに子供達の帰りを待っていると、幸磨が不機嫌な顔をして帰って来た。
月冴に話を聞いたところ、今日の昼休みに父親から電話がかかってきたこと。そして、お盆休み
を利用して家まで来るから子機に伝えておけと伝言を頼まれたことを月冴は子機に伝えた。
『なるほど。それで不機嫌になってるってわけね』
「電話で話しただけなのにねぇ~」
「うるさい。僕にとってはそれだけでも不服なんだよ」
昼休みからこの不機嫌な状態が続いており、月冴・炎樹の二人はお手上げだった。
父親との会話は例え電話越しだろうと嫌なもののようで、今はテレビを見て気分直しをしている。
『幸磨。お父さんだって幸磨のことが心配なのよ』
「気持ち悪いだけだろ」
『それだけあなたのことを愛してるのよ』
「あんなのに愛されたくなんかないね」
『幸磨…』
「僕、もう寝る」
幸磨はそう言うと、一人自分の部屋へと戻って行ってしまった。
「あぁ~怒っちゃったね」
『全く誰に似たのか…まぁ、それはいいわ。あの子の傷が癒えるにはまだ時間がかかりそうね』
「傷って?」
『小さい頃の話よ。いろいろなことが重なったせいで、あの子は父親を良く思ってないの』
「それって…」
月冴にはそれに関する心当たりがあった。
だが、口にする前に子機が次のように話す。
『でも、いつかきっとそれが分かる時が来るわ。今のうちだけよ、あんなふうに言えるのは』
「そうだね~。こっちから言っても聞き入れてくれそうにないしね」
親子の溝を埋めるには言葉だけではなく、長い時間が必要だ。しかし、内容によってはその二
つだけでは解決できないこともあるだろう。そうなった時どうするのかは彼ら次第でどう運命が
転がるかが決まる。
『月冴。あんな子だけど、これからも幸磨のことをよろしくね』
「もちろんだよ、お母さん。こう君のことは俺が守るよ」
『お願いね』
月冴が言っていることに嘘はない。
それが彼の役目であり、今ここにいる理由なのだから。




