白虎
希愛中学へ着いてすぐ、月冴は鞄を置いて炎樹を内緒話が出来る場所へと強引に連れだした。
「いったいどういうつもりだ」
「月冴、待ってくれ。俺じゃないんだ。これは…父上の指示なんだよ」
それを聞き、月冴の怒りが少し消えた。いや、怒りを抑えるしかなかったという方が正しい
だろう。
「俺も詳しいことは教えてられてないんだが、どうやら俺達は命を狙われているらしい。
だから、しばらくの間、お前達二人を家で守ることになった」
「はぁ?狙われるって誰にだよ?」
月冴は冗談だろうと思いながらも月冴は命を狙う輩に興味を持った。
「それは…」と炎樹が言いかけた時、運動場の方から女性の悲鳴が二人の耳に届く。
いったい何があったのかと、月冴は上履きのまま外に出て中庭に植えられている木を自慢の
足で飛脚しそこから運動場側を見上げて見る。すると正門前に複数の生徒に混じって柄の悪そう
な男達が鉄パイプを持って暴れているのを視界に捉える。
「月冴!」
下から炎樹が自分の名前を呼んでいる。
ここからじゃどうすることも出来ないので、彼は木からさっと飛び降りた。
「男4人が正門前で暴れてる」
「なんだって!?まさか俺達を狙って…」
「俺が行く。炎樹は先生に知らせてくれ」
「分かった…気を付けろよ、月冴」
「おぅ。行ってくる!」
月冴は炎樹にそう言うと、全速力で正門前まで走って行った。月冴を見送ることなく、
炎樹は上履きの土をはらわないまま職員室へと急いだ。
その頃の幸磨は桜華と自分の教室で話をしており、彼らもまた運動場の方から悲鳴の声を
聞いていた。いったい何があったのかと二人は教室の廊下から外を覗いてみるが、そこから
では全く運動場が見えない。
そうやって窓とにらめっこしているところを刃物を持って仕留めようとする不審者。
しかし、不審者は彼らを殺すことはできなかった。
『私の弟に手を出すなんていい度胸してるわね…このクズがっ!』
男の脳に直接その言葉が届いた後、不審者は闇の中へと姿を消した。
その後、仲間との連絡が取れなくなったことで作戦を変更し、残りの人数で幸磨を殺そう
と教室へ向かおうとするが、彼らの行く手を二人の少年が遮る。
「悪いけど、ここから先は通さん」
「鬼灯……鬼丸炎樹っ!我らの邪魔をするなぁ!!!!!!!!!」
よほど彼らに恨みがあるのか、リーダーと思われる男が怒り狂って炎樹に襲いかかる。
男が持つナイフは炎樹の右手に掴まれると、大きな音と共に地面へと落ちた。
炎樹の手は真っ赤な血で染まっていく。それをただじっと見つめた後、炎樹は………。
目の色が黄色に光り、彼の周囲に旋風が吹き上がる。
そして…風が治まると、炎樹は白い虎へと変化した。
「とっ、虎じゃあ…!!!!!」
「狼狽えるな!己の力を制御出来ぬ虎など、鬼丸の器ではないっ!虎の姿を模した人間だ!
怯むでない!!!!」
リーダーの男が怯えている仲間にそう伝える。
その言葉に勇気づけられたのか、それとも覚悟を決めたのか、彼らは虎になった炎樹に
立ち向かう。それを黙って見ていた月冴は『バカだな』と大人達を侮蔑の目で
見ていた。
自分の力を制御できない獣。
あれは虎の姿をしただけの人間だと…男は言った。
しかし、能力を持ってしても炎樹を止めることは出来ず、噛み殺され、背中を見せた者には
鋭い爪で引っ掻き、最後の止めをさす。
「炎樹」
「…後は頼む」
「あぁ」
虎の姿から人の姿に戻った炎樹は、一人手洗い場へと足を運ぶ。
他の生徒や教師にこの残虐な場面を見られてはいないかという心配を彼らがする必要は
ない。なぜなら、正門前で暴れていた男達を月冴が退治し、炎樹が教師に知らせたことで
警察が出動。滅多に来ることのないパトカーと警察官に彼らの注目は正門前に集中してお
り、月冴と炎樹がいるこの場所には誰も寄りつかないのだ。とはいえ、転がっている死体
を短時間で生徒や教師に気づかれずに処分するのは難しい。なので、急遽専門の清掃業者
に連絡して、死体をこっそり運んでもらうことにした。
月冴が連絡を取ってから数分後に清掃業者が現れて、死体や血痕といった細かい部分を
きれいに掃除。処分に困る死体は、転移能力を使用して運ばれたのだった。




