専属護衛と主、立場逆転?2
世間では公にはならなかったものの、愛美奏が起こした一件を全ての人に知られてはいないわけではない。
彼女が作った大きな穴を埋めるために多くの大人達が出動し、修復作業に当たった。そして、
時間操作の歪みで本来起きなかった小さな怪我から交通事故といった騒動の要因を一つ残さず取り
除くという超時間労働により、ようやく元の時間を取り戻すことに成功したのだった。
そんな問題児に改めて専属護衛となった轟鬼俊彦は、主である愛美奏にある提案を持ちこんだ。
些細なことで怒る彼女が今後同じようなことを繰り返さないための処置として、万能の使用権限
を自分に託すようにしてほしい、と。轟鬼の能力を使えば、愛美奏の怒りを抑えることも、彼女
の万能を自分の意思通りに発動させることも可能のため、愛美奏とは相性がいい。
だがしかし、轟鬼の言うように自分一人の独断で、主である愛美奏を操り人形のようにするなど
言語道断。もし一族に知られれば、轟鬼俊彦の命は今度こそ失われる。そうならないためには、
主の愛美奏にあるお願いをしたのだ。
「轟鬼家当主である轟鬼和彦に会ってもらいたいのです。愛美奏様の
言うことなら父の了解はすぐ取れるでしょう」
「もし、お父さんに反対されたらどうするの?」
「その時はその時で考えます。まぁ…一つ手は考えてますが」
「ふーんーー…それで?いつ会えばいいの?」
「父に連絡してスケジュールを調整してもらえるよう頼みますが、恐らく8月まで待たされる
でしょうね」
「8月?」
「毎年恒例の墓参りです。鬼丸家の屋敷で分家当主達が集まる…一般人と変わらないお盆休み
ですよ」
「あぁ…そっか」
なぜ8月かという疑問が解消され、あっさり納得する愛美奏。
それに対し、轟鬼は我が主を段々妹のような目で見ていることに気が付いていなかった。
「じゃあ、そのお盆休みまで待たなきゃいけないのね。まだまだ先の話じゃない」
「いいえ。そんなことはありませんよ。8月なんてあっという間です」
「そうかしら?」
「ええ。今まではそうだったかもしれませんが、これからは俺が愛美奏様の側についておりま
すので…」
そう言って、轟鬼は愛美奏の手に取る。
「暇で退屈だなんて言わせないぐらい、徹底的に尽くしますよ」
…と、何やら変な企みをにおわせるセリフに愛美奏の危機回避能力が発動する。
「おい…どさくさに紛れて変なこと考えるなよ?」
「はぁ…申し訳ありません。言っている意味が理解出来ないのですが…愛美奏様、何か誤解
されてはいませんか?」
「…分かった。もういい」
「よくありません。愛美奏様、はっきり仰ってください」
「もういいっ!お前が私を女として見てないことは分かったからっ!」
ふと勢いでそう言ってしまったことに、愛美奏は『しまった!?』と顔を真っ赤にする。
轟鬼はそれを聞いて「あぁ…」とそう言って全て語らずとも納得という表情を見せた。
これに愛美奏は穴があったら入りたいと、両手で顔を隠して地べたにしゃがみこんでしまった。
勘違いとはいえ、もう顔も合わせられない。
「愛美奏様。そういう願望があるんですか?結婚したいとか」
「…ないよ」
「なぜです?」
「私の寿命から結婚相手を見つけて子供を作り、育てることは不可能だ。仮に出来たとしても
残された家族が悲しむだけだ」
「しかし、貴女のお母様は…「お母さんと私は違うっ!」
「私はお母さんとは違うの。似てるって言われるけど違う。私はお母さんのような選択肢は
出来ない」
それに自身の持つ能力で、相手の心理が分かってしまう。将来の夢、結婚して子供を作り、
明るい家庭を持ちたいと言う未来までもが、彼女の持つ万能によって本人の意思に関係なく、
彼女のあらゆる可能性を壊し続けてきたのだ。
「だから人生の最後は家族と一緒に過ごす。確かに…それも良いかもしれませんね」
最後の選択は、人それぞれ。
轟鬼はそう納得して、その後は何も言わなかった。




