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危機回避・未来  作者: 中野翔
僕に危機回避能力は存在しない
21/59

異変



   翌日、6月14日。

   幸磨と月冴が学校へ来ると、マリアが自分の席についているのを見てすぐに駆け寄った。

   「マリアちゃん」

   「…」

   幸磨が名前を呼ぶが、返事が返ってこない。

   ただ彼の顔をじっと見るだけで表情も変わらない。

   「マリアちゃん、大丈夫?まだ体調悪い?」

   「…」

   月冴の声にも返事をせず、マリアは再び黒板の方を向いてしまう。

   それから炎樹と桜華が教室へ入り、マリアに声を掛けるも彼女の反応は幸磨達と同じで全く

  返事を返さない。ところが炎樹は幸磨達と同じ反応をしたにも関わらず、桜華だけはマリアの異変

  に気が付かなかった。桜華だけじゃなく、担任の霜月や彼女と言葉を交わした他の生徒も彼女が自

  分達の問いかけに反応しないのはいつものことだと、それが当たり前だと口を揃えて答えるのだ。

   その回答に幸磨・月冴・炎樹の三人は、昼休みにクラスから離れて一度話し合いをすることにし

  たのだった。



   「いったいどうなってるの!?皆、マリアちゃんがおかしいのに気づかないなんて」

   「こう君。気持ちは分かるけど、少し声を抑えて。どこかで誰かが聞き耳を立ててるかもしれ

  ないから」

   「っ!?…ごめん」

   「俺も皆の反応を見て驚いたけど、ここまで手の込んだことをするなんて只者じゃないよな?」

   「あぁ。けど、目的が分からない。それに、俺達三人は記憶が残っているのに、なんで他の生徒

  や先生には彼女に関しての記憶が違うのか…」

   「記憶を残したのは、わざとだよ」

   「伊島さん!?」

   「やっぱりお前が犯人か、伊島楼」

   そう言ったのは、月冴だった。

   だが、楼は「何の話だ?」と、身に覚えがないという素振りを見せる。

   「とぼけるなよっ!お前がマリアちゃんをあんな風にしたんだろっ!今すぐにマリアちゃんを

  元に戻せっ!」

   月冴の言葉に煽られて、幸磨が怒りを露わにする。

   だが、幸磨の言葉に楼は「それは無理な話だな」と短く答える。

   「っ!?なんで…?」

   幸磨は楼の言っていることが理解出来ず、そう呟く。

   だがそれにはちゃんとした理由があってのことだった。

   「犯人が自分じゃないからだ。お前達は私がマリアに手を掛けたと思っているみたいだが、自分

  は何もしていない。つまり、無実だ」

   「…じゃあ、いったい誰がマリアちゃんを…」

   他に犯人と思われる人物に心当たりがない。

   彼女じゃないとするといったい誰がこんなことをしたのだろうかと、幸磨だけじゃなく月冴も

  炎樹もお手上げだった。三人の反応を見て楼は、「知りたいか?」と尋ねる。

   「お前、犯人が誰なのか分かってるのか?」

   そう聞いたのは、炎樹だった。

   楼はその質問に黙って頷くと、幸磨が「教えてっ!」と叫ぶ。

   「教えてほしい。いったい誰がマリアちゃんを……」

   「その前にさっきのことを謝罪してもらおうか?話はそれからだ」

   意地悪するかのように謝罪を求む楼。

   「っ!?………ごめんなさい」

   「よろしい」

   少し間が空いていたが、楼は幸磨の謝罪を受け入れた。しかし、自分よりも本人に聞いた方が

  早いと言って、楼は犯人の居場所を知る人物を三人に教えて、すぐに学校を去って行った。

   そして、今日の授業を終えた三人は幸磨の家へまっすぐ帰宅すると……。


   『おかえりなさい。今日はいつもより早いわね』

   家に帰ると、玄関で子機03が出迎えてくれた。

   それはいつものことで幸磨と月冴は慣れているはずだが、今日はとても緊張していた。

   リビングに入ったところで、幸磨が勇気を出して子機に声を掛ける。

   「子機、話があるんだ」

   『あら、何かしら?』

   「じっ、実は………」

   『?』

   いざ口に出そうとすると、声が出ない。

   月冴は自分が代わろうかと前に出ようとするが、炎樹がそれを阻止した。

   「マリアちゃんが……僕の友達が、今日朝学校で声掛けたら全然話してくれないんだ。前は

   挨拶もしてくれたし、休み時間にも声掛けてくれてたのに…」

   『うんうん。それで?』

   「それで…僕と月冴君と炎樹君以外の人達に聞いたらそれが普通だって…おかしくないって

   言うから…僕は皆の方がおかしいって思ったんだ」

   『…うん』

   「子機も僕のことおかしいって思ってる?」

   『いいえ。あなたはどこもおかしくないわ。月冴も炎樹君もね』

   「子機…マリアちゃんや先生達の記憶を変えた犯人の居場所、知ってる?」

   『知ってどうするつもり?』

   「聞きたいことがあるんだ。どうしてこんなことをしたのか…どうして僕達三人の記憶を残した

  のか、それが知りたいんだ」

   「あと、マリアちゃんを元に戻してほしいってお願いもね」

   「月冴君…」

   「お母さん。犯人の居場所、知ってるなら教えてくれない?」

   『月冴…』

   「大丈夫だよ。俺と炎樹が付いてるからさ」

   『…分かったわ。ちょっと待ってて』

    

    数分後、子機はお守りと言ってある部屋に置いてあった刀を月冴に渡した。

   『無茶しちゃだめよ。何かあったら、これを鳴らしなさい』

    そう言って三人に持たせたのは、なぜか色違いの防犯ブザー。

    それからたくさんの物を持たされそうになったため、三人は子機から逃げるようにして家を

   出たのであった。

   

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