表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
危機回避・未来  作者: 中野翔
僕に危機回避能力は存在しない
20/59

謎の少女



 霜月に幸磨の傘を預けて職員室を出た後、マリアは家にまっすぐ帰らなかった。

   いや、まっすぐ帰る気になれないと言った方がこの場合は正しいだろう。

   朝から気味が悪い手紙を読み、お気に入りの傘を自らの手でゴミ箱へ捨て、身体は雨に濡れた。

   代わりの傘を差す気にもなれず、ただ目的地もなく歩き続けていた。

    

    『あなたの、ひみつ、しっています』

    誰?……いったい誰なの?

    私の秘密を知ってるって、どういうこと?

    そもそも私の秘密を知ることなんて絶対に有り得ない。

    だって、私は……私がやってきたことを他の人間が知ることなんて出来るはずがないんだから!

    

    「それは、普通の人間だったらの話でしょ?」

    考え事をしていたマリアに、通行人の女性が声をかけてきた。

    外見はどこにでもいそうな20代ぐらいのOLだった。

    「あの…誰ですか?」

    突然のことで、この状況が理解出来ないマリア。

    だが女性は淡々とした口調で、「私はあなたの秘密を知っています」と答える。

    問いの答えになっていなかったが、マリアにとってはその言葉で十分だった。

    「なっ、何を…仰っている意味が…」

    「ごまかそうとしても無駄ですよ」

    今度は30代ぐらいの男性会社員が突然彼女達の前で立ち止まるとそう答える。

    「えっ…あの…」

    「私は、あなたの秘密を知っています」

    「なっ…なんなの…?いったい何なのよっ!」

    マリアは怖くなって二人から走って逃げる。

    だが、二人は彼女を追いかけようとはしない。なぜならその必要がないから。

    どこへ逃げようとも、彼女が行き着くところは把握しているから。


    マリアが逃げ込んだ場所は、今はもう誰も住んでいない空き家だった。

    施錠されていない窓から侵入し、しばらくの間ここで身を隠すことにしたのだ。

    だが、長い時間までこんな汚い場所へ居座るつもりはない。

    一時間ほどしたら諦めるだろうというのが、マリアの考えだった。

    しかし、突如空き家の玄関扉が勢いよく何者かに破壊され、溜まっていたホコリが天井へ

   と飛んでいく。

    「げほっ、げほっ、げほっ……なっ…!?」

    マリアが咳き込み、ホコリが舞う中視界に捉えたのは、自分より背の高い10代の少女。

    少女はマリアにゆっくりと近づいた。

    

    「なるほど…写真で見るより、実物の方が可愛いですね」

    「…えっ?」

     第一声がまさかの口説き台詞で、さすがにこれにはマリアも動揺する。

    「ですが、私は同性にも異性にも興味がありません。私には必要ないことですから」

    「なっ…」

     何言ってるの、この人?

     もしかして……ば。

    「理解して頂かなくて結構ですよ。これは…独り言ですから」

     独り言と言っているわりには、目が先程より冷たく感じられる。

     まるで獲物を見るかのようなとても怖い目を、少女はしていた。

    「さて、独り言はこれぐらいにして…本題に入りましょうか。私はそのために眠りから覚め

   たのですから」

    「眠り?」

    「宇治川マリアさん。私は、あなたの全てを知っています。出生の経緯とこれまであなたが

   起こした数々の罪、そして…あなたが今しようとしている行為を、私は全て把握しています」

    「っ!?」

    全て…ですって!?

    まさかそんなはずは…。

    「残念ですがそのまさかですよ」

    「なっ!?」   

    「私は、あなたの心を読むことが出来るんです。私には何でもお見通しなんですよ。どんな

   に着飾ろうとも、どんなにおしとやかに振る舞おうとも、心の中まで他人に見られることはな

   いですからね。外から見れば可愛いお人形さんのように肌が真っ白で力を少し加えるとすぐに

   折れそうな華奢な身体。でも中身は…真っ黒ですね。大人の心みたいに真っ黒、汚い。台無し

   ですよ、本当に」

    気味が悪い笑顔で、真っ黒・汚い・台無し。

    少女の言葉がマリアの心に突き刺さった。

    そして、マリアの身体から黒い煙のようなものが溢れ出してきて…。

    「うるさいっ、黙れっ!!!!!!!!!!!!」

    マリアがそう叫んだ瞬間、少女の頭上にもろくなった天井の一部が落下する。

    しかし、それは彼女の頭に落ちなかった。

    まるで時間が止まったかのように、頭上ぎりぎりのところで停止したのだ。

    マリアは言葉が出ず、口を開けて驚いていると、少女はちょっと右にずれた所でパチン!と

   指を鳴らす。すると、停止していた天井の一部が、床へ垂直に落下した。

    これはマジックではなく、本物の超能力だ。

    「事故に見せかけて殺そうとしても無駄です。私にあなたの力は通用しません」

    「ばっ、化け物か……」

    「それはあなたも同じでしょ?この世に誕生してから今現在まで、その力を自分の正義の

   ために使ったんです。無能力者の目からすれば、能力者も超能力者も全部同じで化け物だと

   言う人間だっているでしょうから。そう考えれば、あなたも私と同じですよ」

    少女の言葉は正論だった。

    数秒ほど沈黙した後、マリアが彼女にこう尋ねる。

    「それで…私をどうしようって言うの?警察に突き出すつもり!?言っとくけど、さっきの

   ことだけじゃ何の証拠にもならないわよっ」

    動機はあっても、証拠がなければ逮捕することはできない。

    マリアはまだ自信を喪失しておらず、まだ逃げ切れる可能性はあると思っていた。

    「いいえ、そんなことはしません。そんなところよりもあなたを連れていく絶好の場所が

   あります。私はそのためにあなたと接触した」 

    しかし、少女はマリアの予想を超える行動を取った。

    警察には連れていかないが、他の場所へ自分をどこかへ連れていく。

    まだ中学生になったばかりの彼女には、そこがいったいどこなのか全く見当がつかなかっ

   たので… 

    「何よそれっ。私は行かないわよ、誰がそんなとこ……っ!?」

    マリアはそう言いかけた後、思考は突然停止して倒れてしまった。

    少女は意識があることを確認後、マリアの身体を自らの力を使って軽々と持ち上げる。

    「拒否することは最初から分かっていましたよ。これ以上、あなたの思い通りにはさせたく 

   ないので、遠くへ連れていくだけです。あなたに好意を抱いてるあの子のためにもね」

    少女は独り言を呟いた後、マリアと共に空き家から姿を消した。

    まるで最初からそこには誰もいなかったかのように、人が入った形跡は残らず、壊れた扉や

   天井も元の状態に戻されていたのだった。

    

    

    

    

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ