あなたの、ひみつ、しっています
試験日三日目、6月13日。
マリアが朝早く学校へ登校すると、傘置き場に自分の傘が置いてあることに気がついた。
確認のため、彼女はその場で自分の傘をパッと広げる。
すると、傘の中から糸に縛られた一枚の紙が出てきたので、広げてみると……。
「…っ!?」
マリアは広げた傘を床に落とした。
もし、他の生徒がいたら、何事かと彼女に視線が集まっていたかもしれない。
今ここにいるのはマリアだけだったのが、幸い。
彼女はその傘を紙が付いた状態のまま、ゴミ捨て場へ向かい…自らの手で傘をゴミ箱へ捨てた。
外は雨が降っていたが、そんなこともお構いなしで彼女の身体はびっしょりと濡れていた。
その後、マリアは幸磨の傘を担任教師の霜月に預け、「今日は休みます」と告げて家へ戻って行
った。普通なら授業を受けろと言うべきところを、霜月はマリアを止めるどころか、「分かりま
した。気をつけて帰りなさい」と彼女を見送ったのだった。
マリアが欠席したことを幸磨達は桜華を通じて知り、幸磨の傘も返却された。
「先生の話だと、途中で具合が悪くなったから傘を預けてすぐ帰っちゃったんだって」
「そう…」
体調が悪いのに学校まで届けてくれたことを考えると、幸磨は胸が苦しくなる。
「やっぱり昨日の傘のこと気にしてるんじゃないか?」
「そうだな…お気に入りの傘だって言ってたし、よほどショックだったのかもな」
炎樹と月冴がそう話していると、楼が教室に入って来た。
「そうじゃないかもしれないぞ。お二人さん」
入ってきて早々、話に入ってくる楼に月冴は「どういうことだ?」と尋ねる。
「さっき、ゴミ捨て場に妙な物が捨てられてるのを見つけたんだ」
「妙な物って?」
そう聞いたのは幸磨だった。
すると楼は、「気になるなら自分の目で確かめてみな」と冷たく返す。
幸磨はその言葉にむかっとしたが、何が捨ててあるのか気になったため、急いでゴミ捨て場へ
向かう。後で月冴、炎樹の二人も彼の後を追いかけて行った。
「あっ、ちょっと皆っ!もうすぐHRだからそれまでに戻って来てよ!」
桜華は三人の背中に向かってそう叫んだ。
伝わっているかどうかは分からないが、とりあえずHRまでに戻ってくることを願ったのだった。
ゴミ捨て場は人気のない体育館側の道を通った所にある。
朝早くにゴミ捨て場で三人の男子がいったい何をしているんだと思われてはいたが、そんなこと
彼らは全く気にしてない。いや、気にするどころではなかった。
「このピンク色の傘…ひょっとしてマリアちゃんの?」
幸磨は捨てられていた傘を手に持ち、月冴と炎樹に視線を向ける。
「そうでなきゃ、あいつはあんなこと言わないだろうな。妙な物っていうから何かと思えば…」
「死体じゃないよりはマシだな」
「しっ、死体!?」
「炎樹」
「おっと、ごめんごめん。冗談だよ」
うっかり口が滑ったとでも言うように炎樹は幸磨と月冴に謝る。
「もしかしたら、マリアちゃん…自分の傘が捨てられてるのを見て帰っちゃったんじゃ」
「そんなっ!?いったい誰がそんなことをっ」
「落ち着いて。まだそうと決まったわけじゃないだろう?なっ、月冴」
「あぁ…ごめん。今のは俺が悪かったよ」
「許せない。もし月冴君が言ったことが本当なら、僕絶対にそいつ許せないっ」
幸磨は彼女が自らの手でその傘を捨てたことを知らず、怒りの炎を燃やした。
彼らが発見した際、傘に付けられていた紙はびりびりに破かれていて気づかれなかったが、
紙には…『あなたの、ひみつ、しっています』と平仮名で書かれていた。




