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危機回避・未来  作者: 中野翔
僕に危機回避能力は存在しない
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科学者



   5月3日、木曜日。午前9時。

   GWのため学校はお休み。幸磨と月冴は一緒の部屋で宿題をやっていると、1階で掃除をして 

  いた子機03が様子を見に二人がいる部屋を訪れる。

   『幸磨、月冴。ちゃんと宿題やってる?』

   「ちゃんとやってるよ。忘れたらペナルティーあるし」

   「二人で一緒にやってるし、早く終わればその分自由になるから頑張ってやってるよ」

   『それなら良かったわ。あっ、そうそう』

   子機は何かを思い出した。

   月冴は「どうしたの?」と子機に尋ねると、子機は『今日のお昼にお客さんが来るから』と

  二人に伝えた。

   「えっ、お客さん?」

   「誰が来るの?」

   誰が尋ねてくるのか気になるようで、二人は子機をじっと見つめた。

   その要望に子機は『眼鏡の科学者じいさんよ』と答えると、幸磨は「えっ!?」と驚いて

  立ち上がる。月冴は突然立ち上がった幸磨にびくっとした。

 「柊のおじさんが来るの?本当に?」

   幸磨は信じられないと思いながらも、子機に確認を取る。

   その問いに子機は『本当よ』と首を縦にゆっくり振った。

   しかし、この話についていけなかった月冴は恐る恐る二人に「あの…柊のおじさんって……

  俺知らないんですけど」と尋ねると、子機が短く簡単に説明した。

   『幸磨の父親と同じ職場で働いてる科学者よ。血縁関係はないけど、子供の頃から可愛がって

  もらっているから親戚のおじさんみたいな人なの』

   「あぁ~なるほどね」

   「うわぁ~楽しみだなぁ~。おじさん早く来ないかなぁ~」

   幸磨はすっかり浮かれていた。

   しかし、子機は彼が家に来ることが少し心配だった。

   それは柊瑞生が科学者で、自分が開発した発明品の性能を見せようと誰かに実験台になっても

  らって実際に見てもらおうとする。かつて当時16歳の少女が彼の発明品のテストを行った際、

  数多くのアクシデントやハプニングに遭遇し、ひどい目に遭っている。

   『楽しみなのは良いけど、近所迷惑になることだけはやめてほしいわね』

   清合町は田舎だが、もし彼が何らかの発明品を持ってきてテストしたいと言い出したら、ちょ

  っとした大事件に発展する可能性もある。子供達のためにも悪目立ちをすることは避けたいと思

  う子機であった。

   『さてと。掃除の続きしないと』

   その時はその時で考えようと子機は先程まで行っていた1階の掃除に戻ることにした。

   すると月冴が「お母さん」と声を掛けて子機を引きとめる。

   「俺達も掃除手伝うよ」

   『あら、いいの?』

   子機がそう尋ねると、幸磨が「大丈夫だよ。あともう少しで終わるから」と告げる。

   『そう?じゃあ、幸磨と一緒に2階の掃除をお願い。あっ、私の部屋はいいから』

   月冴は子機の最後の言葉に「えっ、なんで?」と素早く返した。

   どうして子機の部屋は掃除をしなくて良いのか純粋に疑問に思ったからだ。

   単純に人型ロボットだからと言えば月冴の疑問は解決されたかもしれないが、子機の出した

  答えは…。

   『なんでって、なんでもよ。じゃあ、2階は任せたから』

   その答えは明らかに怪しかった。

   そして逃げるように去って行ったのも加えるとますます怪しく見える。

   なので月冴は子機が部屋を退室した後、これは何かあるなと確信。

   これは確かめなければならないと、月冴は自分の部屋を掃除した後、子機03の部屋へと一人

  足を運んだ。

   子機03は人型ロボットであるが、子機専用の部屋がなぜか設けられている。

   考えられるのは起動するために必要な充電設備。スマホ・パソコンといった電化製品は電気が

  無くなると機能が停止する。子機も毎日稼働しているにあたり、休憩=充電する時間が必要だ。

  その際に子機は自分専用の部屋に入って充電するに違いないと、月冴は推測する。

   「さて。お母さんの部屋はどうなっているのか…」

   独り言を呟きながら、月冴は子機の部屋の扉をゆっくりと開ける。

   すると彼の視界に入ったのはテレビにベッドといったごく普通の部屋だった。

   あまりにも普通すぎて月冴は数秒間呆然としてしまうが、何か変わったところはないかと

  宝探しのように辺りをきょろきょろと見渡す。

   『何してるの、月冴』

   「っ!?」

   『私の部屋に何か用?』

   「あっ、いや…その…」

   『月冴』

   「…ごめんなさい」

   『私の部屋なんて地味でしょ。だから見られたくなかったのに』

   「いやっ、俺はてっきり人型ロボット専用の充電器があるのかと思って…」

   『コックピットみたいなカッコいいの機械があるとでも思ったのね。でも残念。そんなのは

  ないわよ』

   「そっ…そっか」

   月冴は自分の推理が外れてショックを受けた。

   だがそれだけじゃなく、絶対に見つからないと過信していたこともあって月冴は子機に見つか

  って叱られたことにも落ち込んでいた。

   『幸磨は柊先生が来るのが楽しみで、下へ下りて行ったからあなたも行きなさい』

   「お母さんは?」

   『私も後で行くわ。先に下りてて』

   「分かった」

   月冴が1階へ下りたことを確認すると、子機は部屋の扉を閉めた。

   そして、ベッドの下の収納ケースを引っ張り出して『ふぅ』と一息つく。

   『あぁ~危なかった。子供達に見つからないようにベッドの下に隠してて本当に良かったわ』

   収納ケースの中身はアニメのDVD・漫画本・ゲーム機などといったもので、子機は二人が

  学校へ行っている時間帯や夜寝静まった頃にこの部屋でDVDを観賞し、ゲームを楽しんでいる。

  だが、どうしてそれを二人に隠しているのかは謎。

   『とにかくこの部屋には私以外入れないようにしておかなくちゃ』

   そう言うと、子機は部屋を出て二人のいる一階へと下りて行った。

  

   

   柊瑞生が彼らの家に到着したのは、お昼を少し過ぎた頃。

   科学者なのだから白衣を着ているという印象があるだろうが、彼はどこで買ったか分からない

   安物のダサい服を着てやって来たのだ。

   「やっほぉ~久し振り~」

   リビングへとやって来た陽気なおじさんは幸磨達に軽い挨拶をする。

   「柊のおじさん、久し振り!元気してた?」

   「おぅ、元気元気。いやぁ~それにしても幸磨、大きくなったなぁ~。昔はこんな小さかった

   のに」

   いったいいつの話をしているのだろうか?と幸磨が内心そう思っていると、柊先生は月冴に

  視線を向ける。

   「んで、君が月冴君?」

   「…どうも」

   月冴は少し顔が強張っていた。

   だがそんなこと気にせず、柊先生は「おぉ~そうかそうか」と彼に近寄って両手で握手する。

   月冴のことは幸磨の祖父・父親から話に聞いていたが、実際に会うのがお互い初めてである。

   「俺は柊瑞生だ。うちの幸磨がお世話になってます」

   『先生のものじゃありませんよ』

   すると子機が柊先生の言葉に突っ込みを入れた。

   それに対し柊先生は子機を見て「いやぁ~冗談だよ。冗談」と笑いながら言うが、子機の

  目は笑うどころか表情すら変えられないシーンとしたものだった。この空気はさすがにまずいと

  思ったのか柊先生が「元気か?」と話題をさらっと変える。

   『えぇ。この通り元気ですよ。先生もお変わりなさそうで何よりです』

   「んだよ、そんなに怒るなって。幸磨は俺にとっては孫みたいなもんで昔っから可愛がってる

  んだからいいじゃねぇか」

   怒っているのか?と幸磨と月冴は疑問に思うが、それを口にすることはなかった。

   なぜならの後、子機が二人に『宿題やって来なさい』と言って、リビングから追い出したから。

   子機に怒られたばかりの月冴は幸磨を連れて二階の自分達の部屋へと退散した。それを確認し

  て子機は柊先生に向けて口を開く。


   『それで、何しに来たの?子供達の顔を見にわざわざここまで来たわけじゃないんでしょ?』

   「まぁ~そうだな」

   柊先生は自分の鞄からファイルを取り出し、テーブルの上に置いた。

   見やすいように広げると、子機の目に一人の髪が長い少女の写真が映る。

   

   「3年前に鎌深市かまみしで起きた誘拐殺人事件覚えてるか?」

   『…えぇ、もちろん』

   「世間には未解決事件となってるが、実はこの事件の容疑者はもう挙がってるんだ」

   『それが…この写真に写ってる女の子?』

   「そうだ。だがそれは女の子でも男の子でもない、性別不明児せいべつふめいじだ」

   『…性別不明児』

   普通なら男女と判断されるのだが、ごく稀に性別不明で誕生する子供を性別不明児と呼ぶ。

   性別不明児は年々増えており、男女どちらでもないことから気味が悪い・呪われているなどと

  いう理由から施設に預ける親が多いと何度か報道されていた。

   「容疑者は当時10歳の性別不明児。親は子供を施設に預けた直後、交通事故で亡くなってる。

  それから7歳で里親に引き取られて不明児は女の子として育てられた。ところが10歳の時に

  性別不明児ということがクラスメイトにばれて、陰口・嫌味といったいじめを受けて彼女は登校

  拒否になった。だが登校拒否になった翌日、彼女をいじめていたクラスメイト数人が誘拐され、

  殺された」

   『少女がいじめられた腹いせにクラスメイトを殺したと?』

   「その可能性が高い。だが、決定的な証拠がなく、逮捕は出来なかった」

   『なるほど。それでこの資料を私に見せてどうしろと?』

   いったい先生が誰の頼みでこんなことをしているのかは知らないが、自分を頼りにしている

  ということは言われなくても分かる。もしかしたらただ話を聞いてもらいたかっただけかもし

  れないが、それならば電話で済ませばいいだけのこと。

   柊先生は子機の問いに「協力してほしい」と短い言葉で答えたのだった。


   

  

  

   

 

   

   

   

   

   

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