part5
「此の流行り病は恐らく、病原体が血液中で繁殖して居ます。だから、血液を介して感染する。
私が其れに気付いたのは、生きる為の吸血行為をした時でした。血液の味に違和感を覚えた私は其の人間を調べ、病の罹患者で在ることを確認しました。
感染の仕方は実に単純。大量に病原体の潜んで居る血液を僅かでも体内に入れたらもう其れで感染です。水で洗った位では完全に洗い流す事は出来ませんから質が悪い。罹患者の血液を口に含んだら勿論ですし、手で触れた丈でも粗確実に感染するでしょう。
此の病原体の質の悪い所はもう一つ。罹患者が死の間際に為った時、罹患者の肺の血管を破壊し、血を吐き出させます。他の人間に新たに感染出来る様に」
「あ! 母も……ハァ……最期に血を吐いてました!」
思わず母の最期を思い出した私は叫んだ。然し、可笑しい。息切れがする。
「実例を御覧になったんですね……」
領主様が私に哀しそうな笑みを向けた。其の笑みからは、私への同情も見て取れた。
「話を戻しましょう。病原体は血液中に潜む。私は其処から一つ、仮説を立てた。若し罹患者の血液を全て吸い取ったら、病原体を死滅させ、病を治す事が出来るのではないか、と。
私は末期の患者を呼び集め、実験しました。患者の血を吸い尽くしました。
あ、無論私が病に罹患する事は在りません。吸血鬼は不死身ですから、此の程度の病原体なら体内に取り入れても病原体の方が死滅します。
扨、患者の血を吸い尽くしましたが、其の直後に気付きました。此の儘では躯に血が巡らず、酸素が供給されなくて患者が死んでしまうと」
「待て、貴殿は馬鹿なのか? そんな当たり前過ぎる事に血を吸い尽くしてから気付くなよ」
先生が口を挟んだ。
「当たり前過ぎる事程中々気付かない物ですよ。
扨、其の事に気付いた私は頭をフル回転させました。そして、私の血液を与える事を閃きました。最善策とは言えないと思います。然し、可能な唯一の対処法でした。彼の瞬間に於いても、そして今現在に於いても。
御察しの通り、此の方法には大きな副作用が有ります。私の血を分け与えられた者は人間として存在出来なく為る。私の血を受け入れられずに生命が壊れ死んでしまうか、私の傀儡と――吸血鬼と化してしまうか。私が行って居る治療法は死と言う大きなリスクを孕んで居て、死を回避しても元の生活には戻れない。治療法なんて言ってますが、本当は治療法なんかではなく、唯の対症療法なんですよ。
此の村は、流行り病に罹患し、私の治療を、いや、対症療法を受けて、死を回避し、そして吸血鬼と化した、人間としての生活を送れなく為った者達の村なんですよ。
……扨、如何されますか、御嬢さん。私の対症療法を受けますか?」
領主様が話を終え、私に問うた。
私は先叫んだ時よりも息切れが酷く、感じる体温は高く為って居た。
……母の最期にそっくりだ。
屹度、今の私の躯の大半は黒く染まって居るのだろう。
「御嬢さん、受けますか? 受けませんか?」
領主様が私に再度問う。其れは丸で急かす様に。私の最期が近い事を見て取って居る様に。
答えなんて、決まってる。何の為に私は此処へ来たのか。何の為に先生に付いて来たのか。
生きる為だ。
だから、私は答える。息は切々に、声はか細く、然し、出来る限りはっきりと。
「……ハァ……領主様……ッハァ、ハァ……御願いします、其の対症療法を」
今話辺りでクライマックスとなる筈だった颯奈夜です。
予定より一話増えそうですね。
ですが、まもなく完結です。きっと多分あっという間です。
どうかお楽しみに。
また次話でお会いしましょう。




