第五話 春祭り
第三勢力が出る回
年に一度の春祭り、ラルナーラ王国の城下町は活気で満ち溢れていた。人でごった返していて、おしくらまんじゅう状態は当分収まりそうにない。
ハッシュたちも休日を利用してこちらへやって来た。始まったばかりの学院生活の日々の疲れを癒すのはもちろん、ハッシュとルキアーノは魔鳥討伐の慰安も兼ねている。いつものレグオ寮の黄色いローブの制服ではなく、各々がよく見る安価で買えるブランド服を着ている。
「ハッシュくんは学院の中にある服屋で急いで買ったんでしたっけ?実家から持って来なかったんですか?」
キョウガは彼のあまりにもシンプル過ぎる服装の理由について確認した。自分たちは買える範囲の中でこだわって大なり小なりデザインが凝った物にしているが、彼だけは本当に何もない無地の白い半袖と黒い短パンを着ているからだ。
「まあな、お前ら皆んな私服で行くっつうから慌てて買いに行ったんだ。」
ハッシュは質問に対し、真摯に答えた。彼は自分でも五人の中で一際浮いている事に気づいている。ひとえにこれまでファッションというのに興味を持たなかった事によって生まれた弊害だ。
「ミニマリストみたいな所あるしね、ハッシュは。」
ルキアーノは、ハッシュの私服に関して本心からの言葉か皮肉なのかは分かりかねるが一応肯定の言葉を述べた。
「いちいち細かい事気にすんなや、とっとと飯食おうや。腹減ったで。」
「そこのカフェ行きましょ。服の話なんて後にして。」
セオドアとゾフィーは腹を空かしている事を理由に服の話題を強引に切った。二人にとっては、これからも続くかもしれない服のセンスの談義はどうしようもなく退屈に見えていた。
彼女がすすめたカフェは祭りの賑わいが嘘のようにすいていた。お陰で、彼らは思っていたよりもスムーズに入店できた。
「テーブル席が空いてて助かったね。皆んな何を注文する?」
ルキアーノは席についてメニュー表を眺めながら、ハッシュたちに質問をする。
「私はこのパンケーキとホワイトチョコレートドリンクにしようかな。」
いの一番にゾフィーは、ホイップクリームと蜂蜜がふんだんにかかっているパンケーキの絵・ミルクチョコレートのソースがかかったスティック状のクッキーが刺されているホワイトチョコレートドリンクの絵を指さして四人に見せた。絵で見ても分かる二つの甘ったるさは自分たちが食べる物でないにも関わらず、四人に胃もたれを軽く覚えさせた。
「何よ、揃いも揃ってその顔は。脂が乗ってるピチピチの16歳だよ、枯れたオッサンみたいに血糖値とか考えなくて良いでしょ。」
ゾフィーは四人の引き攣った顔に疑問符を浮かべている。
「…ボクはメロンソーダで。」
キョウガはさりげなくメロンソーダを注文した。こちらは彼女と打って変わって、シンプルなメロンソーダだけだ。
「オレはカフェラテとナポリタンで。」
ハッシュは普通のカフェラテと美味しそうなナポリタンを注文した。ナポリタンは絵を見る限り、トマトソースとウィンナーが程よく麺に絡んでいそうで食欲をそそられる。
「ワイはツナサンドとホットミルクに決めたで。」
セオドアはツナと玉ねぎが挟まっているツナサンドとホットミルクという定番の組み合わせを頼んだ。
「僕はレモンティーとバターチキンカレーにしようかな。よし、これで全員決まったって事で良いよね?」
ルキアーノは全員の注文を聞き終えた後に一呼吸おき自分の物も言った。バターチキンカレーは説明文からも辛さが痛い程伝わってくる。
「ウェイターさん、注文決まりました!」
ルキアーノは店員を呼びつけて全員の注文をサラッと済ませた。
三人はすぐに食べ終わったが、ルキアーノとゾフィーだけはガッツリ頼んだ事もあって、全品揃ってから20分経った今でもまだ食べ終えていない。
「思ったより辛いよ、コレ。ウェイターさん水もう一杯下さーい!」
バターチキンカレーの予想外の辛さに、ルキアーノの舌は悲鳴を上げていた。食べ始めて数分でレモンティーを飲み干し、今では空になったコップが四個も並んでいる。それでも辛さは一向に引かないらしく、彼は再び水のおかわりを求めた。
「そんなに辛いなら残しなよ。私ももう食べ終わったよ?」
途中まで並走していたゾフィーは彼より一足先に食べ終えた。苦悶の表情を浮かべている彼の肩をポンポンと柔らかく叩いた。
「あっ…ヤバいぞ。」
「本当ですね。」
ルキアーノの吐き気に体を支配された苦悶の表情を正面から見たハッシュとキョウガは逆に塩らしくなった。まるで爆発寸前の時限爆弾の存在に気づいた時の反応だ。
「ナニをそんな真顔しとんのじゃ!ウェイターさーん、トイレちいっとばかし貸してくれや!」
「そういう事ですね…トイレはそちらの奥の扉です。」
真顔の二人と違って諦めきれないセオドアはルキアーノに肩を貸して、トイレの位置を確認すると一目散に走り出した。ルキアーノは個室に入るなりすぐに吐いてしまった。その音は思いのほか大きく、トイレの近くの席の者たちにも聞こえるぐらい響いた。近くの客は彼の様子を直接見る事はしないまでも、心配し始めた。
ひとしきり吐き終えたルキアーノは諦観の表情を浮かべてフラフラしている。待機していたセオドアが再び手を貸した。
「皆んなは?」
「もうおあいそ済まして待っとんで。ついでに俺含めて分け合おうてオマエん分も出したわ。もう下げられてるから外に出ようや。」
ハッシュたちの温かい行動を聞いたルキアーノは感謝と謝罪を込めた涙を流しながらそのまま店の外へ出た。
「奢ってもらおうかと思ったが、やめだ。そんな顔されちゃ興が醒めちまうよ。」
「ハッシュ、そういうキミが一番多く出した癖に。」
「今度は中辛カレーとかにしときなさいよ。」
そんな彼の意外な様子を見たハッシュたちは優しい笑顔で出迎えた。
祭りの射撃で百発百中を見事に決めたゾフィーは、色とりどりのお菓子たちの獲得に成功。ハッシュたちはその神業的な腕前にあやかって、お菓子のおこぼれを頂戴していた。
「射撃武器を錬成する能力を持ってる人ってこういう事になると他の追随を許さないよね。実際ゾフィーのサブ能力である典型的なそれとメイン能力である入れ替えが組み合わさって無敵だね。」
ルキアーノが前方向が見えなくなる程フーセンガムを大きく膨らませて彼女を褒め称える。
「そんな事も無いわよ。案外着いて来れる化け物って存在するのよ。現に私の母さんとかいるし。」
彼女は己の腕前を謙遜してこそいるものの、どこか声が明るく感じる。
「大抵はてんやわんやになるだろ。サブ発現させて、しかもこんなに鍛えてあるんだったら充分だろ?もっとも、母親にぎゃふんと言わせたいと思ってるんだったら能力の扱い方よりも頭の使い方を考えれば良いと思うが。」
「そうしたいからホリーネに入学したんですけどぉ!」
ハッシュは彼女の実力を認めつつ、嫌味ったらしい発言をした。ゾフィーは彼の箸にも棒にもかからない指摘に若干腹を立てたようで、声を荒げた。そんな二人の口喧嘩を見て、三人は呆れ果てた。
「前見て下さいよ、二人とも。危ないですよ。」
キョウガの忠告虚しく、あえなく彼らは前にいた見ず知らずのみずぼらしい格好をした少年にぶつかった。
「へへ、ガラ空きだぜ!姉ちゃん!」
少年はぶつかったと同時に、彼女のポケットからするり財布を掠め取った。少年は自慢するかのように、掴んだ財布を掲げた。彼女は即座に位置の入れ替えを発動しようとしたが、少年はそれを察知し人混みに紛れ込み、彼女の視界から逃れた。
(ふぅ…危ねえ危ねえ。ああやって人が沢山いる所でも発動しようとする人たちって経験上、視界に移っている対象に何かするタイプだからな。スリいっぱいやっといて良かったぁ…)
少年は必死に自分を見つけようと走り回ってるゾフィーたちを横目に、ほっと息をついた。
(こうも混雑している場所でオレの能力を発動したら、確実に多くの人を巻き込んじまう…バーリトゥードと思って開き直るにゃリターンがしょっぱ過ぎるぜ。)
ハッシュは少年を探しつつ、心の中で愚痴を言った。
少年は祭りに乗じてスリを続行し、他人の財布を見事に奪い続けてその度に携帯している巾着袋に入れる事を続けた。手慣れた流れ作業のようにするその様は年齢に見合わないアウトローさがある。そんな彼は今、寂れた路地裏にいる。
彼が次にターゲットに選んだのは、右目を前髪で隠した栗色のツインシニヨン・紫色の瞳・灰色を基調とした胸元がはだけたドレスを着ているのが特徴の妖艶な美貌の女性だ。
(ああいうバカそうな人は簡単に盗めるんだよなぁ。ククク、さていくら持ってるか予想と行こうか。)
その思い上がった油断は彼女に近づいた直後に脆く砂のように崩れ去った。
「人のお金奪う子はメッですよぉ。」
彼女はおっとりとした見た目と口調とは真反対のアイアンクローという行動を取った。力んではいないが、明らかに少年の頭が決して離れないように隙間を残さず掴んでいる。少年は押されまいとジタバタ足を動かしたり、噛みついたりしたが全て失敗に終わってしまった。
「卑怯だぞ、子供相手に!」
「負け惜しみですかぁ、みっともなぁい。それにそのパンパンに詰まった巾着袋を見せられて、素直に納得できる人っていると思いますかぁ。」
彼女は少年の負け惜しみを小馬鹿にした。彼女の目線は掴んでいる頭ではなく、彼が今も離さないで持っている巾着袋に向いている。
「なぁ、ベルゾラさんよ。離してやれよ、アンタらは手加減ってのは知らないんだから怖えんだよ。」
少年を探し回っていたハッシュがルキアーノたちを連れて駆けつけた。ハッシュは彼女と知り合いらしく、彼女の容赦のない行動に苦言を呈した。
「お久しぶりですぅ、ハッシュ君。分かりましたぁ。」
彼女は指示に従って、彼をぽいっとゴミのように乱雑に投げ捨てた。とは言っても、方向にあったゴミ袋たちがクッションとして機能した事によって、少年はケガを負わなかった。少年の手から離れた巾着袋はゾフィーが見事にキャッチした。ゾフィーは袋の紐をほどいて、自分の財布を見つけるとすぐにポケットの中に深く入れた。
「んじゃ、この袋を運営のテントに運んでいくね!」
ゾフィーは狼狽する少年を無視して、口笛で自分のホウキを呼び寄せて飛び立った。残ったハッシュたち男子陣はベルゾラを警戒して見つめる。段々と、彼女の肌色がベージュから異種族のような青白い肌色に変わっていった。彼女の変身を見た少年は更に狼狽え、フラフラとどこかへ消えていった。
「何の用でこの国に来たんだ?まさかオレの見守りとかって言うんじゃねえんだろうな?島からここに送り出したのは他でもないアンタたちなんだから。」
ハッシュは彼女が来た理由を淡々とした口調で尋ねる。
「ただ、この国の王様にチェセドラーさんと二人で忠告しに来ただけですよぉ。『貴方がたが大切にしている秘宝がある組織に狙われてる可能性が高いから警戒して下さい。直接手伝う事は出来ないですが、代わりにウチの期待株を送っときましたから安心して下さい。』ってねぇ。ついでに同時期にやっているこのお祭りを楽しもうかな〜って話ですよぉ、まさかその期待株のハッシュ君に再会できるとは思いもしませんでしたが。」
彼女はバカ正直にペラペラと楽しげに答えた。
「アンタはナニモンなんや?魔力が感じ取れないのに、ワイの危機感知がビンビン警報鳴らしとんのや。」
セオドアは彼女と距離を一歩離して質問した。ハッシュの素性について引っかかりはしたものの、彼女の言い分を聞いてからは一旦頭の中に閉まっておく事にした。
「申し遅れてすいませぇん、ハッシュ君のご友人たち。私は魔王 グアロン軍十一番隊隊長にして、十二崩魔が一柱。魔性のベルゾラですぅ。以後お見知りおきを。」
ベルゾラはところどころ間延びした口調ではあるが丁寧に自分の素性を説明した。ハッシュ以外の三人が彼女に対して感じた全身にうっすらと悪寒が走った妙な恐怖の理由がこれで理解できた。
「あまりにも相手が格上やと魔力が感知でけへんと聞いた事あったんやけど、こないな感じなんやな。」
セオドアは過去に聞いた事がある話を思い出した。彼は現在、自分の肉体が覚えた感覚が当分忘れる事は無いだろう。
「へぇ、御伽話でしか聞かない存在と邂逅できるとは。」
「僕も同じ気持ちだよ、キョウガ。まっ、ハッシュの魔力量の多さと強さには納得できたけどね。」
キョウガとルキアーノはグアロン軍という伝説とこれまで思っていた存在に会えた事に恐怖よりも興味が湧いた。そして、これまでハッシュに思っていた強さの訳についても知れた。
「そんな忠告しにわざわざ来たって事は結構危険な奴らなのか?」
「いいえ、一国で簡単に抑え込める連中ですよぉ。ましてや、人間の国の中で最強の国と謳われている国の一つであるここ ラルナーラ王国で有れば負ける確率は限りなく低いと思いますぅ。ただぁ、万が一秘宝が奪われた場合、最悪滅ぶんですよぉ。これ以上は国の秘密に触れてしまうので言えませんねぇ。」
ハッシュの鋭い質問に対して、ベルゾラはラルナーラ王国の戦力とこれから来るであろう勢力を客観的に比較してやんわりと否定はしているが、もしもの可能性を鑑みて行動したと答えた。
「こちらも貴方がたについて聞きたい事は山ほどありますけどぉ、これ以上話すと次の予定に遅れてしまうのでぇ、失礼しまぁす。」
ベルゾラは強烈な白い光に包まれると、姿を消した。
ハッシュたちはゾフィーに合流する為にホウキを操縦して運営のテントがある所へ向かっている。
「三人とも、さっきからよう言うてる十二 崩魔ってそういや何なん? オレはそんなんあんまり通ってこーへんかったから分かれへんねん。」
「あぁ、確かに。セオドアって伝説とか神話に昔からあんまり興味ありませんでしたね。」
セオドアが申し訳なさそうに言うと、キョウガはふと彼の幼少期を思い出した。
「魔王 グアロンの配下で彼と共に神話の時代から生きている不死身の集団ですよ。」
キョウガはハッシュの代わりに簡潔に答えた。
「キミのドサーハって苗字は何ですか?」
「拾った時に、赤ん坊の頃のオレと一緒にオレとオレを拾う人に宛てられた手紙がカゴの中に入ってたからそのまま引用したらしい。」
キョウガからの質問には、記憶を必死に手繰り寄せて答えた。
「死ぬかもとか思った事ってあるのかい?」
「しょっちゅうあったぜ。逃走するかの大人しく降参するフリして不意突いて殺すかの二択をずっと取ってた。」
ルキアーノの質問には環境が過酷であった事を暗に示しながらもどこかカラっとしている表情で答えた。
「そういう経緯だと、僕のイメージ的には異種族至上主義の傲慢ちきなボンボンみたいになるもんかと思ってたから、君みたいにただのどこにでもいる捻くれたニヒリストになってんのは意外だよ。」
「それは偏見が過ぎるぞ。案外、容赦が無さすぎるのと強さが無法なだけでアイツらそういう極端な考え方じゃないからな。それに、ベルゾラさんはオレに期待株なんて大層な言葉をかけてくれたが、今のオレなんか足下にも及ばない存在なんだぞ。そんな威張ってたら速攻でねじ伏せられて終わりだ。」
ルキアーノの想像についてハッシュもまた意外だったようで自分の回想をくたびれた表情でしていた。
「ハッシュってグアロン軍でどういう扱い受けてたんですか?」
キョウガは雑談のお題として、先程知ったハッシュの素性の深掘りを開始した。
「小説とかで見る箱入りのお坊ちゃまキャラみたいな感じよ。親父が魔王 グアロンで、家庭教師的な立ち位置にさっき会ったベルゾラ含めた十二崩魔の面々がいたんだ。と言っても、戦場で手伝いとして駆り出されるばっかで贅沢はそんなに出来なかったけどな。それに同年代の友人も居なかったし。お前らが正真正銘の初めての友人さ。」
ハッシュは彼らの顔を真剣な顔で見つめ、優しげな声色で言った。
そんな話を続ける内にあっという間に目的地に到着した。
運営のテントでは、何やら揉め事が起きていた。
「あぁ、アンタたち。今、大変な事になっちゃってるわ。」
ゾフィーは駆けつけてきた彼らに駆け寄って警告した。とは言っても深刻な面持ちというより呑気そうな表情なので、深く考えるのはバカバカしい話題なのだろう。
「そういう顔をしてるって事はしょうもない喧嘩の延長線上って所かい?」
ルキアーノが彼女に聞く。
「まぁ、そんな所ね。ロートルばかりの派閥同士がバチバチやってんのよ。」
彼女が指を指した方向には、後期高齢者に見えるヨボヨボの老人たちが睨み合って口論していた。あまりにも情けなさ過ぎて、見ていて忍びない。
「うわ、ちょっと離れてるここからでもなんか加齢臭がモワって臭って来てるぞ。大勢が楽しむ祭りであんなんやってて恥ずかしくないのかよ。恥ずかしがれる理性が年齢的に抜け落ちてそうだからしょうがねえか。」
ハッシュは老人たちの醜態を見て、思わず漏らした。その辛辣な意見は、両陣営の耳の中に一言一句そのまま入った。
「おい、クソガキ。もういっぺん言ってみろ。」
「おっ、耳は衰えてねえのか。意外だぜ。こんな冷たい視線に晒される前に歯止め効かなかったのか?」
今度は明らかに煽って発言した。憎たらしい顔と仕草をしていて、ただでさえ苛立っている老人たちの神経を逆撫でしている。ハッシュの言う通り、周りは老人たちを蛆虫を見るような忌避感が強い視線で見ている。
一触即発になった時、ある者が仲裁に入る。
「ハッシュ・ドサーハ。確かにお前の言うだが毒が強すぎるぞ。」
右目に鉤爪でできたと思われる三本傷と左目を前髪で隠した長髪ストレートが特徴のダンディで強面な男だ。
「アンタは……名前なんだっけ?」
「通っている学院で自分が授業受けてる講師の名前ぐらい覚えておけ。レグオ寮の戦闘訓練担当講師 ヴィンチェンツォ・ムドギラーだ。」
男はハッシュが自分の名前を覚えていない事に苛立ちつつも自己紹介をした。
「運営陣の下っ端さんたちよ、こんな生意気なガキンチョに正論言われる位まで威厳無くしてるんだぜ?これ以上晩節を汚す真似しても良い事は何も起こらないから大人しくしとけって。このまま続けるんだったら、運営の幹部にチクるぞ。」
ヴィンチェンツォの脅しに屈した老人たちは苦い表情をして去っていった。
「これからもこの春祭りを存分に楽しめよ。お前ら!」
ヴィンチェンツォのその発言を聞いた者たちによって、拍手の嵐が巻き起こった。
「美味しい所持ってかれた気がするぜ。」
「面倒事に巻き込まれなかったの間違いでしょ。先生に感謝しようよ。」
ルキアーノにそう言われても、ハッシュの中に何故か生まれたブルーな気分は拭えなかった。所詮、彼はまだまだケツの青いクソガキという事だ。




