第二十八話~英雄は伊達じゃない~
クロードが羽織っている白衣には、色んな【魔機】がある。どれも小さなものばかりだが、どれもこれも実用性に長けている。
その中でも、もっとも愛用しているのが【万能工具】だ。
学園長であるロミエーヌの協力を得て、空属性の魔法術式を刻み込んだもので、掌サイズのものだが、空間が捻じ曲げられており、中には色んな工具……そして、武器となる【魔機】が入っている。
「はっ!!」
「グルッ!?」
まずは一体。手負いだった小さな獣を撃退。残りは、巨大な獣だ。見る限り、三メートルは超えており、腕の鱗は《ワイバーン》のもの。
尻尾は《グルージャ》と呼ばれる猛毒の蛇型魔物だ。今、解毒薬はない。キュレは傷を癒すことはできるが、毒などを取り除くことはできない。
尻尾の蛇には注意が必要だ。
「やるじゃないか、ぼうや」
「これでも、世界でも名が知れた【魔法機師】だからね。それに、僕は教師として生徒を護らなくちゃならない。他の二人も大分やばい状態だから……時間はかけられない。速攻で終わらせてもらう」
空気が変わったと思いきや、いつもつけているめがねを外し、ポケットへと仕舞う。
「めがねを?」
「え? クロード先生って目が悪かったんじゃ……」
クロードがめがねを付け始めたのは、今から七年前。
本の読みすぎと【魔機】の開発のしすぎで、視力を落としたと広まっている。そのため、めがねなしでは視界がかすんでしまい、よく見えない。
それほどの視力だとシィ達も知っている。
今は、命をかけた大事な戦い。
そんな時にめがねを外すなど自殺行為だ。
「さあ、始めようか」
しかし、すぐ違うめがねをかけて【万能工具】から【加工刃―超熱―】を取り出す。
先ほどのめがねは丸く大きなレンズのめがねだったが、今かけためがねは四角い。
「ひっひっひ!! めがねを変えたからなんだって言うんだい! あんな優男をやっちまいな!!」
老婆もいったい何がしたかったのかと嘲笑いながら命令を下す。
巨大な紅の獣は、のっそりと動き出し、極太の腕を振り上げた。
「先生!!」
しかし、それはフェイク。
いつの間にか背後から蛇型の尻尾が現れ、襲い掛かってきたではないか。どうやら地面を移動して、背後を取ったようだが……クロードは慌てる様子もなく流れるような動きで、すっと【加工刃―超熱―】を振るう。
「なっ!?」
蛇の頭はすっぱりと切り裂かれ、地面に落ちる。
これには生徒達は驚きを隠せない。
「す、すごい……あの蛇の尻尾があんなに」
「私達が戦った時は、傷一つつかなかったのに」
そんな尻尾をクロードは、まるでチーズでも切ったかのようにすんなりと切り裂いた。いくらクロードが作った【魔機】があろうと、多少の抵抗はあると四人は思っていたのだろう。
そのうえでの展開。
「そ、そんな……そいつは《グルージャ》だよ! 蛇型魔物の中でも、もっとも硬い皮膚で覆われていて、強度は竜の鱗に匹敵するほど! それをあっさりと……! な、何なんだい!? その武器は!?」
「ただの【魔機】だよ。ただ僕の特注品で多少は強化されているけど。まあそれでも、この《グルージャ》の皮膚をあっさり切り裂くことはできないけど」
「じゃあ、なんで……まさか、そのめがねに何かがあるっていうのかい!?」
うろたえる老婆にそうだと言わんばかりに、めがねをくいっとあげる。
「このめがねは、マナの流れを見通す【魔機】だよ」
「ま、マナの流れ?」
「そう。どの魔物にもマナが流れる筋のようなものがある。その筋をこの切り裂けば誰だって、魔物の体をすっぱりと切れるんだ」
魔物は、マナの集合体。
そのマナを縛る筋を切り裂くことで、すっと刃が通るということだ。魔力障壁や魔力弾なども、筋がありそれを的確に切り裂くことで物体剣でもすっぱりと切れる。
「そんなものが……!?」
「これを作るのには苦労したよ。この【魔機】ができるまで一年はかかったからね」
だが、作り上げてからこれは世界に公表してはだめなものだと気づく。
もしこのめがねが世界中に広まれば、魔法を主体とした戦いをする魔法使いは完全に封殺される。なにせ、物体剣でも魔力障壁や魔法を切り裂けるのだから。
「くっ! こうなったら!!」
きっと、睨みつけるのはクロードの背後に居るシィ達。
どうやら、クロードには勝てないと感じたのか。
シィ達を狙うことにしたようだ。
「そうはさせない」
「グルアアアアッ!?」
動く前に、バラバラに切り刻まれた獣。
どしゃっ! と落ちる肉片を背にクロードはオリビアへと近づいていく。
「み、見えた?」
「ううん。全然」
「あれが、師匠の本気?」
「いいえ。たぶんあれでも本気じゃないと思うわ。でも……英雄の称号は伊達じゃないってことね」
学園で見ていたクロードとはまったくの別人っぷりに驚くが、それと同時に安心感がある。やはり英雄の称号は本物だったと。
「このまま抵抗せず、投降してくれるかな? オリビアさん」
「誰が言うことを―――ひっ!?」
抵抗しようと魔力を練り上げるが、魔法を発動する前に、別の【加工刃】を投げつける。少しだけ頬を切り裂いたようで、赤い血が流れている。
「投降、してくれるかな?」
「抵抗しないほうがいい」
「そうね。今のクロード先生はかなり怖いから」
追い討ちをかけるようにシィとレイカが呟くと、オリビアはもうどうにもならないと諦め、膝から崩れた。
・・・・・
「師匠。よかったんですか? 本当に」
「ん? なにが?」
「今回の事件のことですよ。だって、ほとんど師匠の活躍なのに……なんだか、颯爽と現れた謎の人物の活躍になっています」
王都を騒がせた誘拐事件。
それが解決してから、二日後。シィと学園へと登校中、人々はこんな噂話をしていた。
「いったい誰なんだろうね? 今回の事件を解決した人って」
「被害者の話だと、仮面を被っていて素顔は見えなかったけど、すごく強かったって話だぞ」
最初から決めていた通り、助けた被害者達には口裏を合わせてもらって、クロードやシィ達が助けに行ったことを伏せてもらっていた。
自分達を助けてくれたのは、仮面を被った謎の男。
颯爽と現れ、今回の事件を起こした犯人であるオリビアと紅の獣を倒し、森の入り口まで送った後は、名を告げず去っていった。
そして、捕まったオリビアは、現在王都にある監獄で取調べ中だ。
マギアラで、いや世界中で大騒ぎになっている。それもそのはずだ。あのオリビア・イースンが見つかったのだから。
今はマギアラの王都で取り調べをしているが、後に世界監獄へと移送されるだろう。
「別にいいよ。僕は、有名になりたくてやったわけじゃないから」
「でも、私は師匠のかっこいい姿を見ていますから」
「ありがとう。あっ、あの後ろ姿は」
丁度学園に入ったところで、見覚えのある後ろ姿を発見した。栗色の長い髪の毛に、赤いリボン。
「チセ。おはよう」
「クロード先生、シィちゃん。おはようございます」
チセだ。傷もそこまで深いものではなく、治療も的確だったため、すぐに復帰できた。ただ、最初に誘拐された二人は、大分やつれており、今でも療養中だが、命に別状はないようだ。
「もう大丈夫なんだね」
「はい。その節は、お世話になりました」
「別に気にしないで。僕は、教師として生徒を助けただけだから」
「それでも、ありがとうございます。あの時、クロード先生達が助けに来てくれなかったら……あっ、これは内緒、でしたね」
口を塞ぎ、周囲を見渡しながら、頭を下げるチセ。
「そうですよ。あんまり大きな声では言わないほうがいいです。今回の事件を解決した仮面の男の正体が」
「はい、そこまで。あなたも声が大きいわよ」
「むぐぐ!?」
「お、おはようございます。クロード先生。シィちゃん、チセちゃん」
すると、今回の事件に関わった特生組の三人も現れた。当然だが、彼女達にも今回の事件の真相は明かさないようにと言ってある。
「でも、この調子じゃ、また何かあったら謎の仮面の男として、解決していくつもりですか?」
パルノの口を手で塞ぎながら、レイカがくすっと微笑む。
「いつまでもってわけにはいかないだろうね……まあでも、しばらくはってことで」
それまでは、しっかりと教師として生徒達を導きたい。クロードは、今のこの居場所が好きになっている。だから、なるべくこの雰囲気を崩したくない。
また何かあれば……こっそりと。
若干急ぎ足になりましたが、これで完結。
新作は、今日中に投稿する予定です。




