第六話
さて、ダンジョンに潜るのだ。準備は必須である。
で、何を持って行けばいいのか。
それに関しては、経験豊富なイナーセルが大体知っていた。
・適度な大きさの袋 (アイテムポーチを持っている場合は不要)
・水筒 (水属性魔法が使える場合は不要)
・火打石と打ち金 (火属性魔法が使える場合は不要)
・食料と簡単な食器
・小型ナイフ (主に解体用。斬撃武器を持っていてもナイフは持って行くべき)
・不屈の闘志
なんかTRGPの冒険者セットの中身みたいだな。あと、魔法で代用できすぎだろ。
あと、最後のはなんだ?
「いや、ある意味一番必要だと俺は思うが」
「確かに間違ってはいない」
が、これはなんというか……喧嘩売ってるのか?まあいいけど。
必要なものは用意した。まあ、ほとんど食い物だがな。
イナーセルは燃費が悪いからな。フルーセはそこでもない。ヨシュアは育ち盛りみたいなので逆にしっかり食べてほしいが何か遠慮している。イナーセルは容赦がない。
まあ、そんな感じだが、準備は整った。
「よし、まあこんな感じだろう」
「マスター。このハンコは最初から使っておくべき、相手がモンスターである時点で、追加ダメージが発生しやすい」
「なるほど」
ヨシュアのアドバイスでハンコを押しておいた。
「で、ダンジョンに行くわけだが、許可書とかいるのか?」
「いや、必要ないな。そもそも、ダンジョンの中って無法地帯だし。管理する意味って大概ないからな」
いいのか?それ。
まあ、そんなものだろう。
そして、街の中央、ではなく、北東に行った。
おお、人がかなり集まっているな。
「かなり冒険者が集まっているし、そこらの屋台で売っているのが見えるが、ほとんど同じだな」
「マスター。あれな。たくさん屋台があるように見えるけど、実は一つの団体が牛耳っているんだぜ」
「あ、理由が分かった気がする」
商業団体がいくら集まったところで、あまりにも扱える種類が少ない。
六層にアンデッドがいるのだから、気軽に行けるのは五層までだ。帰ることも考える必要があるからな。
結果的に、種類が集まらない。
一つの団体がまず購入し、各地方に行ってそれらを売るのだろう。
移動コストの問題で購入金額が増えるかもしれないが、供給があまりにも多いのだからその分安いのは普通だ。
「さて、そろそろ入るか」
「楽しみだぜ」
馬車は預けて、荷車だけ持って行くことになった。
無論。フルーセが引っ張っているが。
なんだかんだいってヨシュアもついて来る。
性能を小さくした魔砲銃を作ったようだ。
確かに管理人はいないようで素通りだった。
「セキュリティ面で不安があるな……」
「今更だな。ただ、利用者はものすごく多いからな。管理なんてしていたら交通渋滞だぜ」
「五層で渋滞になっているんじゃないか?」
「あー……否定できねえな」
なんだかんだでダンジョンに入る。
フム、石をくりぬいて作ったような雰囲気だ。
あ、ゴブリンが出現し……イナーセルの大剣の餌食になった。
「無自重だな……」
「いや、んなこといわれても……」
出番がある方がいいか、ない方がいいかと言われればある方がいいのだが、しかしな……。
まあ、いいペースで進んで行く。
解体はミチヤがやる。ヨシュアの方がミチヤよりもうまいのだが、さすがにやらせようとは思わなかったな。うん。
簡単に進んで行く。
まあ確かに、メンバーは強いし、イナーセルは容赦がないし、ミチヤが持っている魔砲銃は強いし、イナーセルは容赦がないし。
いろんな理由で、苦戦しないのだ。
え、同じことを二回言ったって?知らないな。
「さて、次がアンデッドが出る階層だ」
「速いな。まあそれは悪いことではないしな。進もうか」
階段を降りると空気が変わった。
今までは石の洞窟っぽい感じだったが、壁に骨が埋まっていたりしている。
「気温が五度くらい下がった気がするな」
「いや、実際に下がってんだけどな」
……そう言うものなのか?まあいいけど。
あ、ゾンビが出現し……イナーセルの大剣の餌食になった。
いや、それは予測していたことだ。しかし、ドロップアイテムの腐食液がすでに瓶詰めにされているのはいったいどういう構造なのだろうか。訳がわからない。
「おお、なんか普通に倒せるな」
「イナーセル。ゾンビを倒すときは頭を斬るべき。腐食液のドロップ量が減る」
「ヨシュアもしってんだな。そういう知識」
「腐食液を見て構造を理解しただけ」
「ああ、なるほど。お、またいたな」
ザシュッ!
終了。
「なんか手応えねえな」
「草を刈るみたいにゾンビを斬り刻んでいく鬼ってなんかすごい光景だな……」
「同感」
ま、らくだからいいけど。
「しかし、手に入れる物がすごい色をしているからな……なんかすごい雰囲気になってきた」
荷車を増やしておいた。
だって、そうでないとやっていられない。
「マスター。もうそろそろ昼飯時だぜ」
「お前の腹時計は正確だな。そして、こんな状況で食欲がわくお前の思考回路が気になる」
流石のヨシュアも何時もより食が進まない。
フルーセも、なんとなく妙な気分のようだ。
ミチヤはお化け屋敷に入ることは少なかったので(怖いわけではない)少々進まない。
イナーセルは何時も通りだった。
こんな場所でも普通に食べることができるその思考回路、いったいどうなっているんだ?それとも、オーガってそんなものなのか?
持ってきた食料的には一泊二日はここにいられるが、まあ、良いとしようか。
「さーて、進むとするか」
六層を越えて七層へ。
「ん……石の洞窟に戻ったな」
「確かに。そう言うものなのか?」
こればかりはよくわからない。
しかし、進行速度が戻ったのは事実だ。
そして、今までは人も多かったが、それも少ない。
周りの視線を気にしなくていいのは良かった。
特にフルーセが目立つんだよ。
「しかし、食料が手に入りにくいんだな……」
「それはお前基準だ。人族からすればかなり大量だぞ」
「そう言うものなのか?」
「そう言うものだ」
ダンジョンに入ってからの食料入手量、47キログラム。
十分ある。
しかし、暇だな。
荷車の隅の方で、ヨシュアが試験管に腐食液を入れて、そこから様々なものを投入しながらなにやら実験していた。
「なにやってんだ?ヨシュア」
「腐食液の実験をしている。魔砲銃に応用することもできそう」
「へぇ」
「一発当てたら、そこからどんどん侵食していって全身を溶かせるようになると思う」
「範囲をしっかり決めておきなさい。地面ごと妙なことになりそうだ」
「分かった」
ヨシュアも容赦はなかった。
常識人(馬)はフルーセだけだった。
そこからどんとこ進んで、十層到着。
キリのいい数字だから何かあるかと思ったが、特になにもなかった。
何もないのであれば、イナーセルは普通に進んでいく。
「マスター。完成した」
「お、出来たのか」
「このマガジンを入れると変更される」
「……」
直方体の物体を渡してきた。
……なんか、溶けていく感じのマークがある。
ミチヤは取り替える。
「イナーセル。ちょっとためしうちするから離れてくれ」
「ん?ああ、分かった」
金属鎧のゴブリンがいたので、イナーセルは横にそれた。
ミチヤは発泡する。
物凄く魔が禍々しい紫色の魔力弾丸が出てきて高速で飛んでいき、ゴブリンの鎧に着弾、腐食液がその場で生成されたようで、鎧にぶっかかる。
鎧はジュウウウウウウウウといった感じに溶けていく。
何故か皮膚も焼いていく。
完璧なほど大穴が空いた。
無論、絶命。
「「「「……」」」」
予想通りだった。
「ヨシュア。金属だけを溶かせるように調節してくれないか?」
「分かった」
取り扱い注意にも限度があるだろう。これは。
「なんか、いろんな意味でヤバイよな」
「ああ、そうだな」
ミチヤは遠い目をするのだった。