第四十八話
「ふう、もう結構倒したな」
ミチヤは覇竜城にあるダンジョン『亜空間の大回廊』に来ていた。
いや、自己錬金の様々な意味での調整という意味もあるが、問題が現在ないのも確かである。
ちなみに一人で、というか、誰にも話さずに来ている。
コハクは連れてきているのだが、フルーセやルークは連れてきていない。
そのコハクだが、現在は……いつも通りプルプルしている。
なんだかんだ言って、コハクでもこのダンジョンはキツイようだ。
「ふう、そろそろ戻るか……!?」
ミチヤは膨大な魔力を感じて後ろを見る。
誰もいない。いや、いないように見えているのだ。
索敵スキルを使うと、ロックミュージシャンのような格好をした男性がいた。
髪の瞳の色は金色で、容姿は恐ろしく整っている。
……誰だ。
「まあまあそう身構えずに、私はバスタードと言うものだ」
「なんだ魔王か」
「リアクション薄すぎるでしょ!?」
なかなかコミカルな魔王だ……。
「で、聞いていいかな。なんで危機感皆無なの?」
「理由はある。まず、『次元結界』の問題があるからな」
「まあそれは当然だね。ていうか、自己紹介を疑わないんだね」
「一応、それにも理由はある。そもそも語るだけでも相当な度胸がいるだろうし、それに、あんた本人には時間はそこまでないだろうからな」
「その時間はなんの時間なのかな?」
「無論、次元結界の持続時間だ。それを考えれば、話はさっさと進めたいだろう。無駄な時間を過ごす余裕はないはずだ」
「確かに、では、危機感が薄い理由の続きを聞こうか」
「まず、魔王本人が来る時点で、多くのものが反対するだろう。反対意見を無視してもいいし、行くと押しきってもいいだろうが、それをする性格には見えない。だから、次元結界を作る時、魔力を極端に多く持ってる人材かつ、誰にもしゃべらないだろうと確信できる者だけを選出したはずだ。あんた本人は次元結界のための魔力に使えないからな」
「ほう、私の魔力を使えないことを知っているんだね」
「ああ、そんな状態で来ているんだ。次元結界を作る際に、どういった感知能力を経由してやるのかは知らないが、なにか目的があるのは間違いない。だが、魔王クラスが来れるほどの結界は、一秒たりとも、本来は作れないはずだ」
「確かに、本来なら無理だね」
「だから、あんた本人は、自分の力をスキルで制限する必要がある。しかもかなりな。結界は少人数でやるしかないから、雰囲気から推測される予測では、俺が会った、暗黒騎士のカルカロスよりも低くなるだろう」
「現段階で君自身がカルカロスに勝てるかどうかは別にしても、危機感を消せる程度には余裕があるってことかな?」
「時間はないんだ。確実に仕留めきれると確信できるステータスを保持することができないのに、戦闘目的で来るとは思えない」
「短時間でよくそこまで考えられるね」
「『高速思考』のスキルを身につけた。喋りながらでもいろいろ考えられるからな。で、用件はなんだ?」
「そうだね、早速本題に入ろうか。私は今、重大な問題を抱えているんだ」
ほう、一体なんだろうか。
「それはね……」
完全な沈黙がこの場を支配した。
バスタードは口を開いた。
「死ぬほど暇なんだよ」
「そのまま死ね」
ミチヤは一刀両断していた。
「いや、だってね。魔族領土って娯楽ゼロなんだもん。皆、私の役に立とうと思って日々鍛練してくれるのは嬉しいんだけどさ。そのせいか、ラノベは愚か芝居小屋のひとつも存在しない。皆私から生まれた筈なのに、全然だらしなさがなくってね。正直暇で暇で……そんななかで、あ、君、定義外存在って知ってる?」
「知っている」
「そのうちの一人が、君の奴隷であるドワーフがあるものを使っているものを見たんだ。あの、折り畳み式の板で、なんか片面が光っている感じで、もう片方にボタンがぎっしりある感じの……」
「多分、パソコンの事だな」
「パソコンって言うんだね。あれ、私にも作ってくれないかな」
頼むよ~と言いたそうな感じで手を合わせてくる。
「娯楽が無いことには同情するが、パソコンを与えるのはなぁ」
なれるの、結構速そうなんだよなぁ。この魔王。
正直、あれを抜群に使いこなされたらいろいろヤバイ気がする。
「さすがにあれを渡すのは無理だ」
「じゃあなんかないかな。一人で遊べるもの」
「ボッチかお前は」
威厳もくそもない。
「こんなのでいいか?」
ニンテンドー3DSである。
「なんだいそれ」
「とりあえず説明してやるから、魔物払いしてくれないか?さすがにダンジョンで娯楽についてレクチャーするつもりはない。あと、制限時間を教えろ」
「制限時間ね……たぶん20分はあると思うよ。少なく見積もって」
「分かった」
「魔物払いだね。いいだろう。『魔王の圧力』」
生物の気配が消えた。
「竜王に気付かれるんじゃないか?」
「問題ない」
まあいいか……。
数分後。
「わああああ!来るな来るな来るな!あ、三乙……」
「ドンマイ」
某狩りゲーに夢中になっていた。
あと、ティガ○ックスに突撃されていた。
「じゃあ今度は君も混ざってよ」
「いいだろう。俺のスラアクの実力を見せてやる」
二分後。
「ええ!その武器無茶苦茶かっこいい!ギミックが」
「だろうな。あ、ちょ、邪魔すんな!」
「いいじゃないか!あ、砥石貸して!」
「ガン○ンス持ってきて砥石持ってきてないとか屑かこの駄魔王!」
道也もその気になって一緒にプレイしていた。
さらにその数分後。
「ぎゃああああ!そんなところからジャンプしてくるな!お前なんか嫌いだ!寄って来るんじゃない!」
「ブ○キにンなこと言っても聞いてくれないに決まってるだろ!」
「うわっ!なんか付いた!あ……爆乙」
「おいこの駄魔王!お前だけで三乙したじゃねえか!やっとの思いで尻尾斬ったのに!」
会話から察するに……ミチヤの腕もそうでもなかった。
次はコハクも混ざった。
触手をうまく動かして操作している。
「ええ!そのスライム。双剣うますぎでしょ!」
「コハク。何時の間にそんなテクを……しかも、ザボ○シリーズでほとんどスタミナ無視かよ……」
普段プルプルしているだけのスライムに、地球生まれの人族と七億年生きた魔王が負けていた。
まあそんな感じで……。
「はぁ、はぁ、で、こんなもんでどうだ?あ、これ、魔力式の充電器。魔族でも使えるのかどうかは不明だが……」
「ふう……あ、君たちとほぼほぼ変わらないから問題ないよ。楽しかったよ」
「そりゃどうも」
「さて、ここまでいいものを教えてくれたお礼だ。ファセーラの脱皮素材は、ドワーフと、あと、妖精族も魔力関連は優れているんだが、そのもの達では扱えるようにはならない。『アルケミースライム』という種族が、体内で扱える素材にすることが出来るんだ」
「コハクにはなれるのか?」
「そのスライムかい?それなら問題ない。彼女は『マテリアルスライム』と言って、鉱石、インゴット、植物、革、なんでもござれのスライムだ。アルケミースライムにはランク制限や、他にも重量制限、これ、重すぎても軽すぎてもいけないんだけど、そういった制限が本来はある。でも、マテリアルスライムにはそれがないんだ」
「無茶苦茶優秀だな……」
「本来。ここまで育つまでに死を迎えるのが大体のスライムだからね……」
「まあ、そうとも言えるか」
「そう言うものだよ」
「ファセーラの素材を使えるようになるか……これからある頭脳戦も、ちょっとは楽になりそうだな」
「何かあるのかい?」
……は?
「知らないのか?魔族が『コマンディア』という組織を運営していることを」
「知らないな。魔族にも財務省は存在するけど、予算額から見ても、そのような組織は運営していないはずだよ」
「それが本当だとしたら……」
ミチヤたちは大きく勘違いをしていることになる。
「一応、君に言っておくが、魔族が存在することが出来る領域と言うのは、実は、魔族領域だけではない。この世界に生きる神。彼ら、彼女も、定義から外れた領域を生み出し、そこに種族関係なく住まわせることが出来る領域を生み出すことが可能だ」
「現代に生きる神が、今回の敵だっていうのか?」
「その可能性は否定できない。まあ、場所さえ特定できれば、私もそこに行くことはできるんだけどね」
「なんか予想以上に面倒になってきているな……」
「それに、魔族が何人か消息不明だ。死んでいるのなら私は知覚することはできるはずだから、今も生きている。もし、君が魔族を見たというのなら、それはその消息不明の魔族である可能性は高いだろうね」
「魔族の中にもそう言った人間はいるんだな」
「無論だ。優れた法や方針はあっても、完璧など存在しない。今の形を否定しているものがいることを、私は否定することはないよ」
「そうか……」
「最終的な目的が何なのか。そして、その目的の過程になにがあるのか。それは私にもわからない。だが、現代に生きる神が敵だというのなら、私にもいろいろ考えはある」
「まあそう言うものだろうな……」
「今日はいい情報を聞いた。それと、すまないが聖刻印に似たようなものと、巨人の死骸に相当するものを出せるかい?」
「わかった」
別に渡しても問題はないだろう。多分。
別のアイテムポーチに移して渡す。
「確かに受け取った。それでは、まあ、また会う日があったらその時はもっと面白いものを見せてくれ」
「期待していろ」
バスタードは微笑んだ後、消えていった。
「……本当に……魔族って何なんだろうな……」
ミチヤの呟きに、答えるものはいない。
ちょっとためていたストックが切れそうになってきた。頑張ります。




