第三十七話
「それでは、まず魔法の基本からですが……」
ミチヤはミーティアに魔法を教えてもらっていた。
レベルの上限に達してしまった以上、手段を増やす必要があるからである。
……腕相撲でミラルドに負けたからではない。決して。
ちなみにミチヤだけである。
イナーセル 食料集めにいった。
ヨシュア ルークの脱皮した皮を研究中。
ミラルド イナーセルについていった。
タイダロス 本を読んでいる。
テラリア 素振り中。
フルーセ イナーセルについていった。
コハク ミチヤがいる部屋の隅でプルプルしている。
ルーク 昼寝。
ちなみに、あれからすくすくと育ったルークだが、当然大きさも相当なものになった。
しかし、体を小さくすることが出来るようで、生まれたばかりの姿でいつもいる。
その姿でいても、1日三回ペースで、もとの大きさに戻って脱皮する必要があるというよくわからないものだが、まあそれについてはヨシュアが喜ぶだけだ。問題ない。
とにかく、今は魔法について教えてもらっているのだ。
ミーティアが何故か白衣と伊達眼鏡を用意していたが。
「まず、アムネシアにおける魔法とは、魔力を媒体として、魔方陣を経由して発生させる『現象発生技術』というものになります」
「……え、あれって技術なの?」
「はい、なぜなら、魔力、厳密には『保有機能』になりますが、それを持たない存在と言うのは、理論上存在しないのです。そしてかならず、魔力の生成力という数字があります」
「魔力を持たなかった前例ってないのか?」
「生成力が『0』という前例はありましたが、魔力そのものを扱えない理由にはなりません。外部から体内に魔力を供給する。これは、魔水晶を使えば例外なく使うことができるのです」
ふむ、ていうか、誰にでも使えるんだな。
「魔方陣は、魔力を直接操作することによるものと、詠唱による魔力制御。この二種類ですが、どちらにせよ、魔方陣そのものの『枠』と『式』を作り出すことに代わりはありません」
「詠唱あり、詠唱破棄の違いか」
「そうです。ちなみに、詠唱ありだと魔法は強いとよく言われますが、これは何故かわかりますか?」
いや、それはミチヤが逆に聞きたかったことなのだ。
詠唱あり、詠唱破棄のどちらをとっても、魔方陣の枠と式を作り出すという『ゴール』は変わらない。
なのに、なぜ双方で変わってくるのか、それが分からないのだ。
「分からんな」
「答えは単純なものなのですが、直接操作の場合、式のすべてを暗記して、なおかつそれを魔力が体内にある段階で魔法文字の形に置き換える必要があります。放出は、式の完成とともに体外に自動で行われますから。ですが魔力には『魔法式となって放出されない限り、拡散し続ける』という絶対法則が存在します。体内で枠や式を意味するそれぞれの魔法式を構築したとしても、初級魔法以外はほとんど情報量も膨大ですから、最後の方の文字を構築したときに、最初の方に構築した魔法文字が拡散状態になっているのです」
「時間経過で薄くなっていくから、発動したとしても『完全』には撃てないってことか」
「そういうことです。詠唱制御の場合、文字通り制御しているのですが、これは魔法文字の構築とともに、拡散することを同時に防いでいるのです」
詠唱ってすごいんだな。
「でも、詠唱を覚えただけでは魔法は使えないよな。なんか才能とかいるんじゃないのか?」
「確かに詠唱を覚えるなり、または紙に書いて持っておくにしても、体内の魔力を認識しなくてはなりません。種族によって認識能力は変わってきます。またそれ以外にも、体内の魔力の通りやすさが必要です。この通りやすさは使うごとにちょっとずつ増えていきますから、鍛練することですね」
勇者が魔法を初期からバカスカ使えるのは、この通りやすさが最初から高いためだとされている。
「さて、魔法には属性があります。多すぎるのではしょりますが」
おい、いいのか教師。
「魔力の通りやすさとはいいますが、これは、魔力の属性ごとに通りかたがやや違います。この属性が得意。というのはそういう理由からですよ」
「テラリアの場合は『風』か」
「そうなりますね。通りやすさそのものの成長速度も、個人で異なります」
「ふむ……」
「そして、種族専用の属性などがあります。一番代表的なのは『竜魔法』ですね。これに関しては、使う文字もやや異なりますし、しかも、竜以外の種族には、この系統の式の通りやすさという以前に、通る道がないのです」
「前提として使えないのか」
「そうですね。竜魔法そのものにも系統は多いのですが、竜魔法というカテゴリーその物を他種族は使えません」
すごく面倒な話だ。
「ただ、竜族や竜人族は、竜魔法を扱うためのその道を持っていますが、他は持っていないのです」
「……竜魔法以外は使えないってことか?」
「紛れもなくその通りです。生活魔法すら使えません」
水道レベルの水、料理レベルの火を発生させるための魔法だ。ものすごく簡単だった。
「不便だな……」
「優秀な魔法具の輸出先みたいな場所でもありますからね……」
これは不便だな……。
「しかし、適量の水や火を作れないわけではありません」
「そうなのか?」
「はい、先ほど言った詠唱破棄。これの拡散法則を使って、意図的に魔法の威力を落とすのです。そうすることで、竜魔法のなかでの『水を発生させる』系統や、『火を発生させる』系統の魔法の威力を下げて使うことができます」
「なるほど。考えたな」
「一人の竜人族が発案し、そして、そこそこ鍛練している魔法使いレベルまで扱いやすくされました。さらには、魔法文字における『拡散速度の法則』を確定させたのです。この法則は竜魔法文字以外にも適用されます。」
「竜魔法の『威力調節』の技術はそうして生まれたのか」
「はい、威力調節の技術を用いることで、必要以上の魔力消費をおさえることにも成功しました」
「その人、すごいんだな」
「そうですね。私もそう思います。酔いに対する魔法を編み出したミチヤ様もすごいと思いますが」
「いや、あれ結構簡単だったよ」
「そうですね。私も式を見てその簡単さに驚きました」
自分で言うなよ。
「なお、魔法具ですが、これは魔方陣を縮小させ、さらに、魔力の増幅効果を刻んだものです」
「まあ、本来の魔方陣よりもかなり小さいからな」
「はい。そこに増幅効果を使うことで、本来の、もしくはそれに近いレベルまで戻すことができます」
「普通に使うときってその増幅効果って使えないのか?」
「魔石から取れる金属を使っていますし、今のところ、その金属を再現できる式は見つかっていません」
ということは、その金属の式を解明できれば、『威力強化』が可能なのか。
「詠唱を考えて、それまでの魔法に組み込んでいくしかないってことか。これは課題だな」
レベルが上がらないので筋力に頼るには限界がある。
そこで魔法になるわけだが、威力が足りなければ意味がなくなってしまう。
研究としては最優先か。
ただ、話を聞いていて思うが、本当にもう、技術なんだなって思う。
「あ、そうだ。ちょっと実験したいことがある」
「一旦外に出ましょうか」
「まあ、その拡散速度の法則の本がほしい訳なんだが……」
「それでしたらこちらに」
ミーティアがハードカバーの本を渡してくる。
ふむ……なるほど。
ミーティアはミチヤが本を読んでいるうちに的をいくつか用意したようだ。
「まあまずは……【冷たき炎よ。温もりに凍える風となりて、凍てつくすべく吹き荒れろ。『コールドフレア』】!」
白に近い水色の炎が、風の弾丸になって的に直撃。粉々にした。
ふむ、では次は詠唱破棄で。
まあやった訳だが、ミーティアと話した通り、そして、ミチヤ本人が今までに経験した通り、威力は落ちていた。
そして、また本を見る。
……しかし、竜族や竜人族が使う文字は違うのだろう。
予習をしていたので読むことはできるが、出来れば翻訳しておいてほしかった。
竜人族本人が、まさか世に出回ると思っていなかったのか、それとも、翻訳家という職業がいないのか、それは不明だが。
ていうか、この世界って著作権とかどうなってんだろ。
まあいいか。
……よし、確認完了。
ミーティアも新しい的を用意していた。
ミチヤはその的に向かっててをかざす。
「【冷たき炎よ】」
ミチヤは、それだけを言った。
しかし、コールドフレアは発動される。
しかも、本来の詠唱ありとほぼ変わらない(ほんの少し落ちている程度)。
「い、今のは……」
ミーティアも驚いている。
「『詠唱短縮』だな」
魔法の詠唱はそのほぼ全てが、三節以上で構成されている。
コールドフレアであれば、
『冷たき炎よ』
『温もりに凍える風となりて』
『凍てつくすべく吹き荒れろ』
の三節だ。
ただし、この三節だが、詠唱破棄して操作した場合、比率が凄まじいのである。
何の比率なのかというと、節それぞれの拡散速度だ。
本を読んで色々計算したが、どうやら、
『文字数が少ない』
『詠唱の中では最初の方の節である』
という二つの条件内の、どちらかでも適していれば拡散速度が上がるし、どちらもであれば拡散速度は凄まじい。
文字数は全部ひらがなに直せば、
『つめたきほのおよ』 8
『ぬくもりにこごえるかぜとなりて』 15
『いてつくすべくふきあれろ』 12
となる。
10文字を越えているかどうかで大きく変わってくるらしい。
15でさらに拡散速度が減少するのだが、それを踏まえて色々と計算した結果だが。
ミチヤの直接操作で行った場合……。
一節目 構築密度 21%
二節目 構築密度 84%
三節目 構築密度 99%
である。この一節目の21%が威力減少の大きな原因だ。
さらにいうなら、どの魔法も、一節目は短い。どれもこれも10文字を越えない場合が多く、しかも、一節目のため、詠唱の中では無論最初の方になる。
結果的に下がるのだ。
「これはいったい……」
「簡単に説明すれば、直接操作による構築が完了する寸前に一節目だけを詠唱することで、構築密度が低い一節目を完全に補充するということだ。いや……これが出来るのなら……ミーティア、的を多数用意してくれ」
「はい」
ミーティアに的を多数用意してもらう。
無論、ミチヤもボーッとしていた訳ではない。
「行くぜ。【冷たき炎よ】」
一回しか言わなかったが、発動は三発、同時ではなく連発だった。詠唱短縮よりもわずかに威力は落ちたが、まあ問題ない程度にはなったと思う。
「ミチヤ様、いったい何を……」
「ん?ああ、直接操作で枠と式を作る場合、完全に構築された瞬間に『自動で』発動するって言っただろ。だから、一節目をわざと構築しなかったんだ」
本来、コールドフレアは三節だが、ミチヤは、一節目をわざと構築せずに、二節目と三節目だけを構築した。
出来上がっていないので魔法は無論発動しない。
その為、一節目を口で言うだけで、全ての構築が終了する。
ただし、構築しようとした時点で、最初に作った節は密度がやや低くなりやすい。
しかし、コールドフレアの本来の二節目は15文字もある。これによって拡散速度の低下が発生したのだ。
ただ、さっきの威力を見る限り、一節目の拡散速度の加速は思った以上に凄いものだ。
ちなみに、ミチヤがやったのはこれだけではない。
「ですが、三回とも連続で……」
「ちょっと考えれば分かることだよ」
ミチヤは、三回の構築式を同時に作った。
しかし、三つすべてがそれぞれ、二節目(本来の三節目)は『凍てつくすべく吹き荒れ』で止まっている。一文字足りないのだ。
よって、一節目を口にすることで、それぞれの式の一節目を補充。
その後、最後の文字である『ろ』を入力……といっていいと思うが、それを行うことで、三連発ということが可能になったのだ。
ミチヤは中級であるコールドフレアを三発までしか構築できなかったが、ミーティアはもっとたくさん。テラリアも風属性に限定すればもっとできるはずである。これは経験の差だろう。
「素晴らしいですね」
「まあ、難易度そのものが高いと言うわけではないな」
ミチヤも初級魔法なら、十発くらいは普通に同時構築できるはずである。
要するに……想像力だろう。
「これの名前は……『術式待機』だな」
「『詠唱短縮』と『術式待機』ですか。相手のモンスターの数や、求める威力によって使い分けた方が良いですね」
「そうだな」
まあ、一番威力が高いのは、完全詠唱であることに代わりはない。
のだが、一応新しい何かは出来た。
次はどうするか……。




