第三十八話
冒険者ギルドグランドマスターであるハルカは実はすごく忙しい。
なので、本来護衛などと言った仕事は引き受けることはない。
前回の勇者の護衛は、王国、帝国、法国の三つが会議で決めて依頼されたことなので(無論極秘だったが)引き受けたが、さすがに何度も本部を離れることはできないのだ。
眠そうな顔でつねにフワフワしているが、原稿用紙数千枚分は書くくらいの書類の山がものの数分で終わるし、指揮能力もかなり高い。
ただ、その絶大な実力は、彼女が持つ剣。『バルゼノン』の力である。
大昔、誰かの手によって『真名解放』が行われた『意思を持つ剣』であり、その解放によって発生した『継承力』が働くことで、所有者が死んでも、次に誰かが持つことで、実力、知識を受け継ぐことが出来る。
魔王でも、生きることのできる最大年数は数億年ほど。
しかし、バルゼノンの歴史は数百億年。
そして、それは冒険者ギルドの歴史でもあるのだ。
どんだけ長いの?って感じだが、まあそれは強引に納得してほしい。
話を戻すが、ハルカは本部を出ることはそうそうあってはならない。
だがしかし、ある書類を読んで、思わず手が止まったのだ。
それは要するに、バルゼノンをもってしても、なかなかないケースであるということなのだ。
「竜族の第二王女が、人族領土に迷い込んでいる……」
書類にはそう書かれていた。
ハルカは眠たそうな目で首をかしげる。
「現在は帝国にいる……か」
ど、どうすればいいのだろうか。
バルゼノンも焦っている。
竜族の第二王女。
何かあったら本当に大変である。
竜族は数で言えば人族よりもはるかに少ない。
しかし、それでも絶対的なほどの実力なのだ。
今の竜王が、現在の魔王よりも年上だと言えば、なんとなく分かるだろう。
それほどの実力者なのだ。
おまけに親バカで、誕生日パーティーなんぞやるときはもううるさいのなんのって……。
グランドマスターであるハルカは、会議で竜族領土に行くのだが、毎度毎度うざいのだ。
しかも、バルゼノンを所持しているがゆえに、歴代のバルゼノン適任者が経験したほぼ十億年分のうざさを認識してしまえるというオマケつき。
行きたくないのだ。
王女の年齢は、確か報告では……四歳!?
変な因果だが、魔王の孫と同じである。
いや、魔王の場合は孫だが、この第二王女に関しては本当に娘らしい。
年齢差ってものを考えろ!と思わなくもないが。しかし、なんでこんなタイミングで生まれたんだろうね。
いや、現実逃避をしている場合ではない。
一刻も早く竜王のもとに送り届ける必要があるだろう。
しいて言えば、ハルカは幼女の扱いが苦手である。
何を言えばいいのかわからないのだ。いや、普段からハルカは何も言っていないが。
簡潔に言えば誰かに押し付けたいのだ。
だが、本当に何かあったらヤバい。
竜族の第二王女は、世界に生きる神である『竜極神ダイアガーザ』との唯一の交信手段となる。
特定の場所、専用の魔法具……いや、アーティファクトか。それが必要だが、とにかく、それほど重要なのだ。
四歳に任せていいのか不明だが、それはハルカの考えることではない。
さて、どうするか。
「……」
ハルカはその書類を机の隅に置いた。
現実逃避ではない。ちょっと後で考えようと思っているだけなのだ。
「……む?」
また竜族の書類。
今度は何だろうか。いいかげんにしてほしいと思う。
「『レシピが完全に不明のポーションが売られている。治療院ギルドは関与していない』……か」
偵察報告書類なので竜王も知らないだろう。
治療院ギルドや商業ギルドに入っていなければポーションを売ってはならないなどと言うことはない。
単純に、サービスなどが発生したり、全種族公認のランクがつけられるため実力が分かりやすいというだけで、必要ないのであればはいる必要はない。
その証拠に、王国に多い貴族は、商業ギルドには入っていないが、自分のルートだけで商売をしている。
本来ならただの報告書だろう。
しかし、書類制作者と、情報提供者を見て、ハルカは『クサいな』と感じた。
何かがあるということだろう。
「ふむ……」
ポーションなどが関連する場合、必然的に調合スキルや鑑定スキルなどが必要になって来る。
ラシェスタから……いや、変態ばかりだからやめておこう。そもそもラシェスタは帝国皇帝が会長の秘密商売組織だ。
法国の眼鏡も王国の爺も知っているが、これは何かあった時のために、国のトップに運営許可をもらっているだけのことだ。
当然、冒険者ギルドグランドマスターであるハルカもその話をクロノス本人から聞いており、認めているため、彼らの行動に関して、特に文句はない。
が、鑑定士は信用できない。いや、能力は認めているのだが、『正気をままで行ってくれることを』信用できないということだ。
なんかちょっと前に鑑定室で地獄絵図があったと言ってクロノスが老けていたが、まあそれは知らん。
「む?」
そう言えば……。
ハルカは立ち上がって近くの棚に行き、台に上って、真ん中のほうから召喚勇者の書類を引っ張り出した。
そして、『ミチヤ』と書かれた書類を出す。
「ふむ、ドワーフがいる……これはいける」
戦闘力は問題はない。
竜族の領土内の環境は少々きついが、このメンバーなら問題ないだろう、
『血濡れの聖杯』をクリアしているし、レベルも問題ないはずだ。
まあ、モンスターがバカみたいに襲ってくる環境とは比べる部分が違うのは間違いないが。
だが、ドワーフがいることで、ポーションの材料などが判明し、さらに、教養の多いオーガと天使族の王の血族のもの。そして、今でも予測不可能な部分の多い『勇者』ミチヤ。
いや、『巻き込まれた青年』と書かれているのだが、グランドマスターである自分からすればたいした問題ではない。戦闘力的な部分で言えば、勇者も一般人も五十歩百歩である。いや、それは言いすぎか。
竜族は依存本能が強い。四歳であれば、まだ父親に甘えたい年齢であろう。
誰かに懐いたら話は変わって来るが、そうでない限り親の元に行くのが普通だ。
ミチヤの仲間である馬竜『セアルハーグ』と、『ファセーラ』がいる。
セアルハーグは希少種でそもそも個体数が少なく、なつきにくいといわれていたが、まあなついているものはそれはそれで構わない。なついているのだから、故郷である竜族領土には帰ろうとは思わなかったのだろう。まあ、それでもたまには帰りたいと思うことはあるはずである。
ファセーラ、これは本当に驚いた。
まあ、生まれたばかりの子供らしい。ダンジョンで卵でも拾ったようである。全長十五メートル?子供の大きさじゃないだろ。竜でもそんなに早く育たんわ。
ファセーラに関しては、刷り込みでミチヤのことを父親だと思っているだろう。帰ろうとは思わない。というか、道也の居場所が帰る場所だと思っているだろう。悪い話ではないが、親離れできるのか不安である。
まあ、好都合であることに変わりはない。
まあそれはいい。
ハルカの頭の中で押し付け……いや、依頼が構築されていく。
現在は帝国皇帝の宮殿にて保護されているらしい。
フフフフフフフフフフフフフフ。
「よし。早速手紙を……」
と言ったところで、まだまだ残っている書類の山を見る。
「……はぁ」
冒険者ギルドグランドマスターはいつも忙しいのである。
十四歳なので、まだ結婚を考えなくていい年齢であることが唯一の救いか。
ため息を吐きながら超高速で羽ペンを動かすのだった。




