第十八話
さて、そろそろ一か月近くバセルークで商売を続けている。
全体的に見て、もう大丈夫だと判断した。
実を言うと、もうそろそろ潮時だと思っている。
ちなみに、ダンジョンだが……三層しかなかったし、かなり狭かったから、十五分でクリアした。
そして、あることを考えていた。
ミチヤたちにも、斥候が必要という話である。
だが、ぶっちゃけた話、斥候程度なら、ヨシュアに魔道具を作ってもらえばそれなりにできるし、そもそも、そこまで重要な斥候が必要な戦力でもないのではないか。という話になり、結果的に没になった。
が、
「マスター。新しい奴隷を買って来たんだな」
「そう言うことだ」
ミチヤは隣で歩いているヨシュアよりもちょっと背の低いくらいの可愛らしい女の子を連れていた。
人族と大差はないが、その歯はちょっと違っていた。
種族は『吸血鬼』である。
どうでもいいが、ミチヤの呼び方は『ご主人様』である。
そして、ミチヤの頭の上に青いスライムがいるのだが、奴隷三人は癒し系で買ったと察している。
「よ、宜しくです。ミラルドと申します」
「選んだポイントと言うか、なんというかまあ、雑食で、肉とかも普通に食べてくれることだ」
一番重要である。
イナーセルとヨシュアだけの時は良かったのだ。肉さえ焼いておけば、オーガとドワーフ。種族的に問題なく滝のように食べる。
ミーティアは食べても太らない体質で、まあそれでも、野菜とかを即席で栽培できるセットを作ったりとかしてなんとかなったのだ。
「確かに重要だな」
「でもマスターのこと。他にも何かがある」
「その通り、でまあ、みんなと同じようにあれをやったんだけどさ。もう聴覚がすごいのなんのって……」
「「聴覚?」」
蝙蝠と言うのは聴覚に優れた生き物だ。
吸血鬼として、コウモリの能力も持っているということらしい。
いや、実はイルカの方がすぐれていたりするのだが、それは今はいいとして。
「で、ミラルドはどれくらい聞こえるんだ?」
「じゅ、十キロです」
「「すげぇ……」」
「無論。音速は秒速340メートルだから、耳に届くまでに時間はかかる(十キロなら約三十秒)が、これでしかも超音波で詳しく周りの状況を探れるからな。もはや俺にも訳が分からん」
「マスターはいい買い物をする」
ヨシュアは早速ミラルドをなでなでしている。
……まあ、いいとしよう。ミラルドも気持ちよさそうにしているからな。
「ミチヤ様。その、頭に乗せているスライムは……」
「名前は『コハク』だ。スライムの性別の違いは俺にもよくわからないが、雌らしい。癒し系だ」
「で、戦闘力は?」
「いや、まあな。コハクはモンスターだけど、フルーセもやったわけだし、やらないのも不平等だとは思ったんだ。決して強くしようと思ったわけではないんだよ。うん」
もうこの時点でイナーセルとミーティアは察していたが、あえて言わなかった。
「とにかく、ミラルドも加わった。ということで、馬車を改装してこの町からさっさと退散するぞ」
「了解した」
馬車を改装と言う言葉にヨシュアが即答する。
そして、馬車を見る。
あんまり改装していないな。すごくシンプルで普通の馬車だ。
「マスター。これが設計案になる」
ヨシュアが紙に書いて見せてきた。
ノートPCを出さないのは、電子機器を見せるとばれたときに面倒だからだろう。
そこそこ大きい。ていうか、壁が金属板なんだけど……まあそれはいいか。
中はややキャンピングカーっぽいな。全員がゆとりをもって過ごせる。というか雑魚寝できる。というかベッドおける。
収納とかはアイテムボックスをつくったのでそれで問題ないようだ。
そして、屋根裏部屋というのだろうか。そこにはヨシュアの専用作業場所がある。
ふむ、作り的にもほとんど問題ないな。
というか、屋根は追加できるし、キャンプ用品というのかな。それらもかなり揃っている。
「まあいいんじゃないか?大きな作業は馬車から出て外でやる形式になるだろうし」
「頑張る」
三十分後。
「出来た」
「おお、現物を見ると結構すごいな」
金属板なのはいいけど、塗装も真っ黒だ。
ヨシュアの趣味だろうか。
「まあいいか。出発しよう」
乗り込んで、そして……。
「なあマスター。どこにいくんだ?」
「ごめん、言うの忘れてた。西に町があるらしいから、そこにいくとしよう」
フルーセは走り出した。
そして移動中。
「この馬車、揺れがないです」
「ヨシュアが作った馬車だからな」
「でも、これはマスターが乗っていたものをもとにして作った」
「そう言えば、マスターは荷車を馬車に魔改造したんだったな」
久しぶりだな。
「西には何があるんだ?」
イナーセルが聞いてくる。
その問いにはミラルドが答えた。
「西にあるのは『ナモレイザ』という町です。他にも町はありますが、大きな町はそれだけです」
「どんな町なんだ?」
「近くに鉱山があります」
「む」
ヨシュアが反応。
「どんな技術がある?」
「いえ、金属を溶かして不純物を無くして、そのあと型に入れて放置するタイプなので、それに、鉱山からとれる量はいいのですが、ランクは低くて……」
「生活用品ばかり作っているんじゃないか?それ」
「否定できませんね」
ヨシュアは興味からそれたようだ。
「ただ、頂上に巨人がいて、かなり優秀な素材みたいなんです」
優秀な素材。という言葉を聞いて、原因に誰が関わっているのか何となく理解した。
「素材主義の荒川も面倒だな。まあ、奴隷を認められない海道もにたようなもんだけど」
奴隷と言うものが認められない思考回路なのだ。何かと理由を付けて解放したがるだろう。
まあ、奴隷と言うものは、なったとして、そこからはもう戻れないのだが……たぶん知らないだろうな。
「奴隷と言うものを認められない性格か。この世界では苦労するだろうな」
「ステータスとしても見られるんだったか?」
「というかそもそも、奴隷って言うのは、よほど倫理に反した命令でない限り、主人の命令には普通に従うんだよ。というか、奴隷紋がそうさせているんだがな。洗脳とか催眠とはちょっと違うがな」
「ほう……」
「というかな、奉仕すると言う意味では、奴隷も執事もメイドも、俺にとっては変わらんぜ」
「イナーセルはオーガだからそう思っているだけ」
「吸血鬼でも、少々それとは違いますね」
「天使の場合は、奴隷になるほど困る人はいませんから、ミラルド、私の血を吸おうとするのはやめてください」
ミラルドがミーティアの後ろから、首筋あたりに口を当てようとしていた。
「ミーティアさんの血。おいしいです」
「喜んでいいのか悪いのかわかりません」
「若い天使、みんなおいしいです」
「二百歳ですが……」
「天使の寿命は数千年。まだまだ幼児です」
ミーティアの目がものすごく怖くなった。
「吸血鬼ってこんなもんか?」
確かに、血を吸っているのはよく描かれるが。
「普通の食べ物でも問題はないけど、血の方が効率的」
「……」
「……ご主人様おいしそう」
「やめなさい」
ミーティアがミラルドを羽交い締めにする。
「いたくないのならいいぞ」
「大丈夫」
「……」
即答が怪しい。
次の瞬間。ミラルドがミーティアの羽交い締めをするりと抜けて、首筋に噛みついてきた。
カプッ。チューーーーーー
あ、いたくはないな。
ヂューーーーーーーー!!!!!
「ストップストップ!」
イナーセルが引っぺがした。
「……美味」
「基準が分からないな」
「いろんなモンスターの肉を食べていて、魔力がよくこねられていて、美味」
「確かに最近モンスターばかり食べているが……」
「濃厚なスープ……おいしい」
ミラルドに食文化レベルで影響が出ているかもしれない。
「これは考え物だな……」
「ご主人様。もう少し野菜を食べてほしい。ちょっと脂っこかった」
「血についてそこまで言われても人族にはわからないって……」
まあ、上機嫌になっているらしいが……。
「ともかく、今はナモレイザについてだ。何か必要なものってあるのか?」
イナーセルが軌道修正のために言った。
「現地についてから考えよう。まだわからないからな。でもなんか、また疫病っぽいよな」
「否定できねえな」
変な空気が流れていた。




