小話②
フェイリス編
「リヒトさん、大丈夫なの?」
「……フェイリスか。大丈夫だから心配しなくてもいいよ」
「どう見ても大丈夫そうに見えないなの……毛布が山になってるなの」
リヒトの部屋に訪れたフェイリスは、そそくさと顔を近付けて話しかける。
やけに距離が近過ぎる気もしたが、今のリヒトにそれを指摘するほどの余裕はない。
心配してくれているフェイリスの気持ちを無下にするわけにもいかないため、黙って時間が過ぎるのを待つだけだ。
「辛くなったらいつでも呼んで。きっとすぐに来るなの」
「助かるよ……ゴホッゴホッ」
「魔王様も解決法を探してくれてるみたいたがら、あと少しの我慢なの」
頼もしい言葉がリヒトの耳に届く。
死ねば治るじゃろ――と言っていたアリアも、何だかんだで協力してくれているらしい。
普段は見せないアリアの優しさが垣間見えたような気がした。
「あの、もし良かったら、これを使ってほしいなの」
「……なんだこれ?」
「自作の薬なの。体にいい物だけを使ったから、きっとリヒトさんにも効果があるはずなの」
「……う」
フェイリスが差し出した袋の中には、大きな団子が三個入っている。
土に苔が生えたような色合い。
とても一口で食べられるサイズではなく、食欲が消え失せている今は眺めるだけで精一杯だった。
「あ、ありがとう」
「どういたしましてなの。リヒトさんが早く元気になるように、気持ちを込めて作ったなの」
「そうなのか……」
フェイリスはキラキラとした目でリヒトを見つめる。
普段は何を考えているか分からないフェイリスであるが、今だけはリヒトでもしっかりと理解することができた。
どうやら、リヒトが特製団子を食べる姿を見たいらしい。
「もしかして迷惑だったなの……?」
「い、いや、そんなことはないよ。ただ今だけはちょっと――」
「ごめんなさい……これは捨てておくなの」
「わ、分かったから。今食べるよ」
フェイリスの残念そうな顔を見て、リヒトはつい袋の中から団子を取り出す。
やはり何度見ても印象は変わらない。
勢いで食べると言ってしまったため、もう逃げることは不可能だ。
ゴクリとリヒトは覚悟を決めた。
「――うぐっ」
「どう? 治りそう? リヒトさん」
団子を口に入れた瞬間、謎の酸味と甘味が広がる。
人生で体験したことがないような味。
何を混ぜたらこのような味を作り出せるのか。
変な汗がリヒトの頬を伝った。
間違いなく言えるのは、症状が悪化したということである。
「ウプッ」
「あ、あれ……なの」
「――フェ、フェイリス」
リヒトはそう言うと、フラリとベッドの上で倒れる。
体に力が入らない。
それどころか、段々と力が抜けていくような感覚ですらある。
「――た、大変なの!」
フェイリスのその言葉を最後に、リヒトの意識はぷっつりと途切れたのだった。




