番外編 ペット
「ロゼ、アリアがどこにいるか知らないか?」
「あ、リヒトさん。魔王様は外にお出かけしているみたいです。いつ頃帰ってくるのかは私には分かりませんが……」
「そうか……えっと、それは何をしてるんだ?」
「今はコウモリたちに餌をあげてます。リヒトさんもあげてみますか?」
アリアを探すためにロゼの領域へと足を運んだリヒトは、何やら隅っこでコソコソとしているロゼを発見した。
本来の目的であるアリアは見つからなかったが、そんなことが気にならなくなるくらいの光景だ。
三十匹は下らないコウモリが、ロゼの前で媚びるように群がっている。
「凄い数だな……これだけいたら大変だろ」
「こっちの子がダイアで、こっちの子がスペードですね。今日もかわいいです」
「名前まで付けてるのか……」
ロゼは、手馴れたようにコウモリの頭を撫でる。
自分の子どものような感覚なのか。
どこか愛おしそうな表情だった。
普通の人間であるリヒトにはとてもかわいいと思える見た目ではないが、懐けばまた見方が変わってくるのだろう。
「そういえば、コウモリの餌って聞いたことがないけど、単純に血液とかで大丈夫なのか?」
「……実は、このコウモリたちは私と感覚がリンクしているので餌は必要ないんです。強いて言うなら、私がお腹いっぱいになる必要があるんですけど」
「え? それって餌をあげる必要ない気がするんだけど」
「……むー、あんまり意地悪言わないでください」
リヒトが素直な疑問を投げかけると、ロゼは不機嫌そうな顔になって背中を向ける。
そしてその場にしゃがみこんで、コウモリたちとの触れ合いに戻ってしまった。
ロゼにとってはかなり無粋な発言だったようだ。
明らかに最初と比べてテンションが低くなっている。
「……リヒトさんも餌をあげてみれば分かりますよ。ほら、腕をまくってみてください」
「噛まれるのか……」
「ほらほら。こうやってまくってあげるんですよ」
「じ、自分でやるから……!」
ロゼは思い立ったようにリヒトの手を取ると、流れるように関節をきめて逃げられない状況を作った。
このまま無理に動かそうとすると、間違いなくリヒトの関節は破壊されてしまう。
つまり、ロゼに従うしか道が残されていない。
血を吸われることに多少の抵抗感はあったが、腕に後遺症を残すよりは何倍もマシだ。
「――どうですか? リヒトさん。意外とかわいいでしょう?」
「……うん、まぁ分からなくはないかも」
ロゼの指示通り腕を差し出すと、コウモリはカプリと噛み付いて少しずつ吸血を始めた。
小さい体でしがみついて血を吸うその姿は、近くで見ると何とも言えない愛くるしさを感じる。
痛みも想像以上になく、これなら勝手に吸血されても気付かないかもしれない。
「さて、じゃあ次は私の番ですね」
「お前の分の血液はない」
コウモリの数倍ほどあるロゼの牙は、リヒトの肌に到達することなく押しのけられた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
『死者蘇生』ですが、昨日から発売が始まりました。
書店で見かけたら手に取っていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたしますm(_ _)m