狙い
「ド、ドロシー。いきなり走り出してどうしたんだよ」
ドロシーに手を引っ張られながら、リヒトはその行動の意味を問いかける。
ゆっくりと歩いていた先程までを考えると、驚くほどの変わりようだ。
何かが起こったというのは理解できるが、ただの人間であるリヒトは付いて行くことしかできない。
「大変だよリヒト。よく分からないけど、ヤバい奴が近付いてきてる。とりあえずベルンさんのところに向かった方がいい」
「んん? ヤバい奴って何だ? それにベルンのところって――」
「危険性ってなら魔王様と同じくらいだよ。とにかくベルンさんは守った方がいいんでしょ? ならリヒトが近くに行かないと」
「そ、それはそうだけど」
珍しくドロシーから余裕を感じない。
かなり焦っているようだ。
迫り来る敵に気を張りつつ、最短距離でベルンの元へ向かい、同時に十数匹の死霊を操っている。
本来なら、リヒトの質問に答えることすらままらない状況だった。
「ドロシー、その、一応アリアにも報告しておいた方がいいんじゃないか……?」
「そんなのとっくのとうにやってるよ。ただ、死霊を通しての報告だから、ちょっと時間がかかりそう。魔王様寝てるかもしれないし」
「生活習慣を改善させておくべきだったな……」
リヒトの後悔。
魔王軍の中でアリアに意見できる者はリヒトしかいないため、こればかりはどう考えても自分の責任だ。
ドロシーの言う通り、この時間帯のアリアは眠っている可能性の方が高い。
アリアが間に合うことを前提に考えていては厳しいだろう。
「わざわざこの国に来るってことは、やっぱりベルンが狙いだよな?」
「多分ね。女王を攫って何か要求するつもりなのかも」
それに――とドロシーは付け加える。
「ベルンさんって人間じゃないんだよね? それなら今の状況には気付いてるはずだけど……下手に動けないだろうからボクたちが何とかしないと」
「……確かに。明らかに人間の限界を超えた察知能力を見せたら、自分が怪しまれることになるもんな。自ら戦って抵抗するってわけにもいかないし」
リヒトとドロシーの話は、結局急がなくてはならないというところに終着する。
そもそもベルンが人間の兵士を集めたとして、追い返せるほどの相手でもない。
本当に敵が魔王であるならば、リヒトとドロシーで時間を稼ぎ、アリアの到着を待つことが最善策だ。
のうのうと生活する人間たちの視線を浴びながら、二人はベルンのいる城へと走り続ける。
「――ドロシー! 残りの時間は」
「敵のスピードがかなり早いから、このままだとあと五分――」
「ギリギリ間に合ったみたいだな……」
残り五分。
その時間を聞きながら、リヒトはやっと城の扉に手をかける。
ここまで来れば、ベルンの居場所はもうすぐだ。
ひとまず間に合ったことに安堵しながら――二人はまた走り出した。
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