真の狙い
「リヒトさん、お待ちしておりました!」
「……間に合ったな」
ソファーの上でソワソワとしていたベルンは、リヒトとドロシーの姿を見た途端にバッと立ち上がる。
ドロシーの反応が早かったおかげで、手遅れになる前に辿り着くことができた。
ドロシーいわく、敵がこの場に訪れるまであと一分。
息をつく暇もない。
「初めまして、ベルンさん。分かってると思うけど、かなりピンチの状況だよ。魔王様が到着するまでボクが時間を稼ぐから、リヒトの近くを離れないようにね」
「は、はじめまして! 分かりました、リヒトさんの近くですね……!」
ベルンは頭の中でドロシーの言葉を何回も反復させる。
文字通り命がかかっているため、いつもの仕事のように適当なことはできなかった。
「一応リヒトにも言っておくけど、ベルンさんが死んじゃった時は蘇生してあげてね」
「分かってる――けど、ドロシーは大丈夫なのか? 敵は魔王なんだろ……?」
「……自信ないけどできるだけ頑張るよ。そもそも、ボク以外に戦える人は誰もいないからね」
いつもは見せないようなドロシーの表情。
これから格上の化け物を相手にすることを考えると、このような表情になってしまうのも仕方がない。
リヒトの心に。
出来ることなら共に戦いたいという気持ちが芽生えるが、それは決してドロシーの望んでいないことだ。
今リヒトが考えるべきことは、どのようにしてベルンを危機から守るかである。
「あの、リヒトさん……よろしくお願いします」
「あぁ。任せてくれ」
「それじゃあ作戦タイムは終わり――来たみたいだよ」
カチャリ――と鍵の開く音が三人の耳に届く。
音の発生元は、目の前にある大きな窓だ。
当然外側に鍵が付いているという構造ではないため、何者かによって内側から鍵が開けられたことになる。
「――おい、飛んでるぞ……」
「分かってる」
その窓から入り込んでくるのは、自分の身長より長い髪をした魔族。
そのおぞましさは、実際に見ることで間違いなく魔王だと認識することができた。
一見隙だらけにも見える魔王だが、攻撃を仕掛けるドロシーからしてみれば、全くと言っていいほど隙がない。
強く杖を握りしめるだけの時間が過ぎていく。
沈黙の空間。
最初に声を上げたのは、ドロシーリヒトベルンの三人を観察し終わった魔王の方だ。
「……アハ。見つけた」
「――っ! リヒト! やっぱり狙いはベルンさんだ! 気を付けて!」
どうやら、ドロシーのことは眼中に無いらしい。
魔王はレッドカーペットの上を歩くかのようにゆっくりと距離を詰める。
その視線は、立ちはだかるドロシーではなく、リヒトとベルンの方向に向けられていた。
「――止まれ!」
「……邪魔」
強引に魔王の歩を止めようとしたドロシー。
しかし。
触れることすらできずに、見えない力で床に押さえつけられた。
ミシミシという音が骨に響き、オーガの筋肉よりも強い力で首がキツく絞められる。
このままだと時間稼ぎすら不可能だ。
「やっと見つけた。噂を聞いてから数年。ずっと探してた」
片言で喋る魔王。
普段から言葉を発することに慣れていないのだろうか。
まるで数年ぶりに口を開いたような様子である。
「ワタシに付いてきてもらう。拒否権はない」
そう言って、魔王が掴んだのは。
――リヒトの肩だった。
「なっ!?」
「アハ……やっと手に入れた。死者蘇生の能力」
リヒトを見えない力で拘束した魔王は、ベルンのことなど見えていないかのように窓へと向かう。
リヒトとドロシーは、狙いがベルンであると勝手に決めつけていたが、その考察は大外れもいいところだ。
最初から魔王の狙いは、死者蘇生の能力を持つリヒトだったらしい。
「――リヒト……! 行かないで……」
「うるさい。黙れ」
手を伸ばそうとするドロシーが癪に障ったのか。
魔王は最後にドロシーの首を踏みつけ、完全に息の根を止める。
首の骨が折れ、意識のない体がピクピクと痙攣していた。
魔王はそれを満足そうに確認すると、自分が開けた窓に足をかけ――。
「りひと。覚えた。これからよろしくね、りひと」
「クッ! 死者蘇――」
飛び降りるようにして、ベルンの視界から消えることになる。
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