シーン22 ステラ vs 私兵団
「何だ、お前らは! どこから入った!」
包囲の輪の中から、隊長格と思われる眼帯の男が声を上げた。その一声で、私兵たちの視線が、いっそう鋭くなる。
だが、ステラは気にも留めず、肩をすくめた。
「どこからも何も、門からやけど?」
「ありえん! 門番がいたはずだ!」
「門番? ああ、そう言えばおったな、そんな奴ら……」
にやりと笑って隣へ顎をしゃくる。
「ドリントン。どうなったか、聞かせたれや」
促されたドリントンは、なぜか重々しく口を開いた。
「お前らの門番は……」
「こいつが食った」
「そうそう、がぶって――って、食うかっ!」
間髪入れず、突っ込みが飛ぶ。
だが、返ってきたのは私兵たちの冷たい視線だけだった。静まり返るホールの中、ステラは気まずそうに咳払いすると、何事もなかったかのように話を続ける。
「心配いらん。気絶させただけや。門のところに転がっとるで」
「そんな話、信じられるか! この爆弾魔め!」
「爆弾魔? 何のことや?」
「とぼけるな! 脅迫状を送ってきただろうが。今夜、ここを爆破するとな!」
「なんやて!?」
ステラは目を見開くと、すぐさまドリントンに詰め寄った。
「何しとんねん、自分! 忍び込む屋敷に脅迫状送りつけるなんて」
「いや、俺はやっていないぞ」
「嘘つけ! どうせアンタやろ!」
わめき立てるステラに、ドリントンは涼しい顔を崩さない。なぜか無言のまま、興味深そうに彼女を見下ろしている。
あまりの緊張感のなさに、私兵たちは思わず顔を見合わせた。何人かの口元には、かすかな笑みまで浮かんでいる。
その緩みかけた空気を、眼帯の男が断ち切った。
「黙れ! 人の屋敷に押し入っておいて、何をごちゃごちゃと……。こんな舐めた真似をして、覚悟はできているんだろうな」
言い終えるなり、男は片手を上げた。
それを合図に、私兵たちが一斉に身構える。剣を握る手に力を込め、じりじりと間合いを詰めていく。
「へぇ、やる気満々やん。ええで、うちが相手したるわ」
そう言って前へ出ようとするステラを、横から太い腕が制した。
「俺が行く」
ドリントンは不満げな彼女を押しのけると、腰を落とし、腕のブラスターを構えた。
黒鋼色の砲身の先に白い光が灯り、キィィン……という細い音が玄関ホールに響く。
その不気味な白光に、私兵たちは思わず半歩後ずさった。
一拍。
二拍。
……何も起きない。
ただ白い光だけが、砲身の先でじわじわと大きくなっていく。
「……何だ? なぜ撃たない」
その問いに、ドリントンは体勢を崩さず、真顔で答えた。
「悪いな。こいつはチャージに二分かかる。少し待っててくれ」
「ふざけるな!」
眼帯の男が一気に間合いを詰める。迷いなく振り抜かれた刃が、ドリントンの首筋へ迫った。
だが、その寸前、横からステラの蹴りが割り込む。
ギィン、と甲高い音が響いた。
「なにっ!?」
男が驚愕の声を漏らす。
刃を受け止めていたのは、彼女の黒いヒールだった。
「な、なぜ斬れない……」
「所詮、その程度の腕っちゅうことや」
ステラは鼻で笑うと、足先で刃を押し返した。
「うおっ……!」
体勢を崩した男へ、ステラは一歩踏み込んだ。黒いヒールが、その腹に深くめり込む。
「がはっ……!」
鈍い衝撃音とともに、男の体が後方へ吹き飛んだ。大理石の壁に叩きつけられ、そのまま床に崩れ落ちる。
いったい何が起きたのか。
私兵たちは声も出せず、倒れた隊長を呆然と見つめるしかなかった。
「さあ、次はどいつや? 面倒やから、まとめてかかってきてもええで」
挑発するようなステラの声に、男たちははっと我に返った。
「き、貴様ぁ! よくも隊長を!」
怒声を上げると、一斉に襲いかかる。
それを待っていたとばかりに、ステラはにやりと笑い、低く身を沈めた。
「……行くで」
そう言うなり、ダンッ、と床を蹴る。
大理石の床を削り、緑の光をまとった蹴りが私兵の胴へ叩き込まれる。
「ぐあっ!」
男は一瞬で吹き飛び、ドガン、と轟音を立てて壁に叩きつけられた。砕けた破片が、ばらばらと床に落ちる。
だが、ステラはまだ止まらない。
舞うように身を翻し、迫る私兵たちを次々と蹴り伏せていく。前蹴り、横蹴り、回し蹴り。黒いヒールが淡い緑の光を放つたび、三日月のような衝撃波がホールを走り、床や柱に深い爪痕を刻んだ。
「がっ!」
「ぐあっ!」
短い悲鳴がいくつも重なる。
あっという間に、立っている私兵は一人だけとなった。
「くそっ!」
追い詰められた最後の男は、半ば破れかぶれに剣を振り下ろす。
その刃は、偶然にも黒いヒールの縁をかすめ、ステラの足首を捉えた。
ギィン!
「えっ……?」
聞こえるはずのない音に、私兵の顔が引きつる。
「残念」
ステラは足首を軽くひねり、刃を弾いた。直後、流れるように弧を描いた黒いヒールが、男の脳天へ振り下ろされる。
ゴン、と鈍い音がひとつ響き、最後の私兵は崩れ落ちた。
「終わりやな」
ステラはふっと息をつくと、乱れた前髪を片手で払った。
「どや。これがうちの必殺技――クレセント・ムーンや」
三日月形の傷跡が無数に刻まれたホールの中心で、彼女はにかっと笑った。




