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15 最終話

「まったく、私はとんでもない男と結婚したものだわ」


 私達は城の中のサロンで一息つく。

 お茶を飲みながらセリーヌ様の愚痴は止まらない。

 テーブルの上に並べられている豪華なお茶菓子を選びながら私はセリーヌ様にきいた。


「あの、不思議なんですがどうして別れようとか思わなかったんですか?関係は冷え切っていたんでしょう?」


「そうね。お兄様が許さなかったのよ」


 セリーヌ様の言うお兄様とは現在王を務めている方だ。ハインリッヒ様の兄にも当たる。

 確かに降嫁された元王族のセリーヌ様が離婚は体面が悪いのはわかる。

 しかしクロード様ほど悪い人ならばむしろ離婚した方が良かったのではないだろうか。

 私が考えていることがわかるのかハインリッヒ様は面倒くさそうに頷いた。


「あの人はそう言う人だから」

「今回だってこんなに大騒ぎになっているのに顔すら出さないじゃない。何が忙しいよ」


 怒っているセリーヌ様をハインリッヒ様は見つめた。


「姉上が怖いから会いたくないんだろうね」


「失礼ね。お兄様が勧めた縁談よ!」


「いや、クロード殿が姉上に結婚を申し込んで渋る姉上を押したのが兄上だね」


「ハインリッヒ!あんためんどくさい男ね!だから今まで結婚できなかったのよ。エミリアもこんな男でいいの?結婚をやめるなら今よ?」


 怒りながら私を見つめてくるセリーヌ様に私は首を傾げる。


「結婚をやめるってなんですか?結婚できるならしたいですけれど……」


 首を傾げながら私は紅茶の匂いを嗅いだ。

 いつもと変わりない茶葉の香りに安心して一口飲む。

 セリーヌ様は眉を顰めて隣に座るハインリッヒ様を振り返る。


「どう言うこと?」


「彼女は知らないんだろうね」


「あんた言っていないの?」


「すっかり忘れていたよ」


 二人の会話を聞いてますます私は首を傾げる。

 どうやら私は聞き逃していることがあるようだ。


「なんですか?」


 私が聞くとセリーヌ様はハインリッヒ様の腕を肘で突いた。

 ハインリッヒ様は痛そうに腕をさすりながら私を見つめる。


「重要なことを言い忘れていた。実はエミリアと僕は婚約をしていることになっている」


「……はい?」


 一体何を言っているのかと首を傾げる私に、ハインリッヒ様はもう一度説明してくれる。


「君と二人でシャルル領に行くなんて婚約者にしなければ不審がられるだろう」


「なるほど、……ぬか喜びをしてしまいましたが二人で調査するために、一瞬婚約者だったってことですか?」


 理解できていない私にハインリッヒ様は首を振る。


「違う、君と僕は正式な婚約者になっている。君の両親もちゃんと署名をしているはずだけれど知らなかったのかい?」


 ここ最近忙しかったが両親はいつも通り変わった様子はなかった。

 私は首を傾げる。


「知りませんでした。本当に?そもそもどうして私なんかと、……本当に結婚するつもりあります?」


 甘い雰囲気もなかったし、私を好きな様子はなかったように感じる。

 不信感を持っている私にハインリッヒ様は頷いた。


「エミリアと結婚するつもりだよ」


「私のこと好きじゃないですよね?私はハインリッヒ様が大好きですし嬉しいですけれど、セリーヌ様とクロード伯爵みたいな冷えた夫婦は嫌ですよ」


 はっきり言う私にセリーヌ様の大きく頷いている。

 ハインリッヒ様は少し悩んで口を開いた。


「まず、僕はか弱い女性が苦手だ。エミリアはか弱い女性から程遠く実はかなり好印象だった」


「とても信じられないですが、それはありがとうございます」


 褒められている気がしないがお礼を言っておく。


「それに、君と過ごすうちに結婚生活も楽しいんじゃないかなと思い始めたんだ。エミリアはどう思う?」


 ハインリッヒ様に聞かれて私は頷く。


「思います!きっと楽しいですよ」


 嬉しくて満面の笑みで頷く私にハインリッヒ様は花が咲くように微笑んだ。


 それを横目で見ていたセリーヌ様も微笑む。


「可愛い弟が珍しく嬉しそうで私は幸せだわ。おめでとうお二人さん。……私みたいにならないように気をつけなさいね」


「はい。ハインリッヒ様が他の女性に手を出さなければ大丈夫だと思います」


 元気よく言う私にハインリッヒ様は笑みを引っ込めた。


「失礼だな。クロード殿と一緒にしないでくれ」

 

「さて、私はお兄様のところにご挨拶に行くけれど、あなたたちも行く?」


 お茶を飲み終えてセリーヌ様は美しく微笑んだ。

 その微笑みを見て私とハインリッヒ様は首を振る。


「遠慮しておくよ」

「私も、もう帰ります」


 間違いなくセリーヌ様はお兄様である王に文句を言いに行くつもりだ。

 断る私たちに笑みを残してセリーヌ様は部屋を出ていった。

 ハインリッヒ様はため息をつくと立ち上がる。


「送っていくよ」


「ありがとうございます。ハインリッヒ様に送ってもらうなんて嬉しいです」


 喜ぶ私にハインリッヒ様は肩をすくめた。


「婚約者を送ってくのは当然の義務だからね」


「婚約者!」


 私がハインリッヒ様の婚約者!

 とても信じられないがハインリッヒ様がそう言ってくれるのだ。

 幸せを噛み締めている私にハインリッヒ様は手を差し出してきた。


 喜びながら私は彼の手を取って歩き出す。


「とても幸せです。こんな幸せがあるなんてっ」


 ハインリッヒ様の腕に手を絡ませて大喜びで私達は廊下を歩く。

 前から先ほど別れた騎士団長が歩いてくるのが見えた。

 忙しいと言っていたのは嘘かと思っていたが両手に大量の書類を手にしているので本当に忙しいのだろう。

 騎士団長は私たちに近づいてくると声をかけてくる。


「おっ、自称名探偵はそろそろお帰りですか」


 揶揄うように言われて私はムッとする。


「ちゃんと推理したわよ」

「ほぼハインリッヒ様が推理していたけれどな。なら、これからは名探偵夫婦って呼んでやるよ」


 名探偵という言葉を普通に使う騎士団長を私は見上げた。


「騎士団長はもしかして異世界とか言い出した私と同じ記憶を持っていたりします?」


 まさかと思うがおそるおそる聞く私に騎士団長はニヤリと笑った。


「さぁてどうかな。まぁ、俺も犯人が崖で罪を告白するところを実際見たかったぜ」


 そう言い残して手を振って去っていった。

 バルダー騎士団長の大きな背中を見送ってから私はハインリッヒ様を見上げる。


「聞きました?あの人もやっぱり私と同じ異世界転生の人ですよ」


 ハインリッヒ様はため息をついた。


「信じたくないが、もしそうならエミリアは毒のせいで頭がおかしくなったわけではないと言うことか」


「そうですよ。もしかしたら致死量の毒を飲んで記憶が蘇った感じですかね。死ななくて良かったです」


 しみじみ言う私にハインリッヒ様は頷いた。


「まったくだね。致死量の毒を飲んで生きている君はやっぱり普通じゃないと思うよ。よく考えたらバルダー団長も少しおかしい人だな」


「クマみたいな騎士団長と一緒にされても嬉しくないですけれど、私の疑いが晴れて良かったです。これで夫婦探偵として頑張りましょうね」


「殺人事件なんて人生で一度起これば十分だよ」


 ため息がちに言うとハインリッヒ様は私を抱き寄せた。

 ふんわりとハインリッヒ様の香水が香ってきて私は胸いっぱいに吸い込んだ。


「私、すっごく幸せです」

「それは良かった。実は僕も幸せなんだ意外だろ?」


 軽く笑うハインリッヒ様を見て私は微笑んだ。




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