サナトリウム
植物は日の光の方向へ伸びる。しかし、まっすぐ光を当てているつもりでも、どうも偏ってしまったり。直線に伸びることはないんだ。
その神秘性に心惹かれ、根本から出てきたシクラメンの芽をカメラに収める。最初は一眼レフで撮ろうと思ったが、このように小さな被写体は小型カメラのほうが映りいい。
――そう、このくるっと巻いているのがなんとも言えず、生命の躍動を感じる。
カーテンから見える光。月面では紫外線で植物を育てる。他の野菜や、生きるために必要な植物は一か所にあるが、このシクラメンだけは私の部屋で栽培している。
カシャッ、カシャと数回音を鳴らす。一枚目と二枚目、大差ないように見えるかもしれないが、光の匙加減が違う。二枚目のほうが私は好きだ。満足な出来ではあるが、もう一枚。そう思ったとき、手が滑った。あっ。
カシャッ。
シャッターボタンを押した瞬間、小型カメラを落としてしまった。壊れていないか不安になるが、どうやら今のところは大丈夫そう。先ほど撮った写真を消さなくては。どうせ落下中の変な写真しか撮れていない。画面を確認する。
「…………」
予想通り、真っ暗な写真。何も映っていない。何も。
今、地球は宇宙戦争の戦場となっている。私たち、一部の人間は月にひとまず逃げてきたのだが、ここの暮らしは戦火の中の地球人にはユートピアだと思われているらしい。
だけど、過去の地球を知っている身からすると、ここは果たしてユートピアだと言えるのだろうか? と疑問を抱いてしまう。平和な地球に住んでいたころは、太陽の日差しを浴びるだけで気分がよくなった。外の風に当たるだけで、心地よかった。今はそれすらできない。もちろん、戦争中の地球でも同じことなのだろうが。
私は、今まで撮った写真ではなく、失敗した真っ暗な写真を地球に送ることにした。
私はきっと鈍感だから、今地球に住んでいる人の気持ちはわからない。この写真の意味に気づいてくれる優しい地球人が、どうかまだ世界に居ますように。




