ベイスボール
虎と龍が相見えるとき、事件は起きた。選手だけではなく審判たちの不慮の事故が多発した。野手がフェンスに突っ込んだり、バットが審判にぶつかったり。あまりにも、今年の虎と龍の試合は勝手が違う。一体何が起きているんだ。
球団マネジメントをしている私は、いつもの居酒屋で愚痴をこぼす。
「何なんだよ……今年のシーズンは厄かよ」
「まぁまぁ。そんなに心配なら、神社にお参りに行ってきたらどうです?」
「……そうだなぁ」
私は後押しされ、地元の神社に参拝することにした。
そして迎えた参拝日、大安。祈祷を待つ間、神社に挨拶だ。二礼二拍手して、五円玉を賽銭箱に入れるーーどうかこれ以上ケガなど起きませんように。
「あ~、それね。オカルトとかじゃないのよ」
「え……?」
声のしたほうに振り向くと、そこにはロイヤルミルクティー色の長い髪の女性が立っていた。
「おっさん、野球の人でしょ? 説明したげるから、コーヒー奢って。缶のでいいから」
なんだ、この女性は。胡散臭い。だけど私は今日、藁にもすがる思いで神社に来ている。まだ祈祷の時間まであるので話を聞いてもよいだろうか。
「……わかりました。公園のベンチで」
私は女性を連れて、自販機の前に立つ。ふたりとも同じブラックのコーヒーを買い、ベンチへ移動する。
プルタブを開けると、ごくりと一気。
私は女性を見た。
「それで、野球でケガばかり起きる原因でしょ? それ……衛星と5Gが関係してるのよ」
5Gって、アルミ箔関連か? 渋い顔をしていると、女性は続けた。
「野球の試合会場が低軌道衛星の電波を拾ってるの。大気中にあるμとか、分子が関係してる」
「難しいことはよくわからんが、私たちにできることは、神頼みくらいだろう」
「……そうでもないよ」
女性は缶コーヒーを飲み干すと、私に簡単に言った。
「選手が控えている席の四隅に、盛り塩を置いてみてよ」
「……やっぱりオカルトじゃないか」
「違う。大気中の物質だってこと。塩に含まれているナトリウムが大気に混ざれば、衛星による人体への影響はマシになるの」
「……」
たったそれだけで、本当に効くのだろうか。女性は立ち上がった。
「祈祷の時間でしょ? コーヒーごちそうさん」
「あっ、ちょっと!」
私が止めるのも聞かず、女性はその場から立ち去った。
祈祷を終えた私は、ホームの球場のブルペンに言われたように盛り塩をした。
果たしてこれは効いているのだろうかーー? だが、確かにこの日を境に、ケガ人は減ったのだった。




