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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第20話 ね? いいでしょ? 助けてくれるよね?

「くっ……! 謀ったな麻央」

「で? そのわりには部屋まで着いてきてるよね」

「あの空気で帰れるか!」


 麻央の猛毒全開のカミングアウトを聞かされた僕は、食欲を根こそぎ持っていかれたまま小鳥遊家の夕飯に招待された。

 麻央のお母さんの料理は相変わらず美味しそうなのに、口に入れても味がしないし全然喉を通っていかなかった。それでもどうにか口に運んでいったものの、僕の顔色が悪いことに麻央のお父さんが気づいてしまったのだ。

 人の良過ぎる御両親に手厚く病人扱いされて今に至る。


「それにしてもどうして麻央の部屋に……」

「あっそ。じゃあパパとママに言ってくるね」

「あー! 言わんでいい!」


 ドアと麻央の間に割って入り、不要な報告を阻止する。


「仮病までして泊めてもらったんだから、わたしの言うこと全部聞いてね」

「事実が一つもない。そこまで自分に都合良く出来るのは才能だよ。ジーニアス」

「パパー?」

「うわー! やめろやめろ!」


 僕の気分が悪いとこしか合っていない……。

 普段の低燃費麻央がノーマル状態とすれば、今はレベルを一段階上げたパワーアップ形態だ。毒舌も悪態も理不尽も通常時の比ではない。

 こうなってしまったら僕の手には負えない。普段はゲームの方に注がれているエネルギーが、余すことなくこちらに回されているのだ。如何に日頃手を抜いているのかがわかる。


「うるさい。居候ならもう少し慎まやかにできないの? ここはハルの部屋じゃないんだよ?」

「ぐぬ……」

 

 どの口が言うんだよ……!

 第二形態になったからなのか知らないが、今の麻央はやたらと喋る。それでもいつもより多い程度だが。

 物事が自分の思い通りに運んでいるのが楽しいのか、子供の頃ですら中々見なかったテンションの高さだ。


「じゃ、橋田と別れるから協力してね」

「断る。そんなの自分の口から言えよ」

「パパー」

「勝手にしろ。僕はこの件に関しては絶対に手を貸さない」

「……で? なに強がってんの?」

 別に強がってるつもりはないが……


「とにかくだ。散々関与すんなとか言っといて、別れ話になった途端協力してだなんて都合が良過ぎる。僕は麻央の召使いでも奴隷でもない」


 ぬいぐるみを抱き抱える麻央にはっきりと言い切る。

 橋田の相談には乗ったけど、ここから先は絶対に関わらない。それは絶対に曲げない。


「ハルは何も知らない」

「知りたくもない」

「ハルの気持ちは聞いてない。バカなの?」

「だったら壁に向かって喋ってろよ」


 理不尽な物言いの数々に僕の口調も荒さを増していく。

 本当に人のことを奴隷だと思っているんだろうな。


「橋田秀には一年の時から五回告白されてる」

「……」


 知らない知らない。麻央は今壁に向かって喋ってるんだ。


「しつこくて渋々付き合ったら毎日あの有り様」

「……」


 相槌も何もしないぞ。


「ね? うんざりするでしょ?」

「……そうであっても僕が協力する理由にはならない」


 今の麻央のしつこさも相当だと思う。


「わたしはわたしの時間を大事にしたいだけ。ただ好きなことしたいだけ、彼氏なんかどうでもよかった」

「あーもう! さっきから何なんだよ!? 僕は協力しないって言ってるだろ!」

「何キレてんの? ばか」

「うるさい!」

「どっちが?」

「麻央だよ!」

「ねえ、橋田秀って女子からかなりモテるんだよ。ハルと違って」

「知るか! 寝る!」

 部屋の隅に座り込んで目を深く閉ざした。

 麻央の顔なんか見たくないし、声も聞きたくない、何も考えたくない。

 僕にだって言い分や立場があるのに、それを全部無視して別れる手伝いをしろだと? いい加減にしろ。


「別れた噂が広まったらどうなるか、大体想像つくでしょ?」

「寝るって言ってる」

「そもそも橋田秀が別れさせてくれると思えない」

「……」

「ハルは知らないだろうけど、結構困ってんだよ? 今のわたし」


 麻央の足音が近づいてくる。

 何をされても僕の意思は変わらない。困っている幼馴染を見捨てる薄情者になったとしても、これは当人達の問題で僕は関与できない何もできない。


 橋田のことは悪い奴だとは思えないけど、性格的に噛み合いそうにないのも事実だ。この件はどちらに転んでも、誰かかしらが傷つくのが目に見えている。

 僕だって何が正解か分からないんだ。


「ハル? あの後輩に何か頼まれて一緒にいたなら、わたしにも協力してよ」


 麻央の体温がすぐ近くにあるのを肌で感じる。

 膝に顔を埋めたまま、いつの間にか朝だったらどれほどいいか。


「ね? いいでしょ? 助けてくれるよね?」


 勝手だ。勝手だ。みんな勝手すぎる。

 勝手に巻き込んどいて、嫌なことばかり僕に押し付けて。協力だ助けるだの心地のいい言葉で誤魔化してる。結局麻央は自分で向き合うのが怖いだけじゃないか。


「わたしのこと助けて?」


 その言葉を最後に麻央は何も言ってこなかった。

 冷たい床の感触は思った以上に寝心地が悪く、僕は朝が来る前に目を覚ましてしまった。気休め程度にかけられた毛布を麻央に被せ、僕はそっと小鳥遊家を後にした。


「麻央……事情がどうであれ、自分でなんとかしろよ」

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