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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第一章 『ガラクタピエロと裸足の人魚姫』
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第30話 三人で

「こ……これは一体……?」


 さわやかな朝を迎えた僕の目の前に広がっている光景は、世間でいう事件現場と呼ぶのが相応しいだろう。

 そう、これは事件なのだ。


「ん……ぅむん……」

「気持ちよさそうに寝てるけどさ……」


 美咲みさきは可愛いらしい寝息までかいて、起こすのもはばかられる寝顔を見せている。

 しかしここで問題が一つ、寝ているのは正真正銘僕のベッドなのだ。

 配置的にも百パーセント間違いなく僕のベッドだ。美咲が僕のベッドで寝ているという目を疑う光景が広がっているのだ。


 美咲が使っているはずのベッドはというと、ついさっきベッドメイキングされたかのように綺麗に整っている。

 しわ一つなくて、カーテンの隙間すきまから漏れる陽ざしが当たって神秘的にすら見えてくる。

 その反面、部屋の片隅にポツンと取り残された姿に哀愁あいしゅうを感じた。


「なんでこんなことになってるんだ……?」


 昨夜の出来事を思い返しても、今の状況が全然理解できない。

 遠くに行こうとお願いされたのを断ったのまではうっすら覚えているんだけど、睡魔に負けてその後何があったかさっぱりだ。


 美咲が同じベッドに? 

 そんな急展開いつあった?


「ふぁ…‥あ、はるやくんおはよ」

「お、おはよ」


 いかにも寝起きって感じで声も動きもふにゃふにゃだ。


「くあ〜……」

「……」


 美咲は大きな欠伸をするが、まるでこの状況になんの反応も示さない。

 よっぽど朝に弱いのだろう。


「ん」

「あの……これは僕もさっぱりで」


 むくりと起き上がった美咲の前に正座して、今の状況を問い詰められる前に先手を打っておく。


「眠れた?」

「ああ……まあ」


 何も言ってこないのが逆にこわい。


「あたしもたくさん寝た感じする」

「な、なあ美咲。この状況を見てどうも思わないのか?」


 僕自ら触れることで初期消火しょきしょうかこころみる。


「何が?」

「だから、美咲が僕のベッドにいる状況だよ」

「だってあたしがそっちで寝かせてってお願いしたんだし」

「は……はあああ!?」

「朝からうるさいよ〜」

「僕は知らないぞ!?」

「だって陽也はるやくんほとんど寝てたし」

「いやいやいやいや!」


 そんなぶっ飛んだこと言われたら眠気だって吹っ飛ぶだろ。


「断られなかったからいいんだな〜って」

「か……!」


 驚きと恥ずかしさのあまり絶句する。


「わっ! 陽也くん時計見て! 全然時間ない!」


 美咲はパタパタとシャワールームへ入っていった。


「……少しは警戒けいかいしてくれよ」


 僕のこと本当に男だって思っているのか、今更になって心配になってきた。


「うわあ……やっぱパンツもかわいてない」

乾燥機かんそうきもなかっ……は?」


 は?


 ちょっと待て。待って?


 美咲さん、今なんかとんでもないことをぽろっと言わなかったか? 


 パンツが乾いてない?


 ……もしかして昨日服と一緒にしてたの?


「陽也くーんどうしたの?」

「なんでもない」

「早く着替えたら?」


 じゃあ美咲は夜から何も履いてなかったってこと……?


「ねーってば! 早く出ないと追加料金発生するって!」


 よくよく考えれば僕もパンツを乾かしていたから至って普通なのか……。


 尚更ダメだろ!! 

 下着も身につけてない男子と女子が同じベッドで寝てたなんて普通じゃないだろ!


「早く支度しろー!」


 そんな僕の葛藤かっとうはいざ知らず、美咲はまだ乾ききっていない服を投げつけてくるのだった。

 


 ******


 

 電車が走り始めるまではポツポツと会話があったのだけど、次第にそれも短いやり取り変わっていき、隣の駅を過ぎた頃にはお互い喋らなかった。


 行きよりも明らかに乗客が多く、ボックス席に座れなかったのもあるのかもしれない。

 その分景色の方に目が行きがちで、あまり背の高くない建物の並ぶ街をぼんやり眺めていた。

 窓に反射ししている美咲の姿を盗み見ると、同じような姿勢で景色を見ていた。


「ねえねえ陽也くん」

「どうした?」


 近くに他の乗客もいるので小声で返す。


「まだお好み焼き売ってるかな?」

「どうだろ。フェスでたまたま来てただけっぽいし」


 今までも僕が遠征に行った時に何回かあの手のお店は出ていた。興味本位で何品か買ってみたこともある。


 特に僕が美味しいと思ったのは、梅と紫蘇と白胡麻が混ぜ込まれた肉巻きおにぎりだ。

 旨みの強いタレと肉汁を吸ったご飯と、紫蘇と梅で完璧なバランスに仕上がった絶品だった。

 あれ以来僕は買い物に行った時に肉巻きおにぎりを買うのだけど、あの味に並ぶものに未だ出会っていない。


『『ぐ〜』』


 食べ物の話をしたせいか、僕と美咲のお腹が鳴る。


「駅でなんか食べてから帰ろっか」

「家に帰らないとお金ないだろ」

「うぁあ……そうだった」

「美咲、落ち着いたら今度何か食べに行こうよ。三人で」

「うん……いいね」


 僕の思いつきの提案も中々悪くないようで、美咲は嬉しそうに応えてくれた。

 

 まだ乾いていない服がじんわりと引っ付いているけど、不思議と嫌な感じはしなかった。昨日の海での大喧嘩を思い出させるからなのか、身体の内側が暖かい。


 いつの時も喧嘩は思い出すのも嫌だったのに、昨日のは全然違う。

 なんていうか、ずっとしまっておきたい、隠しておきたい。そんな不思議な感覚に溢れている。

 寝不足と寝過ぎの温度差で頭の中がぽやぽやしてるのか、ちょっと現実感が薄れ気味だ。

 でも夢の中じゃないのは僕が一番理解している。

 美咲と触れ合う肩がくすぐったいから。

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