第13話 スーパースター
「「「球技大会お疲れ〜!!」」」
教室中に歓喜の声が響き渡ると、各々が缶ジュースやペットボトルを上に掲げる。
「全員ちゅーもーく! 今日の主役! 一年二組のスゥプゥアスタァー! 楠陽也!」
「と、遙馬……やめ……」
遙馬が強引に僕の腕を持ち上げると拍手が巻き起こる。
「だが! これはまだプロローグに過ぎない! オレたち野球部は葵空を甲子園に連れていく! な! 陽也!」
「入んないって言ってんだろ」
入学してからもう何度も繰り返したやり取りだ。
いちいち断るのだけど、今回はテンションの上がりまくったクラスメイト達によって掻き消される。
「振り返れば三年四組との一回戦が事実上の決勝戦だったな」
「楠が二回牽制アウトになったのはひやっとしたけどな」
「それはごめん……本当に申し訳ない」
松下と牧田に軽く頭を下げる。
「でもなんであんなイージーミスかましたんだ?」
「わかってねえなあ。僕がホームに帰るまでもないってことだろ? な? 陽也」
「違う。中学の試合じゃまともに塁に出てないから苦手どころじゃないんだよ」
堀の疑問に悪ノリを重ねる遙馬。うるさいので肩にパンチをお見舞いしようとしたが、持ち前の反応の良さでしっかりと防がれる。
走塁とか盗塁の練習はあるにはあったけど、実戦とはまるで勝手が違う。牽制が来るとあらかじめ分かっているのと、いつ来るのか分からないのじゃ全然別物だ。別物だった。まさか四回出塁して二回牽制でアウトになるとは僕も思わなかったよ。
「なあ楠」
「あ、藍原?」
牧田達の間をすり抜けて声をかけてきたのは藍原奏。前髪を上げた金髪と長い睫毛が特徴の男子だ。テレビでよく見るアイドルを彷彿とさせる顔立ちで、まごうことなきイケメンってやつだ。
入学当初から美咲と七海さんが全校中の男子の注目を集めていた中、藍原は女子の注目をこれでもかと集めていたそうな。
表で注目の的になっていた女子二人の対し、藍原は裏で女子生徒から告白されまくったとか……。
もちろんクラスでの立ち位置はトップカースト中のトップカースト。本人の爽やかな性格もあって、そんな素振りはこれっぽちも見せないけど、間違いなくこのクラスの帝王ポジションだ。
「他のクラスの友達が楠のこと試合で見たことないって言ってたけど、中学はどうしてたんだ? 部活じゃなくてクラブチーム?」
「いいや。僕は中学じゃずっと補欠ですらなかったから練習試合もほとんど出てなかったんだよ」
「陽也が出るまでもなかったんだよな」
「遙馬、そろそろうるさい。あっち行ってろ
」
勝利のテンションでおかしくなっている遙馬を追い払って藍原と向き合う。
こうして一対一で喋るのは初めてだな。藍原はいつも誰かしらが周りにいて、常に数人で行動している。そんな人気者の藍原が一人で僕に声をかけてくるのがとにかく意外だ。
「あんなに上手いのにか?」
「ま、まあね……」
「怪我とかじゃないのか?」
「いや全然」
「並風って野球もレベル高いんだな……」
入部したばかりの後輩に速攻で追い越されたなんて言えるはずがなく、愛想笑いでなんとかやり過ごす。
そういえば……他のクラスにも何人か葵空の野球部出身の奴らがいたけど、目立った活躍はしてなかったな……。
僕はたまたま絶好調だったけど、向こうは本調子ではなかったのだろう。
「藍原はバドミントン惜しかったな」
「まあ、葵空はバドミントンそこそこ強いからな。一年の俺らなんてこんなもんだろ」
美咲達同様、藍原もバドミントンに出場していた。持ち前のリーダーシップでチームを牽引するだけじゃなく、出場した試合もきっちり全勝している。本人はこんなこと言ってるが、部活でもすでに部内ランキングの上位に入ってるらしい。その上成績も学年一桁で非の打ち所がない。
「ところで藍原が僕に声かけるなんて珍しいな」
「ああ、楠をバド部にスカウトしようと思ってな」
「なにぃ!? 」
「悪いけど運動部には入らないって決めてるんだ」
廊下に出ていたはずの遙馬が信じられないスピードで戻ってくる。ほんと元気だなこいつ。とても何試合もしたとは思えない。僕なんかもう帰ってすぐ寝たいと思うくらいにはヘロヘロなのに。
「よく言った陽也!」
「話聞いてたよな? 僕は絶対運動部には入らない」
「野球部は野球部だろ」
「もういいから向こうで遊んでてくれ」
このテンションじゃ何を言っても無意味なので雑に追っ払う。
「てなわけでごめん」
「そっか……仕方ないな。ならこの後打ち上げしないか? 色々話したいんだ」
「え? 僕と?」
「なんてったってうちのスーパースターだからな」
「それは止めてくれ」
冗談混じりで笑うと藍原はいつもの男子の集まりに戻っていった。
遙馬と違って藍原は随分とすんなり諦めてくれた。引き際も爽やかなところを見るに、こういうとこも中心になれる要因なのだろう。
どっかの誰かさんもこの引き際の良さを見習ってほしいものだ。
「スポドリうんま」
冷たいスポーツドリンクが疲れた身体に浸透していく。中学の頃はスポーツで注目されたことなんてなかったから初めての感覚だ。
しかしまあ……活躍ってのは中々良いもんなんだな。
「……ん?」
スマホが振動したので画面を立ち上げる。
『何にやけてんの?』『きも』
送り主の美咲に目を向けると意地悪っぽく舌を出された。今時小学生でも中々見ないあっかんべー。直接言いにくればいいのに。
美咲はここ最近ラインで妙な攻撃をしてくるようになった。
何も話さなくなった時期に比べたら仲直りに向かっていると思っていいのかな……。
「スポドリもう一本もらっていい?」
クーラーボックスに入った缶に手を伸ばした。
僕が勝手に意気込んだだけなんだけど、泣いていた藤本さんの敵討はできたと思う。少しは彼女の心が晴れてくれればいい。
こうして二日間にわたる球技大会は幕を閉じた。
しかしこの時の僕は、この球技大会が大きな火種を抱えていたのを知らなかった。




