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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第三章 『ガラクタピエロと泣かないシンデレラ』
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第20話 怒ってない

 ファミリーレストラン、略してファミレス。全国の至る所に様々な店舗があるのはもちろんだけど、なんと言っても手頃な価格と豊富なメニューが最大の魅力だろう。老若男女問わず食事を楽しめるのだから、家族や友達と集まるのにこれほど適した場所は無い。かくいう僕も結構な回数利用しており、各ファミレスで好きなメニューがそれなりにあるし、良いところ悪いところも把握しているつもりだ。


「いらっしゃいませ〜。一名様ですか?」

「あ、先に一人来てると思います」

「かしこまりました」


 利用者がほとんどいない店内を見回す。

 しかしまあ、朝早くから夜遅くまで営業しているのは知っていたけど、開店して少しもしないうちに入る日が来るとは思いもしなかった。受付のボードは真っ白で、僕がよく知るファミレスと全く違う姿は新鮮な気持ちになる。


「来た来た。こっちこっち」

「おはよ……」


 でいいのか?


陽也はるやくん遅くない?」

「これでも急いで来たんだよ」

「お店開くの一人で待ってるの超恥ずかったんだけど」

「他に並んでた人いないなら気にしなくていいだろ」


 開店前から女の子が店の前にいるなんてお店側も全く想定していないだろう。絶対にお店の人に裏でなんか言われてるよ。


「陽也くんテンション低くない? 眠そう」

「おかげさまでな!」


 普通は『明日会おうよ』と言われたら一旦お開きにしてって流れじゃん? 誰だってさあ。

 まさか外が明るくなっても電話が続くとは思わないって! 一睡ぐらいさせてくれると思ってたのに、ほんの少し前までずっと繋がりっぱなしだった。途中から美咲側の方で雑音が入るようになったと思ったら、いつの間にか店の前まで来てるだもんな……流石に戦慄せんりつしたよ。

 女の子一人にするわけにもいかず慌てて来たけど、こんな早い時間にファミレスに足を運ぶのは今後絶対にないだろう。


「なんだかんだオールしちゃったもんね〜。語った語った」

「話の主導権が常にそちらにあったのを語ったと呼べるのだろうか?」


 あれは一晩かけた尋問だ。


「何意味わかんないこと言ってんの? 気になったんだから仕方ないじゃん」

「だったらもうちょっと優しくしようってならない?」

「陽也くん絶対誤魔化すじゃん」

「正直に喋ったら怒るだろ」

「怒らないし。まあいいや、何か食べる?」

「お腹減ってない。眠い」


 それと僕は全然よくない。

 つーか今の時間帯って料理出してくれるのか? お店側も何かと準備の時間が必要じゃないか? それとも開店前から色々終わらせてるとか? 出せるとしてもモーニングメニューだけだろ。


「陽也くん朝ごはん食べない派?」

「寝てないから朝って感じがしないんだよ」


 美咲みさきは鼻歌を歌いながら注文用タブレットを手に取った。つーかなんでこんなに元気有り余ってんだよ。昼寝した僕でさえ眠気に押しつぶされそうなのに、一体どういうエンジンしてんだ。


「ねーねー! これ一緒に食べない? 上がらない?」

「いらない。上がらない」


 美咲が指差したのは誰がどう見ても四人前はあるフライドポテト盛りだ。いつもの調子なら僕が少し頑張れば食べ切れるけど、オールをした今のコンディションだとノーマルサイズでもキツい。


「じゃあこれは?」

「もっといらない」


 次に見せてきたのはフライドチキンとフィッシュフライの盛り合わせだ。量でいえばさっきのポテトより少ないかもしれないが、胃袋に与えるダメージはこっちの方が上だろう。


「こっちも美味しそうだよ」

「頼むから揚げ物から離れてくれ……」


 期間限定の串揚げのセット、これっぽっちも季節感を感じないのは僕だけだろうか。美咲は揚げ物好きってほどじゃなかったはずだけど、もしかしたら僕とは別のベクトルでオールの影響を受けているのかもしれない。下手をしたら僕より深刻だ。


「陽也くん好き嫌いばっかしだと大きくなれないよ?」

「寝不足も成長に多大な影響を及ぼすよ」

「だったら尚更食べなきゃダメじゃん!」

「待て待て! 自分で選ぶから!」


 どうやら寝かせるつもりは一切無いらしい。

 タブレットを奪い取り、朝食コーナーから卵サンド、トマトとツナのサラダ、ドリンクバーを注文リストに入れる。


「これ新メニューだって。陽也くんの分も頼む?」

「揚げ物はいらない」

「カレーだし」


 サフランライスの上に挽肉を使ったルーがたっぷりかかったドライカレー。こんな調子じゃなければ僕も頼んでいたかもしれない。


「うーん……僕はいいかな」

「言っとくけどあたしの分はあげないから」

「食べたくなったら注文するよ」


 美咲は面白くないと言いたげに確定ボタンを押した。


「さて、僕は飲み物を持ってこようかな」


 眠気に負けそうな時は本来コーヒーが望ましいのだけど、苦すぎて飲めないのでエナジードリンクを。


「待った。行く前にさっきの続き」

「さっき?」


 一体いつのことだろう……電話で色々話しているはずなのに全然話が見えてこない。話し過ぎて『さっき』に当て嵌まる題材が多過ぎる。


「決まってんじゃん。環境委員会の女の子」

「えぇ……まだするの?」

「当たり前じゃん。その話するために呼びつけたんだし」

「なら電話でいいじゃないかぁ……」


 疲労感が一気に膨れ上がって口調も弱々しくなってしまう。だったら一晩中寝かせてくれなかったのは何だったんだ……。


「だーめ。電話だと陽也くん絶対逃げるし」

「誰も逃げたりしないって……」

「へー? じゃあこの前あたしと喋ってたのブチってたのは? あたしじゃなくて麻央ちゃん優先したのは? メッセージ返さないまま寝たのは?」

「う……でもそれはもう何回もごめんって……」

「あたし全っ然許してない」


 美咲の睨みに耐えきれず視線を逸らす。ここのテーブル、主に美咲の醸し出す空気の並々ならぬ迫力に気付いたのか、従業員がソワソワしながら様子をうかがっている。


「み、美咲。あんまり怒っちゃだめ」

「怒ってない。つーかどこ見てんの? こっち向けよ」

『ほらほらそういうのだよ』とは言えず黙ってうなずく僕。

「わかった。美咲の言う通りにするよ」


 気が済むまで受け答えする他ないようだ。

 まるで従業員を人質にされてる気分だ。


「ん。なんか微妙だけどいいか」


 表情を少し柔らかくして美咲は頬杖をついた。


「はじめに言っとくけど、隠してたつもりはないから」

「ふーん。で、行くの? 環境委員に顔出しに」

「そりゃ行くよ。後輩も会いたがってるみたいだし」


 無下にするのも先輩としてどうかと思うし。


「わかった。じゃあその日の夜電話してね」

「いいけど……なんで?」

「隠し事されるとムカつくって言ったじゃん」

「それ必要……りょーかい、ちゃんと電話するよ」


 一瞬美咲の眉がぴくりと動いた気がしたので言い直した。


「他には?」

「他にはって……全部話さないといけないの?」

「いいじゃん。あたしが知りたいんだから」


 ちょっとそれは横暴過ぎやしないか? 七海さんと美咲の面識があるならまだしも……。


「流れ切っちゃって悪いんだけど、美咲はどうしてそんなに気にするんだ? 麻央に対しては普通なのに」

「……言われてみると」

「仲良くしてるのだったら麻央も美咲も変わんないし、それこそ美咲とは……その、ちょっとやそっとじゃないこともあったしさ」

「だ、だって……あたしだってこんなになりたくないけど……なんかむかつくの! 仕方ないじゃん!」


 お互いに頭に浮かんだクエッションマークは増える一方だ。

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