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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第三章 『ガラクタピエロと泣かないシンデレラ』
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第19話 会おうよ

『もしも〜し』

「もしもし」


 サインの通話機能が正常に機能しているのを確認する。

 あまり使ったこともないし、僕自身電話を活用する方ではないので変に緊張してしまう。

 スピーカーモードのアイコンをタッチしてスマホを耳元から離す。

 こうすれば両手が空くので何かしらしながらでも喋られる。


 画面に表示されている名前は『結城美咲ゆうきみさき』。

 

 昨日僕が寝落ちしてメッセージのやり取りが中途半端なとこで終わったからなのか、美咲の方から誘いがあったのだ。


陽也はるやくん、もしかして今まで寝てた?』

「全然起きてたけど」

『嘘だあ。声が超眠そう』

「いつも通りだよ。通話機能で話してるからそう聞こえるだけなんじゃない?」


 昨日は勉強会をしたり七海さんを家まで送ったり、麻央まおと夕ご飯を巡って争ったりで疲れてしまったが、今日の終業式の後は驚くほど何もなかった。あまりに何もなさすぎて昼寝までしてしまった。


『じゃあ陽也くんはいつも眠そうってことで』

「僕を居眠りキャラに定着させようとするな。そういう美咲こそ、こんな時間まで起きてて眠くならないのか?」


 冗談混じりで返したものの、美咲の声はスマホ越しとは思えないほど澄んでいる。実際の声とは多少違うけれど、相変わらず通りがいい綺麗な声だ。

 画面に表示されている時間は午後十一時。普段の僕なら寝る準備をしてるとこだけど、明日から冬休みなのだから、今日くらい夜更かししても誰も責めないだろう。


『全然平気。そこまで言うなら先に寝た方罰ゲームね』

「え〜……」

『文句言わない。もう決めたから』

「勝てない勝負はしない方いいぞ?」

『はあ〜? 絶対負かす』


 何がそこまで美咲を駆り立てているのか知らないが、昼寝をたっぷりした僕が有利なのは目に見えている。


「ところで今日はなんでいきなり電話なんだ? メッセージでも連絡は取れると思うけど」

『うーん。なんとなく? あ、前に陽也くんが電話勝手に切ったからその続きって感じ? 最近全然声聞いてないからちょうどいいやって』

「あの時は本当にごめん……」

『陽也くんは最近何か変わったことあった? 終業式以外で』

「僕の方は何も……そっか、星坂も今日終業式なんだっけ?」

『そうそう。明日から冬休みだからウザい校則もないんだ〜』

「ウザい校則って……美咲は全然変わんないな」


 確か転入早々髪の色をはじめ色々と指導を喰らったんだっけ? 

 髪を染めるのが間に合わなかったらしく、明るい茶髪に星坂の制服でバランスが悪いなんてもんじゃなかった。

 文化祭の打ち上げの時は髪の色も格好も僕がよく知る美咲そのものだった。星坂の後夜祭で友達とダンスをしたとか。


 美咲と知り合って半年ぐらいになるけど、未だに校則に順守した姿を見たことがない。受験勉強もあるし学校も違うから仕方ないんだけど。


『だってさあ! 今時茶髪もピアスもダメ! スカートは膝下丈で学校指定靴下ってダサくない? こんなん絶対うちだけだし!』

「そう? こっちも似たようなもんだけど」


 スカートはもうちょっと短かった気がする……膝上数センチ以内とかだった気がする。麻央はどうだったっけ? 

 ていうか髪染めていい学校の方が珍しいと思うけどな。あれ? となると美咲は今染めてないのか。普通に見てみたいな。


『冬なんてタイツなんだよ? マジでありえなくない?』

「そんなに怒る?」

『怒ってない。死ぬほどダサいって言ってんの』

「……地味だとは思うけど、ダサくはないんじゃない?」


 僕はファッションにはかなりうといけど、こういうのは何を着るかじゃなくて、誰が着るかが重要だと思うんだ。

 ふと制服姿の七海さんが浮かんだ。見慣れているのもあってしっくりくる。似合っているとはこういうことを言うのだろう。

 逆に七海さんが美咲の私服を着たとしても……あれ? 

 ちょっと見てみたいかも? 普通にありじゃね?


『はあ? なんなの?』

「っ!? ど、どうしたんだよ急に……」

『あのさあ……陽也くんっていっつも何かと否定するってか、ややこしい言い訳ばかりするよね。もっと普通に共感してくれないの?』

「なんだよ急に怒ったと思ったら……僕は正直に答えただけだろ」

『っは〜……まだそんなこと言うんだ』

「大事なのは似合ってるか似合ってないかだろ?」


 ちなみに七海さんと全く同じ格好の美咲は全然想像できない。


『うっざ。見たことないくせに勝手に下げないでくんない?』

「下げてない。見る機会ないから上げ下げどうこうできないだろ。学校も違うんだし」」

「また言い訳。あのさあ、会う気もないのによく次から次へと理由探しするね?」

「事実だろ。誤解されたくないから言っとくけど、美咲の制服姿、普通に見てみたいって思ってるから」

『前に見た時似合ってないって言ったじゃん』

「や……それは……」


 だってあれは校則違反フルコースコーディネートだったろ……。つーかまだ根に持ってんのか。


『陽也くんってリアルにサイテーだよね』

「……まあ、よく指摘されるけどさ。でも会う気もないってのは待ってくれ。僕は冬休み中も予定が合えば美咲と会いたいって思ってるよ」

『制服姿は? 見たくないの?』

「見たい……です」

『ちゃんと褒めてくれる?』

「前向きな感想を伝えられればと思います」

『褒めてくれるのくれないの?』

「できる限り褒めます」

『褒めてくれんのくれないの?』

「……褒めます」


 期間を空けていたのもあって美咲の気まぐれが全開だ。校則がダサいだなんだで始まって、制服姿に興味がないって勝手に解釈して不機嫌になって。僕が美咲に無関心なはずがないのに。


『……どうだか。陽也くん隠し事してるのバレてるからね?』

「な……!」

『どーせ仲の良い女の子がダサい格好してんでしょ?』

「だ、ダサくない!」


 ——しまった。


『……うざ。何マジになってんの?』

「先に機嫌が悪くなったのはそっちだろ」

『なってない。あたしの知らないとこで他の子と仲良くしてんのが気に入らないって何回言わせんの?』

「ちょっと待てって。その理屈だと僕が誰かと仲良くするのに美咲の許可がいるみたいじゃないか」

『当たり前じゃん』

「いくらなんでもめちゃくちゃだろ……!」

『はあ? 何? 悪い? 文句ある?』

「ありすぎて逆に言葉を失ったよ」


 どこぞの魔王様もびっくりのとんでもルールだ。どうやら人魚姫から女王様へと変な進化を遂げていたみたいだ。


『それで? 陽也くんはそのダサ女と麻央ちゃんと学校で何してんの?』

「どうもしないって。今は受験が第一だし普通に勉強してるだけだよ」


 つーかダサ女って……よくもまあ会ったこともないのにそこまで敵意を出せるもんだ。

 麻央にちゃん付けするぐらいなら、七海さんには絶対にキツく当たれないと思うけどな。実際に会ってみれば少なくともダサ女とは思わないはずだ。


『あっそ。そうやってあたしにまた隠し事するんだ。へー』

「まだ言うか……」


 これまでの美咲だったら機嫌を悪くしてもあまり長引かなかったけど、今日は過去一で長いというかしつこい。


『つーかあたしと陽也くんの間に隠し事ってなくない? ふつーにショックなんですけど?』

「だーかーらー! 本当に何もないんだって! 変わったことなんかこれっぽっちも! あるとすれば年が明けたら環境委員に顔出すくらいだよ!」

『一人で?』

「へ? 同じ学年の人とだけど……」


 え? 美咲なんで急に冷静になってんの?


『何人?』

「二人です……」


 僕も何故敬語になる……?


『どうして? 陽也くんの学年三クラスだよね? 二人なのおかしくない?』

「や、もう一人が部長なんだけどサボり魔でさ……それで——」

『部長がサボり魔とかマジでどうでもいいから』

「……誘っても来ないだろうから二人で行くことにしました」

『あのさ、誘ってからじゃないと部長さん可哀想じゃない? 誘ってないよね? ハブにしてんじゃん』

「すみません……」


 なんで謝ってんだ僕……。


『てか陽也くん何もないとか言ってたけど普通にあったじゃん。どうしてすぐに教えてくれなかったの?』

「隠すつもりはなかったよ。特に言うほど重要じゃないと思ったからさ」

『それ決めるの陽也くんじゃなくない?』

「う……」


 この淡々と詰めてくる感じは本当に堪える……。

 あれこれ感情をぶつけてくる方がよっぽど優しい。


『あー……なるほど』

「な、何かな……?」


 背筋に寒気が走る。


『その環境委員が陽也くんと仲良い女子だ』

「っ!?」


 いやいやいやいや! 勘鋭するどすぎだろ!


『なに黙ってんの?』

「ちょっと驚いただけだよ!」

『へえ……驚くってことはやっぱあたしに知られたくなかったんじゃないの? 当たり? 当たりだよね』

「み、美咲……ごめん僕もう寝たいんだけど……」


 思わず本音が溢れてしまう。

 今の最強モードの美咲とやり合ってたら身が持たない。


『じゃあさ、最後に一つ訊いていい?』

「もちろん! 最後なんだからどんと来てよ!」

『あたしが他の女の子と喋らないでってお願いしたの覚えてる?』

「〜〜っ!」

『そうだ。陽也くん明日暇?』


 声のトーンは元に戻ってるのに電話越しから伝わるプレッシャーは大きくなる一方だ。

 僕が言葉を詰まらせてるのに次々と質問を投げつけてくるあたり、もうこれは質問ではなくなってる。


『久しぶりに会おうよ』


 ほらね? 

 当然僕に拒否権はない。

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