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セレスティア、中学生になる(見込み)





「よし、これも全て理解できたわ!」






全てのページに目を通し、12歳用の算数の教科書を閉じる。










父との交渉から一ヶ月。



セレスティアは着実に勉強を進めていた。










こんなにも勉強が捗っているのは、千鶴子としての経験のおかげだ。







セレスティアが睨んでいたとおり、一般教養の大半は前世と被っていた。




テーブルマナーや言葉遣い、立ち居振る舞いなどは「ほぼ教えることはない」と教師に言わしめたため、初回で終了した。

少なくとも社交界デビューの年になるまではやり過ごせるだろう。



外国語も初めて学ぶ言語とは言え、高等女学校でもそういった授業があったしハードルは高くない。



絵画も一時期習っていたし、ピアノも弾けるので、それぞれ週3あったレッスンが週1になった。

裁縫や刺繍、編み物に至っては千鶴子の得意分野だ。甥や姪が幼い頃は手作りの服をプレゼントしたこともある。



さすがにダンスは初めてなのでレッスン回数削減とはいかないが、体を動かすのは思っていたよりずっと楽しいので良し。

なんてったって、若い体は激しく動いても全然問題ないのだ!

ステップを踏んでもくるくる回っても、飛び跳ねても大丈夫。


これが千鶴子(85)だったら、ステップを踏もうとすれば脚が絡まりよろけ、回れば三半規管が弱って気持ち悪くなりよろけ、飛び跳ねようもんなら着地できず転倒する。

高齢者の転倒は洒落にならない。下手すれば頭をぶつけたり骨を折ったりで、その後ずっと寝たきりだ。

まあそもそも膝と腰の痛みで、上記の動き自体できない気がするが。







(ああ、若いって最高ね!)






別に歳を取ることは嫌ではなかったが、若さの魅力というのは格別。



それを噛みしめて踊っていたら、動きが激しすぎて優雅さに欠けると注意された。反省。

















とりあえず一般教養の勉強時間を大幅に減らすことに成功したので、趣味の勉学に打ち込むことができている。








当初の予定と異なるのは、それを独学で行っているということ。








ノアの教科書に目を通したセレスティアは、その内容がかなり簡単であることに気がついた。





よく考えたら理数系は無学とは言え、一成人として日常生活に支障ないほどの計算はできた。8歳向け…前世で言うところの小学2年生の勉強は、さすがに習う必要がない。







更に問題は理科。




貴族制度のある世界観や家に置いてある家具から薄々気づいてはいたが、この世界は千鶴子が晩年過ごした令和の世から技術も知識も大きく遅れている。

電気は通っているが家電はほぼ存在していない。移動手段は馬車。

千鶴子の子供時代より発展していないかもしれない。



つまり、学べることも前世と比較するとかなり限られているのだ。

その証拠に理科の教科書はものすごく薄い。ペラッペラで、前世の電話帳の1/10にも満たないんじゃないだろうか。








正直ちょっと残念ではあったが、すぐに気を持ち直す。







「まだ何もわからぬ初学者が難易度にケチを付けようなんて生意気だわ。文句を言うのはこの世界にある知識を全て修めてからにしましょう。それに発展途上ということはその分、新規の技術を開発する余地があるということよね!私は未来の知識を持っているようなものだし、将来本当に天才発明家になっちゃったりして…」



なーんてね、と期待半分の冗談を呟き、一人クスクスと笑った。












丁度良いことにすぐには教師が捕まらず、授業開始は1ヶ月後。



なのでその間に教科書に目を通し、自分でわかる範囲は終わらせておくことにした。








その結果が冒頭だ。

算数も理科も12歳までは問題なく理解できた。



さてようやく中学生になれるわね、と13歳以降の教科書を探したがなぜか書庫にはなかった。







きっと兄が自分で持っているのだろう。









(お兄様に直接お願いしてみましょう)








そう思い立ちとことことノアの部屋へと向かう。





ノアは父のような溺愛ではないものの、妹を可愛がってくれている。

なんとなく前世での兄を思い出すような距離感だ。






(でもお部屋に行くのは久々ね)





ちょっと緊張しながらコンコンとノックをしたが、中からの返事はなかった。

父の執務の手伝いをしているのだろうか?




本来なら出直すべきだが…正直時間が惜しい。

もっと素直に言うなら、続きが気になって仕方ない。

















…………よし、部屋から拝借してお兄様からは事後承諾をいただきましょう。




借りるのは2学年下の教科書ですもの。

15歳のお兄様は普段使っていないでしょうし、なんなら急いで終わらせて気づかれる前に返せばいいわ。










かつての良妻とは程遠い…いや、最早大人としてどうなんだ?という行動であるが、長年の夢を叶えアドレナリンMAXモードのセレスティアは、己の欲を取った。

この身体は老人であり、幼い少女でもあるから、理性が未発達な8歳の子どもの衝動性が強く働いたのかもしれない。そういうことにしておこう。







バレたらものすごく怒られるわね…と思いつつ、セレスティアはこっそりと扉を開いた。



そのまま忍び足で中へ侵入する。












「それでは教科書の62ページを開いてください」











ふいに響く大人の声に、セレスティアは飛び上がった。






兄の家庭教師である、エスクロー男爵だ。

しまった、ノアお兄様はお勉強中だったのか。






とっさに洋服棚の影に隠れる。







この国では学校があまり身近でなく、貴族は男子であっても家庭教師をつけ家で学ぶのが一般的だ。



ノアも例に漏れず高名な学者を家庭教師につけていた。








(でもこれはチャンスかもしれない)








エスクロー男爵は確か物理学者だ。

ノアお兄様には物理だけでなく化学と数学も教えていると聞いた。





理系授業を生で聞くことができるなんて!



15歳のレベルでは聞いても全くわからないかもしれないが、それでもワクワクする。






晴政の教科書を読んでいた時と同じ胸のときめきを感じながら、セレスティアは耳をそばだてた。





史実と矛盾している点が多々あるかと思いますが、ご高齢の方が一度の転倒で寝たきりになるリスクがあるのだけは本当です。


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