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第2章 第1話 恋愛

「ようするに彼女作るのが一番なんですよ!」



 俺の死体の上に缶ビールの空き缶を積み重ねながら天使、イシュは赤い顔で語る。



「なーんか彼氏彼女持ちってそれだけで有利でしょ? ていうか結婚してないといい役職に就かせてもらえないとか……独身なんて家帰ってもやることないでしょ笑みたいに言われるじゃないですかー!」



 天使の世界も人間と同じで理不尽なのだろう。人知を超える存在とする会話とは思えない現実的な話が繰り広げられる。



「でもなぁ、結婚は人生の墓場とも言うしなぁ」

「ははっ、死んでる奴がなに言ってんすか!」



 だがこの死生観はまるで慣れない。ていうかなんで俺の死体の顔弄って遊んでんだこの天使ほんとに天使か?



「いーですか? あなたが生き返るには過労死をしない未来を作らなきゃいけないんです。でもあなた馬鹿だからすぐ余計な仕事引き受けて勝手に疲れて死んじゃうでしょ? それを防ぐには思考を変えなきゃいけないんです。わかってるんですかー? ばーか」

「わかってるけどさ……必ずしも彼女必要ってわけじゃないだろ……ほしいけどさ」


「わかってないですねー。なんか彼氏彼女持ちってそれだけで自信に満ちてるじゃないですか。でも私彼氏いますけどーみたいな? チッ、馬鹿にしやがって……! あなたに必要なのはそういうふてぶてしさなんですよ!」

「イシュもつかれてるんだなー……」



 おそらくイシュにも彼氏がいたことはないのだろう。口調がやたらと厳しい。こんなに美人なのになー……性格悪いからか? ていうか天使の彼氏ってなんだよ。世界観がよくわからん。



「佐伯さん、今からあなたをもう一度過去に戻してあげますけど、時間は少し進みます。その時間で彼女作ってください!」

「あれ? でも俺が一番記憶に残ってる地点にしか戻れないって話じゃ……」


「まーマニュアルはそうなってるんですけどね。現場判断ってやつですよ今回は特別にってやつ。感謝してくださいね、私の性格がよくて!」

「いやお前は性格悪いだろ……それともこれでもマシな方なの? 天使なのに」


「あなたねぇ……失礼ですよ酔っぱらっているとはいえ! ほんとに私としては珍しいんですからね! わざわざ余計な仕事を増やしてるんですから!」

「それについては感謝してるよ本当に。ありがとう」



 「まったく……」と言いながらイシュが次の缶ビールを開ける。なんだかこういうのひさしぶりだ。何の気も遣わず、思っていることを言い合えるなんて。ひさしぶりに心が楽になった。彼女を作るとしたら……イシュみたいな子がいいな。



「な、なに考えてんですかセクハラですよセクハラ!」



 さっきより赤い顔をしたイシュが俺に空き缶を投げつけてくる。そういえばイシュって心読めるんだった……普通に恥ずかしい……。



「今から戻す時間は、さっきの時間から約1ヶ月後。高校2年生の夏休み前です。受験勉強もなく高校生で最も楽しい時間。それをうまく活かして彼女と楽しい夏休みをエンジョイしてください。そうすればきっと未来は変わるはずです」



 高校2年の夏休みか……。いじめの影響で不登校気味になっていた俺からしたらほとんど未知の時期だ。ここから先は記憶が当てにならない。未来から来たというアドバンテージはほとんどないと言える。



「大丈夫ですよ。私がついてますから。二人でがんばって、さっさと仕事を終わらせましょう? 今度はもっとちゃんとしたお店で乾杯できるように」

「……そうだな。そのためなら俺もがんばれそうだよ」



 再び缶ビールをぶつけ合い、視界が移り変わる。



「佐伯くん……私が必ず君を幸せにしてあげるからね……」

「……んん?」



 顔に当たるのは柔らかい感触。少し見上げると日高先生の顔がある。どういう経緯でこうなったのか。俺は日高先生に抱きしめられ、胸に顔をうずめていた。



『言っときますけど教師と生徒の恋愛は犯罪ですからね?』



 理解が追い付かない俺の脳内に、イシュの声だけが響いていた。

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