第1章 第5話 システム
「ごめんなさい……!」
お袋と校長が出ていき二人きりになった後も、俺の担任日高先生は床に正座したまま動かない。ただただ目を伏せたまま謝罪を続けている。
「私……佐伯くんがいじめられてるの気づいてた。気づいた上で……無視してた」
「まぁ……そうでしょうね」
いじめに気づかない教師なんてほぼいない。大人はそんなに無能ではない。そんなことはどうだっていい。
「どうして無視してたんですか?」
「そ……れは……」
「言いづらいですか?」
「……ごめんね。こんなのは言い訳……言い訳にもならないんだけど……」
「はい」
「仕事が忙しくて……構ってる余裕がなかった。授業や準備……顧問に宿題……若手は色んな仕事押し付けられて……毎日、やらなきゃいけない仕事を終わらせるので精一杯で……やらなくても怒られない仕事をやる余裕なんて……なかった……」
『うわめちゃくちゃ正直言いますねこの女』
『新人の内は正直に言ってくれる方が助かるよ』
日高先生の懺悔に茶々を入れる天使と、どこか他人事とは思えずフォローしてしまう俺。
「ごめんね……最低な先生だよね……」
「まぁ……そうでしょうね」
確かに先生としては最低なのだろう。いじめられている生徒を無視して、自身の平穏を守る。教師失格と言えばそうなのだろう。
でも気持ちはわからないではなかった。いや、よくわかった。社会人なりたて。何をすれば正解なのかもわからない日々の中。声を上げずに潰れている生徒に構う余裕なんてあるもんか。
『優しいんですね、佐伯さんは。自分を見捨てた教師を庇うなんて。反吐が出ます』
『別に庇ってるつもりはないよ。教師失格なのは間違いない。ただ気持ちがわかるだけだ』
俺は優秀な人間ではなかった。清廉潔白な人間でも。悪人に石を投げ続けられるほどできた人間ではないだけ。そして何より。
「悪いのは日高先生だけじゃないでしょ?」
新人だけに責任を負わすこの社会が、一番気に食わなかった。
「俺がいじめられてたのは1年の時からです。1年の担任だって無視してたし、他の先生だってそう。みんながみんな、俺を見捨てていたんです。なんで日高先生だけが謝らなきゃいけないんですか。どうして日高先生だけが首を切られなきゃいけないんですか」
確かに日高先生は教師失格なのかもしれない。だったら周りがフォローすればいいだけ。上司が教えてあげればいいだけなのだ。部下のミスは上司のミス。責任も取らないで何が上司だ。
「先生はどうして先生になろうと思ったんですか?」
「……学生時代、いじめられてたから。私みたいな被害者を出さないためにもって……困ってる生徒を助けられる先生になりたくって……でも、今の私は……!」
「理想とのギャップ……ですか。だから辞めたかったんですよね、ずっと。俺はただのきっかけで……辞める理由ができただけ……ですよね」
「……うん」
相変わらず正直すぎるな、この人は。社会人としては致命的なほどに。当然だ、社会人なりたてなんだから。誰かが教えてあげないと一人前になんかなれるもんか。だったら。
「どうせ辞めるなら……やりたいことやってからにしませんか?」
その役目は俺が引き受けよう。
『よく言いますね。やりたいことを何もできずに過労死した人の台詞ではありませんよ』
『だからだろ』
俺だって日高先生と同じだ。俺のような人を生み出したくない。それにこれは、俺のやりたいことでもある。
「一緒にこのクソみたいな環境をぶっ潰しませんか?」
まともに生徒を守れないようなこの学校を。そんな時間すら奪うこのシステムを。ぶっ潰せるのは、一度失敗した俺だけだ。
とりあえずプロローグはここまでになります! メインヒロインが教師……? と自分でも驚いていますが、社会人がやりたくてもやれないことを書けていけたらと思っています。マジで弊社隕石落ちないかなー……。
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