表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/48

日常の変化です!!

 「お、お母さん!!」


 慌てて家の扉を開けて入ってきたのはセツナだった。


 「どうしたの? そんなに慌てて」

 「さっき、八百屋のおじさんから聞いたんだ、お医者さんが来てくれるって。これで、お母さんの病気も治るかもしれない」


 興奮が冷めない様子のセツナ。見つかった目の前の希望に、はしゃいでいる。

 その言葉を聞いたリッカも驚きを隠せないでいる。


 「セツナ、それは本当なの!?」

 「本当だよ。村の皆が呼んでくれたみたい」

 「じゃあ、お母さんが治ったらお礼言いに行かないとね」

 「「うん!!」」


 娘には、普通の顔を見せている母親も、この時ばかりは、嬉しさがにじみ出ていた。

 ずっと夢だった、娘達と一緒に遊んだり、買い物したり出来る可能性が出てきたのだ。嬉しくない訳がない。


 「リッカ、セツナ。ありがとう」


 この子達が居たからこそ、村の皆が協力してくれた。

 この子達の母親なのに情けないな......助けられてばかりだ。病気が治ったら、ちゃんと母親をしよう。


 そう心に決めて、医者がくる一週間という期間を待つ事にした。



☆★☆★☆



 あれから、一週間と二日が経過した。ここが辺境の地だからか、到着が遅れているらしい。確実な連絡手段も無いので、予測でしか言えないが、医者は迷っているのではないかとも考えていた。


 「お母さん~。お医者さんまだかな」


 待ちきれないと言った様子で、ソワソワとしているセツナ。顔は無表情だが、チラチラと扉を確認しているリッカ。


 そんな時。

 家の扉をノックする音が響く。

 

 「セ、セツナが行くよ」

 「私も行くよ」


 二人は、恐る恐る扉に近づいていき、ドアノブを捻り、ゆっくりと扉を開く。

 

 「こんにちは、お嬢さん達。村の人にここの家だと言われて来たんだけど......お母さんはいる?」


 現れたのは、白いマントのようなものを羽織った男。そして、その男の後ろにくっ付いている、小柄な女の子二人。リッカやセツナと変わらないような年齢に見える。


 「だ、誰ですか?」


 始めて見る知らない人に、戸惑うリッカとセツナ。


 「ごめんね、怖がらせちゃったかな? あーえっと......僕は、マッドって言って医者をやってるんだ。この二人は、リーとミー。僕の補助をしてくれる子だ。ちょうど君達と年も近いんじゃないかな」


 そう言って、マッドは、その二人の頭を優しく撫でる。二人とも綺麗な白い髪の毛で、ちょこんと癖っ毛が跳ねている女の子がリー。肩よりも少し長いぐらいの髪の毛を結んで、ポニーテールにしている女の子がミーだ。


 「お医者さん?......あっ、家にどうぞ。お母さんを見て下さい」

  「あぁ、分かったよ。お邪魔させてもらうね。そうだ、リー、ミー。良い機会だし、この子達と仲良くなっておきなさい」

 「「はい」」

 「それじゃあ、ちょっと見てくるよ」


 真っ白な服を(ひるがえ)して、家の中に入って行くのを確認した。


 「失礼するよ」

 「わざわざ遠くからありがとうございます」

 「いえいえ、病人を救うのが僕の仕事ですから。お気にせずに......それでは早速、診させて貰います。能力発動『探索(サーチ)』」


 マッドがそう言った瞬間。ちょうど人間の大きさの魔方陣が現れ、一度だけピカッと光を放った。


 マッドの能力『探索』は、いわばレントゲンのようなものだ。自身が調べたいものを知ることが出来る能力。

 こんな辺境の村に無傷でたどり着くことが出来たのもこの能力のお陰だった。進む道を『探索』で確認し、危険がない場所を進むと言った風に、能力の使い方も様々だ。


 「......む、そうですか」


 すこし、眉を潜めたマッドの口から溢れたのは、驚きだった。それに反応して、不安になる母親。


 「何か問題でもあったのですか?」


 恐る恐るに聞いた、母親が次に聞いた言葉は......


 「貴方の病気を治す事は......可能です」

 「本当ですか!?」

 「ですが、今この場で治すことが出来ないほど病気が進んでいるのです」


 母親の中に湧いた疑問。それは、もう自分の死期が近いということ。治す事は可能だが、ここでは治せない......つまり、静かに死を待つだけ......


 「......そうですか」


 何十何百キロの重りが心に、のし掛かったように重くなる。娘に何も残せないままこの世を去るのだと、母親として何もできずに......


 「僕の研究所に来てくださるのならば......貴方の病気は、治せます」

 「え?」


 マッドは、自信を持ってうなずいている。


 「あ...ありがとう......ございます」


 母親の目からは涙が溢れていた。諦めかけていた夢が叶う日が来る。夢のような日々を娘と遅れると想像するだけで、涙は止まらなかった。


 「明日の朝に迎えに来ます。それまでに準備をしておいてください」

 「はい」


 その時、外でミーとリーと話していたリッカとセツナの二人が部屋に戻ってきていた。

 母親が治ると聞いて、飛び上がって喜ぶセツナと、「お母さん......良かった」と目に涙を浮かべるリッカの姿があった。



☆★☆★☆



 辺りが太陽の光を浴びて明るく照らされる。そして、そんな朝に『デール村』から出ていこうとする馬車が一つ。


 「それでは、出発しますよ」

 「「はーい」」


 リッカとセツナは元気の良い返事をしながら、母親を確認する。流石にベットのまま来るわけにも行かず、馬車の荷台の少しのスペースに寝ている。


 助かる事が分かったからか、いつもより顔色も良く、元気があるように見える。


 ガタゴト、ガタゴトと、車輪が石を踏む音を聞いて、馬車の旅は始まりを告げる。

 と、言っても、マッドの能力『探索』によって、魔物に襲われたりなどの危険も無く旅は終わりを告げたのだが......


 唯一挙げるとすれば、リーとミーと仲良くなったと言う事ぐらいだ。リーは、いつもポケーっとしていて、ミーに面倒を見られていた。どうやら、リーがお姉ちゃんで、ミーが妹らしいが、ミーの方がしっかりしていてお姉ちゃんのようだった。


 そして、旅の後たどり着いた場所。マッドの研究所がある『都市ベール』。

 古代遺産のダンジョンや、海も近く、研究にもってこいの設備の揃っている都市だ。まだまだ、正体不明の過去の遺物が発掘されたり、海から引き揚げられたりする場所としても有名で、その遺物の解明のため研究者が多く集まることから、『都市ベール』は、『研究者の都市』とも呼ばれている。


 都市と、呼ばれるだけあって、頑丈そうな壁に囲まれている。だが、都市の中心にあるであろう大きな建物は、他の建物と比べて一際大きいのが目に入る。


 「あの一番大きな建物では、遺物の解明や、実験をしているんだ。まぁ、名のある研究者にしか入る権限が無いんだけどね。僕みたいな底辺研究者には夢のような場所だよ」


 マッドは、その建物を見ながら遠い目をする。


 「まぁ、すぐに僕も.....」


 マッドが言ったそんな言葉は、誰にも届くことはなく。ただ、空に消えていくだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ