小さき英雄です!!
魔王の脅威は過ぎ去り、始まりの街には、平穏が訪れた。
魔王によって汚染された土地は嘘のように元に戻り、魔王による被害はそれほど大きくも無かった。
異世界は、やはりすごいと言うべきだろう。土魔法という魔法で、壊れた家をすぐに治していた。
色々な人が復興に勤しむ中、私は、冒険者ギルドに呼ばれていた。
「......アイラさん、何やってるんですか?」
ギルドに入ってから目にしたのは、アイラさんが豚に...いや、ギルドマスターにぴったりとくっついてる映像。
しかも、どこか嬉しそうに、その長い耳をピコピコさせている。
「まぁ、僕としては嬉しい限りなんだけどね」
いつものような、豚のコスプレに身を包んだギルドマスターがそう言う。
「あぁ、マナちゃん。僕の部屋に来てくれるかな?」
「え、無理」
反射的にでてきた否定の言葉。ちょっと言い方が気持ち悪いし、アイラさんみたいな人が側に居るのに、よくそんな事を言えるなと思う。
「否定するの早くない? いや、そういう意味じゃなくて、魔王の事についても話しておきたいし......僕が日本人じゃないか? という話もしたから、二人で話そうって意味だ」
「なんだ、そういうことか、それなら最初から、そう言ってくれれば良かったのに」
ギルドマスターの素性については、元々、興味があった。どうやら、本人はSランク冒険者だったようだし、Sランクになる方法を聞くのもいいかも知れない。
「じゃあ、アイラ。ちょっと待っててくれ」
「え、無理です」
去っていこうとしたギルドマスターの言葉に、速攻で拒否するアイラさん。
「ねぇ、もしかして僕。信用されてないの?」
「はい。マナさんみたいな可愛い子と二人きりなんて......マナさんが危険です」
「......泣いてもいいかな」
確かに、変態と二人きりで、密室に行くのは身の危険を感じるけど......
「アイラさん、大丈夫だよ。だって私の方が強いし」
「泣くよ? 本気で泣くよ? 確かに真実だけど、心にグサッときたよ今の言葉!!」
さて、ギルドマスターが突っ込み役になった所で、行くとしますか。
そう思って歩き出した私だったが、ギルドマスターは、まだ、アイラさんを離せないでいた。
どうやら、アイラさんにとって魔王の時のあの出来事は、相当なトラウマらしく、まだギルドマスターにくっついていた。
「アイラ。真剣な話なんだ、待っててくれ」
そう言ったギルドマスターに、まだ、不安そうな表情をするアイラさん。ギルドマスターの服を握っている手に力が籠っているのが分かる。
「でも......ギルドマスター.....まだ、んっ!?」
えーっと。ちょっと待って下さい。今、私の目の前で、ギルドマスターがアイラさんに口付け......キスしたんですけど......しかも、けっこう深いやつ。
「アイラ、大丈夫だ。僕はこれからも君の側に居るから」
「......は、はい」
アイラさんは、頬を淡いピンク色に染めて、ぽーっとした顔でどこかを見つめている。そして、力が抜けたのかペタんと膝を着いた。
見せ付けてるのか? 私の前で、彼女居ますよアピールか? あーもぅ、リア充共め、爆発しろ!!
「じゃあ、マナちゃん行こうか」
「え? あ、はい」
さっさっと歩いていく、ギルドマスターの後を私は、すぐに追いかけた。
長い廊下の先、ギルドマスターの部屋に着く。前回着たときのように、豪華そうな物が多く置いてある。
「成金部屋だ」
ふと、そんな言葉が口から出る。それに、苦笑いで答えるギルドマスター。
「まぁ、これも仕方ないんだけどね。貴族たちが着たときに、このぐらいの部屋がないと、うざったく罵ってくるからね」
貴族とかがこのギルドにくることがあるのか......なるべく、会いたくないな。
そう考えつつ、前回アイラさんと話した時に座った椅子に座る。貴族が使うようなものだけあって、ふかふかとしていて座り心地は最高だ。
「さて、まず最初に。僕の命を救ってくれてありがとう。お陰で、アイラを悲しませずにすんだ。この恩は一生忘れない」
そう言って深々と頭を下げるギルドマスター。
「私が、やりたくてやった事だから、お礼はいいよ......それに、あの言葉で助けたいと思えたし」
死の間際で、アイラさんを想っての言葉。自分より大切な人を守ろうとしたギルドマスターの言葉に私は、この人を助けたいと思った。
ギルドマスターの行動は、普通の人ならやろうと思っても出来ないだろう。
やはり、『英雄』と呼ばれているだけあって、すごい人なんだと改めて感じた瞬間だった。
「ありがとう。そう言ってもらえると、嬉しいよ......あ、そうだ」
そう言ってギルドマスターが立ち上がって、どこかに行ってしまった。
すぐに帰って来たギルドマスターが持っていたのは、10センチぐらいの小さな箱だった。それは、高級そうな柄をした箱で
「これは、ミカド.....あ、えっと、国を納めてるSランク冒険者からの贈り物でね。是非、食べてみてくれ」
そう言われ、高級そうな箱を開けにくいなと、思いながら、開くと......その中身はクッキーだった......
「え!? なんで、この世界にクッキーが?」
驚いている私の姿を見て、ギルドマスターがニヤリと笑う。
「これを知ってるってことは、やはり、君も日本人か......食べてみてくれ、そのままだから」
言われるがままに、小麦色したクッキーを手に取り口に運ぶ。
そして、パキッといういい音と共に、口の中に香ばしい香りと優しい蜂蜜の甘さが広がる。
「おー、クッキーだ。しかも、こっちの方がおいしい」
「驚いただろ。しかも、これを作ったのは、僕のような日本人じゃなくて、元々この世界にいた人間なんだ。僕も最初に見た時は驚いたよ」
「この世界の人間が作った? でも、ゲームの中ではクッキーなんて無かった気がするけど」
私の記憶の中ではアイテムで、クッキーは無かったし、その他の日本の食べ物的なものも、無かったはず。
「ん? マナちゃん今、ゲームの中って言った?」
「え、そうだけど」
いつになく真剣な表情のギルドマスター。
「それがどうかしたの?」
「マナちゃん。ここは、異世界じゃないのか?」
「確かに、異世界だけど、ここは【プレイバーストーリー】のゲームの中でしょ?」
ギルドマスターと私との、少しの違いが、不穏な予感を漂わせる。
「マナちゃんは、どうか分からないけど......僕は、ミーニャっていう変なピエロに、ラスボスを倒せって目的を与えられて、この世界に転移してきたんだ。マナちゃんは違う方法で、この世界に来たの? 日本人なのに、その見た目ってことは、転生してきたんだろ?」
「そう。私は、【ブレイバーストーリー】っていうゲームをクリアした瞬間にこの世界に転生させられたの。ラスボスとして......だけど、私が日本でゲームプレイしている時には『始まりの街』のギルドマスターは、貴方だった」
何か、この世界に大きな事が隠されているかも知れない。得体の知らない何が迫ってきているような、嫌な感覚に襲われる。
「一つ......確認させて......貴方が転移していたのは、何年の何月だった?」
私の中で生まれた、その疑問。その質問はとてつもなく危険で、その答えを聞くだけで、全てが狂ってしまうような気がした。でも、聞かなければいけない気もしていた。
少しでも、この世界の真実を知るために......
「僕は、確か......2035年の...7月ぐらいだな」
どういう事? 私が【ブレイバーストーリー】をプレイしていた時から、ギルドマスターは、このゲームの中にいたのに......時間軸が合わない。
「マナちゃん?」
「私がゲームクリアしたのは、2030年だった......なのに、貴方はすでにゲームの中に存在していた?......」
真実という深い闇がこの時、顔を現した......




